第5話『白い光の中へ』
ミノ迷宮牧場を出発したメリンとロイドは、牧場に近い場所から順に、光の柱を調べて回っていた。
四本目までの調査を終えて、牧場から最も遠い五本目の下を訪れていた。
空まで伸びる白い光を前に、ロイドはじっと立っていた。
緑色の瞳を淡く光らせて、柱を下から上へ見上げている。
「ロイドちゃん、終わった~?」
メリンは柱の周りを一周して、手持ち無沙汰そうにロイドの隣へ戻ってきた。
「観測を開始してから、まだ一分二十四秒しか経っていませんよ」
「時間の流れが遅すぎる~」
口を尖らせながら、地べたに座り込む。
「で~、これも斬れそう?」
「現在観測中です……が、これまでの結果から考えれば、可能でしょう」
ロイドは、右手の刀を握り直して、柱の周囲へ視線を移した。
「ところで~……ロイドちゃんってば、ライラちゃんとずいぶん仲良くなったみたいだね~?」
「そうでしょうか」
「そうだよ~。もし合わない人だったらどうしよう、なんて思ってたけど~、杞憂だったみたいで何より~」
メリンは地面に手をついて立ち上がると、ロイドを見てにんまりと笑った。
「しかも~、一緒にケーキを食べる約束までしてたなんて~!」
「……」
「食事は非効率なんて言ってたロイドちゃんは、いったいどこへ~? なんでなんで~? どういう心変わりなの~?」
ロイドは右肩をつかまれ、ゆさゆさと揺らされる。
視線は周囲に向けたまま、刀を左手に持ち替えた。
「……今回の作戦は、私とライラ様の連携にかかっています。ライラ様とのコミュニケーションも作戦の一部。つまり、私の任務です。それだけです」
「え~? 本当にそれだけ~? ライラちゃんのこと、どう思ってるとかないの~?」
「私はアンドロイドですから、誰かに対して何かを思う、ということはありません」
淡々と返して、肩に置かれた手を下ろす。
一度だけ、目線をメリンに向けて、
「……ただ、今回来てくださった魔女が、ライラ様で良かった。そう、評価しています」
「ロイドちゃん、それって~……」
「——観測が完了しました」
ロイドはそのまま、光の柱へ向き直った。
「結果を報告します」
「あ、逃げた~」
メリンが頬を指でつつく。
「ロイドちゃん、ちょっと変わったね~?」
「機体は正常です。通常時と変わりありません」
「そういう意味じゃないって~、分かってるくせに~」
「……報告を続けます」
「はいは~い」
ニヤニヤと笑いながら、メリンも柱を見上げた。
「この柱も、他の四本と同じ構造です。先ほども申し上げたとおり、安定した電力供給があれば、切断は可能です」
「予想通り~、ライラちゃんにお願いすれば、なんとかなりそうだね~」
「はい。それと、もう一点。こちらを」
ロイドが光の根元を指した。
一見すると、何もないむき出しの地面だ。
けれど、二人の目には、そこから森の奥へ続く魔力の痕跡が見えていた。
「魔力の痕跡も、これまでと同じです。一か所へ向かって伸びています」
「その一か所って、やっぱり~……」
「はい。五本の柱の、ちょうど中心になります」
二人が顔をあげる。
木々の向こうには、薄暗い森が続いていた。
「じゃ、行こっか~」
「はい」
迷うことなく歩き出したメリンの後に、ロイドがすぐに続いた。
* * *
森の中に、ぽっかりと円形の空間が広がっていた。
近づくにつれて、熱くなったり、冷たくなったりを繰り返していた風が弱まっていく。
絶えず聞こえていた雷鳴も、遠くへ行ってしまったように小さくなっていった。
二人は木立の間で足を止め、開けた場所の中央を見た。
「車があるね~」
「先月発売された、新型の軽自動車ですね。家族連れに人気の車種だったかと」
こんな森の奥には、あまりにも場違いな車があった。
すべての窓にカーテンがかけられていて、中の様子は見えない。
エンジンはかかっていないようで、周囲に人の気配もなかった。
「ロイドちゃん。中、確認できそう?」
「スキャンします」
ロイドの緑色の瞳が、わずかに光った。
「……生体反応が一名。種族は、おそらく魔女です。反応が弱いため、意識を失っている可能性があります」
「ふ~ん、魔女か~……どう考えても怪しいね?」
メリンが右腕の円盾を持ち上げ、左手の剣を構えた。
「ロイドちゃんは、あたしの後ろをついてきてね~」
「承知しました。気を付けてください」
「言われなくても~」
メリンが一歩先に出て、開けた場所へ足を踏み入れた。
ロイドが、そのすぐ後に続く。
一歩ずつ、車との距離を詰めていく。
「生体反応は変化無し」
ロイドが瞳を淡く光らせながら、車とその周囲に何度も視線を巡らせる。
「周囲の環境にも、変動はありません」
車から十歩ほど離れた位置で、メリンが足を止めた。
後部座席のカーテンに、かすかな隙間が見える。
「ロイドちゃん」
「確認します」
メリンの肩越しに、ロイドが隙間へ視線を向ける。
そこに、小さな女の子が横たわっていた。
目を閉じたまま、ぴくりとも動かない。
微かに風が吹く。
メリンがまた一歩、足を進め——、
「——魔力反応、急激に上昇」
車内から、青白い光が瞬いた。
膨大な魔力が一斉に五つの方角へ走る。
その先にある五本の柱が、より強い光を放ち始める。
「メリン、至急離脱を——」
ロイドが言い終えるより早く、メリンが振り返った。
ロイドの脇腹に強い衝撃が走る。
「ぐっ……?!」
蹴り飛ばされた身体が、地面から離れる。
回転する視界の中で、円盾を頭上へ構えるメリンの姿が映った。
いつもと同じ、ゆるい笑顔を浮かべながら、
「あとは任せるよ~、ロイドちゃん」
目が合った、次の瞬間。
轟音とともに、メリンの姿は白い雷光の中へ消えた。




