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普通の魔女と、グレーの家族  作者: ネコメガネ
第二章『赤色の魔法』
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幕間『魔法の代償』


 都市に立ち並ぶ高層ビル群の中に、古びた六階建てのビルがあった。


 その二階、外観には似合わない、綺麗に整えられた部屋の中で——、


「なーにをしてくれやがってんですの! このスカタン!」


 黒い軍服を着て、カールのかかった紫色の髪を振り回しながら、少女が怒鳴った。


 虹彩騎士団の減法部隊『紫色』を冠する少女で、


「ご、ごめんったら。ちょっとは落ち着きなさいよ、ポルフォル」


 その正面に座り、ドン引きした様子で、コッホは両手を合わせた。


「落ち着けですって?! ごめんで済んだら、警察も! 虹彩騎士団も! 猫も杓子も要りませんのよ!」


 ポルフォルと呼ばれた少女が机を叩いた。


 ばんっ、と音を立てて、机の上に積まれた何枚もの書類が崩れた。


「機構の申請は承認されたし……」


「その申請は! 機構を使っていいという意味ですの!」


 ポルフォルは、書類の一番上に見える『市街地における火器使用について』と書かれた始末書を指す。


「街なかで重火器を一斉掃射していいという意味ではありませんわ!」


 ポルフォルは肩を上下させながら、


「おかげで関係各所へ頭を下げて回ったのは、わたくしですわ……どうして加法部隊はこうも自分勝手な方ばかりなのかしら……」


 机に突っ伏して、恨めしそうにコッホを睨みつけた。


「少しはメリン先輩を見習ってほしいものですわ。穏やかで! 常識的で! いつも周囲への配慮を忘れない、あの姿勢!」


「あいつも、屋外訓練場で壁壊してなかったかしら」


「ふん! ちゃんと管理された場所で、適切に申請を出したうえでの破壊ですわ。規則違反はしていません。どこかの誰かさんと違って」


 しばらく睨み合って、


「——はぁ。本当に、悪かったわ。ごめんなさい。反省してるから、そろそろ許してちょうだい」


「……信用できませんわ」


「ほら、お詫びにこれ、あげるから」


 コッホは白衣のポケットへ手を入れた。


 細長い封筒を取り出して、机の上へ置く。


「何ですの、これ」


「温泉旅館の宿泊券。あの有名な『おにおこ温泉』のやつよ。鬼のように怒ってる今のあんたにピッタリじゃない?」


「しばきますわよ?」


 ポルフォルは封筒を手に取り、中身を取り出した。


 券には、紅葉した山々を背に、露天風呂と木造の旅館が写っていた。


 ポルフォルはその鮮やかな写真を見つめる。


「……こんなもので、わたくしを宥めようだなんて、傲慢ですわ。ですが——」


 すっ、と券を封筒に戻し、軍服のポケットにしまい込んだ。


「差し出されたものを無下にはしません。これはちゃんと受け取りますわ」


 そのまま踵を返し、扉へつかつかと歩いていった。


 廊下へ一歩踏み出たところで、振り返る。


「感謝はいたしませんけどね! ごきげんよう!」


「はいはい」


 強めに閉められた扉の先で、軽快にスキップを踏む音が聞こえた。


 遠ざかっていく音を聞きながら、コッホはにやりと笑みを漏らす。


「……チョロいわね。でも、まあ」


 机に残された始末書をまとめ、いちばん上の一枚を手元へ引き寄せた。


「ちゃんと書いてあげるか。面倒だけど」


 深いため息をついて、ボールペンを手に取った。


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