【番外編】 ホルダー・グラウディー・ポシェット
今晩は。
予定を変更して、すみません。
番外編をお届けします。
今回のお話しは少し長く、原稿用紙20枚ほどです。
魔族チクリはその魔力に惹かれた。
なんだ?この魔力は?
魔力の量、質、魔王、勇者級ではないか!
このような者が産まれるのか?
母体は?
赤子は大丈夫なのか?
魂・魄・意思。
魂は残るにしても、魄である肉体、方向性である意思、この二つはこれだけの魔力に耐えられまい。
ああ、この赤子は産まれる事ができるだろうか?
死産ではなかろうか?
「し、しぬ?だ、だめ、駄目!たしゅ、助ける!」
人族や妖精族と助けると、感謝の感情がもらえる。
魄のヤツはこれを集めるのに必死だ。
これを一つでも多く集めて、阿騎に許してもらおうと思っている。
愚かな我が魄。
罪は許されぬ、その魂に刻まれるのだ。
消えることはないのに。
「な、なら、そ、れなら、なにをし、したら、ゆ、許される?」
さあな。
取敢えず、王都に向うか。
だが、魄よ、これを助けるのは容易ではないぞ?
鮮やかな魔力に導かれ、魔族チクリは王都ルゥリー・トゥルリーに向かい、鈴の音を響かせ、静かに現れる。
(これほどの生命誕生の魔力に、誰も気がつかない?いったい、何者が生まれるのだ?あのカメなら知っているだろうか?)
そこは王都北区、流れ者達が集まる場所。
ボロボロの住居、異臭が淀み、およそ王都とは思えない場所だ。
その一角で子供が生まれた。
生まれた赤子は産声も上げず、ぐったりとしている。
母親の涙。
周りには薬師らしき者が数名。
家の周囲には、近所の者達であろうか、人垣ができている。
「魔力が足らん、この子はこの世界では生きていけない。魔石から魔力が移ればあるいは」
「魔石ですか?」
魔石は高価な呪物だ。
更に、扱いが難しい。
ある程度の魔力がないと使用できないし、妖精族と違い、人族には魔石との相性もあるのだ。
まず、一般の人族は手が出ないし、手にしても相性が悪ければ、意味が無いのだ。
粒だけでも魔法効果が充分得られるのだが、その粒を使うだけの魔力が人族には乏しかった。
「聖龍門学校に頼むか?あそこの学生達なら!」
「いや、魔石は高価だし貴重だ」
「薬師、どのくらいの数がいるのだ?」
「この状態なら20か30以上であろうか」
「!」
「冗談キツいぜ?薬師さんよ!」
「無理だよ、一つ売れば半年楽に暮らせるモノだぞ」
「行くだけ行ってみるか?」
「わたしも!ポシェットさんには、いつもお世話になっているし!」
「薬師……?」
父親が薬師に尋ねる。
薬師は正直に、静かに首を振る。
その行動が皆に伝わる。
「そうか……無駄か、もう、息をしていない。みんな、気持ちだけで十分だよ」
ポツリと呟く父親。それにあわせ、一気に静まる住人達。
母親は、ポツリ、ポツリと静かに涙を零した。
そこに近づく影。
周囲の者よりさらに異臭を放ち、ヨロヨロと歩く髑髏のような人物。
「よ、よっん、呼んだか?誰が呼んだ?」
愕然とする住人達。
「さ、彷徨う賢者!?」
「け、賢者様が現れた!?」
ふらりと、そこに現れた魔族チクリ。
禍々しい魔力は押さえ、静かに佇む。
「こだ、子が呼んでいる!る!母か?」
魔族チクリは、その痩せた骨だけのような指を赤子の額に乗せる。
(意思がまだ留まっているな?ほう、興味深い、異界の記憶を持っているとは)
(誰?)
(私は魔族の残骸、お前が呼んだのかホルダー?)
(ホルダー?違う、僕はそんな名前じゃない)
(前世の記憶を持つ者をここではホルダーと呼んでいるのだ、まあ能力の再現とか色々あるがな)
(僕は、もう死ぬの?)
(このままだったら、死んでしまうだろうな)
(産まれてすぐだよ?酷くない?)
