【第146話】夢で逢えたら
今晩は。
今日は満月です。
外は明るく、神秘的です。
ここは?
辺りを見回す。
日本庭園!?
やった!来れた!超空間!
チャポン。
水の音!
カメさん!
(一度だけだ、思い残すことなく話すがよい)
え?一度だけ?
そして目の前には、魔王になって死んでしまった兄。
「メイドンは?」
え?そこ?
ここは素直に再会を喜びましょうよ!
「メイドンは眠っているわ、起こしに行こうよ!お兄ちゃん!」
「そうだね」
ぎゅっ。
!!!!!!!
打打打打打打打打打打、抱きしめられちゃったっ!?
「ん?」
「な、なに?サイザンお兄ちゃん?」
「弟よ、弟は妹か?」
?
「あっ!そうだよ、今は私、女の子だよ、獣人族の!」
「え?ゴブリンの男の子に見えるけど!?」
「え?」
「……妹よ、兄はどう見える?」
「ゴブリンの男の子」
ここは超空間、人によって、見え方が違うんだ!
私は、兄をじっと見る。
自然と涙がこぼれ落ちた。
「泣くな、妹よ」
「……ごめんなさい」
「謝る必要はない。兄は産まれて、親孝行をする予定だ!とーちゃんとかーちゃんを散々泣かせてしまったからな。それに魔王になって鱗の人族を滅ぼしてしまった……だから東の大陸に対して、できることをするつもりだ!」
「お、覚えているの?魔王になったこと?」
「いや、覚えていない」
「……」
「炎の巨人に会った」
「!!!!!!!!」
あ、あ、あの巨人に!?
「兄は真っ白になって、皆のことは忘れるそうだ」
「……そう」
「だが、魂は知っていると言っていた!」
「……!」
「だから妹よ、兄は、お前を思い出せないかも知れないけど、兄に力を貸してくれ!ああ、そうか……獣人族なら、もう妹は他人なのか?」
「そうなるの……かな?」
「……それは悲しいぞ、それはイヤだな……」
他人?違う、魂の系列では、私はこの人の弟であり妹だ!
「血の繋がりはないけど、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ!私だって、お父さんやお母さんには幸せになって欲しいし!サイザンお兄ちゃんだって!」
「そうか!兄は嬉しいぞ!」
え?
ああ、サイザンお兄ちゃんが薄れていく!
時が来たのだ、お兄ちゃんとの邂逅はここまでなのだ!
言いたいこと、一杯あるのに!まだ何も言っていないのに!
そんな!
「お兄ちゃん、私、お兄ちゃんが産まれて、お兄ちゃんを見て、突然泣き出すかも知れないけど、変な女の子とか思わないでね!?」
「ああ、忘れないようにするよ!」
「それから、それから!それから!?」
ふっと消えてしまうサイザンお兄ちゃん。
「か、かめさん!お願い!まだ、言いたいこと、いっぱい、いっぱいあるの!」
(現世で会える)
「でも!朱天童子が言ったわ!ホルダーの記憶は猛毒だって!確かにそう、前世の記憶は邪魔なのよ!」
(それでも会える。出会いを大切にするのだ)
「……ううっ」
私は両手でお顔を覆い、泣き出した。
(泣いてばかりはおれんぞ)
え?
(いい出会いもあれば……)
!
悪い出会いもある!?
ちゃぽん!
か、かめさん?
ダークエルフ!?
いや、それだけじゃない、東の大陸とか言っていたぞ!?
……お兄ちゃん?
我が兄の進む道は、とんでもなく大変な道のような気がしてきた。
ん?
唇が濡れた?
ぱちっ、と目が開く。
どこだ、ここ!?
ぐっ、ち、力が入らない!
全身が痛くて……発熱している?
あ、知っている天井だ。
「……イオリちゃん」
もの凄く掠れた、小さな声しか出ない。
これ、本当に私の声!?
「!」
イオリちゃんの綺麗なお顔が、目の前にあった。
整った爪、握られた綺麗な布。
その布は湿り、私の唇を少し潤していた。
「うっ、ううううううっ」
え?
「……そ、そんなに泣かないでよ」
囁くような私の声。
「うう、アッキー……アッキー……」
亜紀、私のために泣いてくれる人がいるよ、それも一人じゃない。
そうだね明季、私はこの人達の幸せを願わずにはいられないよ。
寮の私のお部屋には、癒やしの波動の結界が張り巡らしてあった。
シンお姉ちゃんとハピ子が両手で印を結び、軽く目を閉じている。
床に座り込み、細く長い呼吸音が規則的に聞こえてきた。
隣のお部屋では、リュートお母さんとニトお父さんが、何やら薬を作っている。
「目が覚めたようじゃな、我はこれで失礼する。シンお姉さま、もう明季姫は大丈夫です」
「ありがとう、ソレル姫」
「いえ、シンお姉さまは私の導きの大姉ですから。キン子、南のダンジョンは二日後じゃ。次の日、倒れた者が続出してな、延期となった。早く元気になれ」
そう言ってハピ子はヨロヨロと立ち上がり部屋を出て行った。
「ハーピー族に伝わる呼吸法を教わった。門外不出だろうに、明季の命が大事だとさ、礼を言わなければな、明季。それとグラウディーくんは無事だ、魔石をだいぶ消費したらいいが、ケインが今補充しに向っている」
こくこく。
「気が付いたか?」
そう言ってお部屋に入ってくるニトお父さんとリュートお母さん。
……あれ、何でだろう?この二人を見ると、なんだか恥ずかしいぞ?
ニトお父さんは私の胸の傷に薬草を塗っている。
「この傷は勇者からの傷、残念だが消えない」
「そんな、アッキー……アッキー女の子なのに……」
悲しい顔をするリュートお母さん。
リュート……お母さん!?
あ!
自然と目が行く、リュートお母さんのお腹。
あああああっ!
そうだった!
どうしよう!?
何と伝えよう?
誰も気が付いていない。
魔力感知も霊視もまだ反応しない。
いや霊視は私のレベル不足だ、レイランお姉ちゃんレベルなら分かるはず。
えーと、えーと?
皆の前では駄目だ。
「汗を拭くね、アッキー」
リュートお母さんの細い指が、私の髪に触れる。
今だ!
(ママ・リュー、二人だけでお話しがしたい、とても、とてもとても、大事なことなんだ)
(え?)
ちょっと驚くリュートお母さん。
(いいわよ、アッキー)
よし、コンタクトできた、後は話すだけだ。
……えっと、どう話せばいいんだ?
次回投稿は 2023/06/04 22時の予定です。
サブタイトルは リュートの想い です。




