【第79話】 明日は入学式3
すみません、ちょっと遅れました。
「組み手で後れを取るとは情けないのう、我が鍛えてやろうか、金狼?」
くすくす笑い声が広がる。
「ハハッ、我らが組み手についてこれるか?」
「フッ、鼻血では済まぬ、泣き出すか?」
どんな気持ちで笑っているのだろう?言っているのだろう?
女王のゴキゲンを取るために、笑っているのだろうか?
亜紀は知っている、笑う者は笑われる。
良くも、悪くもね。
「氷獣は手加減してくれません、組み手は慣れていないので手加減が難しいです」
「!」
押し黙る取巻き達。
まあ、黙るだろうなぁ。
あなた達では、氷獣は倒せないから。
「言うではないか、手加減できず怪我をしたと?面白い言訳だな。負け惜しみか?乱に抱かれたまま物言いしても響かぬぞ!」
ハハッ、再び笑い出す取巻き達。
言訳がうまいな。
噂の金狼は、お口が達者のようだ。
母の乳房が恋しいか?
抱かれたままとは情けない!
ハーピーさん達、色々言ってくれるなぁ。
ふん、笑えば笑え。
と思うけど、本心はかなり悔しい。
ここは、落ち着いて、怒らず対応する、つもりだ。
「若輩者が、出過ぎたことを言いました。実は、戦いすぎて身体を壊しております。鍛錬は薬師ニトより止められております。折角の組み手、今回はお断り致します」
ニトお父さんの名前が出ると、ピタリと笑い声が止まった。
「そ、そうか薬師ニトに止められておるのか」
何?この空気?鎮まった?
ニトお父さん、何かしている!?
ハーピーの女王さまや取巻き達を、名前だけで黙らせるくらいのことを?
何をしたんだろう?
あ、ハーピーの女王、目が光った!
また何か言い出すぞ!?
「では、その季羅が持つ朱槍、お前には使えまい。われが使ってやろう。北のゴブリンの朱槍、我こそが相応しいとは思わぬか?」
おお、さすがは女王。
そう、我らが女王にこそ相応しい!
献上するがよい!
まあどうせ名ばかりの偽物であろうが。
次から次にこの人はっ!
さてどうしようか、これは試されているなぁ。
私が身を少し動かすと、ランお母さんは優しく私を大地に降ろした。
「大丈夫ですか?」
ランお母さんが心配そうに尋ねる。
「大丈夫です」
ハーピーの女王の前に進み出る。
身長差は50cm以上?
私は左手を横に伸ばす。
「何のまじないだ?我が前に立って、ただで済むと思うなよ?たとえ子供でも許さん。薬師ニトの名、二度は通用しないぞ?」
パシッ。
「!」
伸ばした手に、朱槍が自ら飛び込んでくる。
「じ、女王!」
一人のハーピーが悲鳴に近い声をあげる。
あ、このハーピーさん、朱槍をしっかり見ている。
「なんじゃ?声を荒げるな、見苦しい!」
「お、お引きくださいっ!」
真っ青なお顔で進言する。
形相が恐怖で引きつっている?
何を感じ取ったのかしら?
「何を言う?朱槍が手に入るのだぞ?まあ朱に塗っただけの槍だろうが、我が手にあれば、名前だけでも利用できるではないか」
バチン!バチンッ!と朱槍から霊音が響き渡る。
「駄目です!この朱槍は本物です!自ら明季姫の手に飛び込んできました!損得や、欲で触っては駄目です!身を滅ぼしますっ!1級の呪具です、いやそれ以上です!」
「馬鹿な!自ら動いたと?呆けたか?大方、風魔法でも使って動かしたのであろうが!」
お顔の色が悪くなり始めるハーピーさん達。
「この朱槍は預かり物、私の意思ではお渡しできません」
ここまでは私が喋っていた。
あ、意思が!
ぶわっ、と髪が踊り、天を突く。
ひっ!
誰かが息を呑んだ。
「これは遙か昔、絶望に苦しんだゴブリン達を慰めた希望槍、そして大地を潤すドライアドの杖である」
……これ、誰が喋っている?ああ、シルバーっちか。
激おこか?なんで?
「おい、明季」
「なに?季羅お父さん?」
「お前、そんな大事な槍なら、ゴーレムの上に忘れたりするなよ……父さん悲しいぞ?」
ええっ?今、言います?それ!
私を支配したシルバーっちは、槍を大地に突き刺した。
ドオオオォン、と低い音と振動が辺りを包む。
突き刺した槍を中心に魔法陣が広がる。
え?
何をこんなに怒っているの!?
どうしたのよ?シルバーっち!?
朱槍は見る見るうちに、根を張り巡らせ、1本の樹木になる。
「ハーピーの女王、抜けるものなら抜くがいい、我らのために死を選んだ、ホルダー阿騎を侮辱すること、許さん」
青ざめるハーピーの女王。
「ハーピー達、いつからそのように他を笑う者なった!あの時、お前達の先祖は勇ましかったぞ!」
え?
嘆いているの?
「この大陸を守るため、弱者のために、命を落としていったハーピー。勇敢なハーピーはもういないのか?無謀とも言えるあの戦い。彼女達は全て戦って死んだ。あのハーピー達の意思は途切れたのか?意思を継ぐものはいなかったのか?」
次回投稿は 2023/04/17 20時頃の予定です。
サブタイトルは 明日は入学式4 です。