(世界は無情だ。ここは氷の世界、ン・ドント大陸)
(そんな、残念だな、魔法の世界)
(お前の時間単位で30分程だったら、死を止められるぞ)
(え?たった30分?31分後は?)
(死んでいる)
(どうやるの?30分でも生きられるなら、生きてみたい!)
(そうか、条件が二つある)
(どんな?)
(死を迎えるとき、我に『ありがとう』と感謝を込めて言え)
(わ、わかった)
(もう一つは、今のお前は赤子だ、本能的に母の乳房を求める。母に感謝してその血を貰うがいい、たとえそれが少ない命の時間であってもだ、いいな?)
(血?わ、分かった)
(では始めるぞ、いいかよく聞け、お前は魔力が足りないのではないのだ、この薬師は見立て違いをしている)
(?)
(お前は強すぎるのだ、魔力が強すぎるため、意思と肉体を魔力が破壊するのだ)
(制御できなってこと?)
(ほう、なかなか鋭いな、その通り。魔石があればお前の溢れ出す魔力を吸収し、周囲に拡散、お前は生きながらえることができるだろうな)
(その魔石が手に入らない?)
(そうだ、今からお前の余剰魔力を一時的だが、我が貰う)
(一時的ではなく、随時は駄目なの?)
(扱いが難し、それ程お前は不安定なのだ)
魔族チクリは父親と母親の額に人差し指を当てる。
(聞け、この者の命は一瞬である、魔石があれば生きながらえるが、間に合いそうにない)
(賢者様……そうですか)
(ただし、一度だけなら、母親の乳房を吸うことができる)
(え?)
(この者の命、そこで尽きる。それでもよいか?子はそれを望んでいる)
(は、はい!たとえ一瞬の命でも!この子が望むのなら!)
(なら、事が終わった時、我に感謝の言葉を述べよ、いいな?ありがとうをいうのだ!よいな?)
(は、はい!)
(契約は成立した!)
ひゅっ、と息を吸い込む赤子。
それと同時に甲高い鳴き声が響き渡る。
歓喜に満ちる母親と父親の顔
「うう、賢者様、駄目でしょうか?もう暫く!少しでも!必死に生きようと乳を吸っています。どうかお助けください!」
魔族チクリは万能ではない。しかし人々はそれを求める。
周囲に人が集まり始める。
魔族チクリの魔力は異様で、周囲に脅威をもたらす。
騎士団、王都聖龍門学校の学生、その魔力に惹かれて集まり出す。
「魔石30個?無理だ、相性があるし、30も集まらない、騎士団は?予備があるでしょう?」
「商工会との戦いで使用し、定数が揃わないのだ」
「センバちゃん、何ごと?この人集り、それに何?この魔族級の魔力!」
大空より舞い降りる犬鷲
その凶悪な足の爪には、魔石の詰まった袋がぶら下がっていた。
「いいところに来た!ケイン!その皮の袋は!?」
「これか?魔石だが?いつもの行商だよ」
「幾つある?」
「300」
「!」
周囲の目が、喋る犬鷲に集中する。
期待に満ちた、悲しいまでも切ない視線。
そして魔族チクリと目が合うケイン。
(そこの獣人族、頼みがある)
(さまよう賢者からの頼み?なんだ?)
(その魔石300個、ここに落としてくれぬか?)
(は?)
(ここに落として、忘れろ)
(300個だぜ?)
(我に借りが作れるのだ、魔石300個、安いものだ。我の価値は計り知れぬぞ?)
(……)
(ここの者達は貧しい、魔力も、力も、獣人よ!その器を示せ!)
大鷲はアッサリと魔石をその場に落とした。
ドサリ、と響く重低音。
「センバちゃん、オヤジには内緒な」
そう言って大鷲は飛び立つ。
そしてこの夫婦は魔石を使い、商売を始める。
その商売の後ろには騎士団と魔族チクリが付いた。
魔族チクリは言う、我は、魔石が無ければ生きていけぬ者に興味がある。
そしてこの子供に魔族チクリはその技、術を教え始める。
魔石の影響か、溢れる魔力の成せる技か、その成長はとても早く、半年で10才ほどの少年に成長した。
(グラウディー、お前には溢れる魔力がある、我が技、術を継承するに相応しい、そう思わぬか?)
魔法世界に生まれ変わったグラウディー・ポシェット。
魔族チクリと騎士団の支援を受け、密かに育つ。
そして運命の日がやって来る。
あるひの朝、歌に出会ったのだ。
「え?ええええっ!?こ、この歌!?」
それは、市場の花屋さんが歌っていた歌だ。
時々、ミニコンサート!とか言って歌い出す陽気な女の子。
市場でも有名で、凄い歌い手だ。
その子が歌い出した歌。
これ、ボカロだ!
なんでボカロが!?
ジャラジャラと魔石を鳴らし、女の子に詰め寄るグラウディー。
「ち、ちょっといいかな!?」
「え?え?な、なに?握手はしないわよ?サインもなし!」
「……えっと……今の歌、どこの、誰の歌!?」
「え?なんだ、そっち?これ、ゴブリン族の闘神の歌よ」
ゴブリン?闘神?
「ほ、他の歌も聴きたいけど、駄目かな?」
「おおっうれしいねぇ、でも今日はここまでよ、ポシェット商会の御曹司さん」
「え?僕のこと、知っているの?」
「あははっここらで知らない方がおかしいでしょう?」
ここからグラウディーの旅が始まる。
歌を通し、この歌を伝えた者を探し始めたのだ。
そして辿り着いた一人の女の子。
それは、隻眼の女の子。
その行動、仕草、全て思い当たるのだ。
シュート家・明季。
その声を聞いて息を呑むグラウディー。
容姿は違うけど、この声、彼女ではないのか、と
そして入学試験、入学式、グラウディーは確信を深めていく。
(全てを話すか?僕は、いや僕も前世の記憶がある、と。でも、違ったらただの変な人になってしまう!自称ホルダーはいっぱいいるし。もし違ったら、変な人族に認定され、嫌われたりしないかな?)
(でも、ゴブリンさん達に聞いてみると、彼らはホルダー阿騎と呼んでいる。何らかのことを知っていると、思うんだけど)
だが、彼は明季に打ち明けきれない。
それは心に残る後悔。
僕は彼女に嫌われている。彼はそう思っている。
助けることができなかった。
前世でも、今でも。
(ごめん、クラスで、ぼっちにさせてしまった!パーティー組みたいのに!僕は何でこんなに軟弱なんだ!)
周囲の者達は、グラウディーは身体が弱く、魔石から魔力供給されていると思っている。
実は逆だが、このことは魔族チクリとセンバ騎士団長しかしらない。
心配のあまり、周りの者達は過剰反応する。
両親は先回りをして、クラスメートの親に相談をする。
同じ商売、魔石商の子供達だ。
過保護のあまり、強力な戦士、オークや獣人族、ケンタウロスとのチームを組まないように先手を打つ。
魔族チクリに育て上げられた力は、凄まじく、誰もがその才能を惜しむのだ。
なるべく危険な者は遠ざけるように。
彼は友人、知人、両親から、おとなしく生きるようにと、強要される。
その才能を当てにされ、頼られる。
そして、その言葉に反発することができないのだ。
シュート家・明季。
彼女に近づきたいのだが、周りの者達が全力で阻止をする。
(僕は、いつになったら勇気を手にすることができるのだろう?いつも、いつも流されてしまう!目の前に、彼女がいるのに!)
(君ではないのか?君なのでしょう?)
(秋津川さん……)
グラウディー・ポシェットは確信が持てない。
(君がいじめられている時、僕は見ているだけだった。くそっ!今もそうではないか!)
(僕は強くなったよ、もう、君の投げた筆箱、避けれるくらいに!)
(でも、相変わらず弱いんだ、いつになったら君の前に立てるのだろう)
彼は、一粒の勇気を欲した。
次回投稿は 2023/05/30 22時あたりです。
サブタイトルは 謁見 2 です。
前話、いいね ありがとうございます。
テンションが上がり、番外編を書いてしまいました。
あと一編 番外編 ケインとアキ が時期、脱稿します。
近々投稿予定です。




