中枢の底
ドスン、と重厚な鉄の非常ハッチが閉まり、背後の崩落音が劇的に遠ざかった。
ゼノとエリアナは、錆びついた螺旋階段を転がり落ちるようにして下り、空間の底へと着地した。
そこは、上のドックの喧騒が嘘のように静まり返った、巨大な半球状のドーム空間だった。何十年もの間、誰の呼吸も許さなかったような、古い埃と古い真鍮の冷たい匂いが立ち込めている。
「……静かすぎるわね。」
エリアナが短剣の柄に手をかけたまま、警戒するように周囲を見回した。
彼女の呼吸の音が、空間全体に不気味なほどはっきりと反響した。
空間の中央には、宙に浮かぶ巨大な「真鍮の多面体」が配置されていた。それはまるで、無数の歯車が組み合わさってできた精緻な心臓のように、青い燐光を帯びて微かにハミングしている。
「これだ。これが第一リアクターの『濾過中枢制御盤』だ」
ゼノは膝をつき、制御盤の真鍮の表面に手を置いた。
その瞬間、彼の王家の血脈が、かつてない強さで脳髄を震わせた。頭痛ではなく、まるで冷たい地下水が脳裏に一気に流れ込んできたかのような、超感覚的な「情報の奔流」。
台座から放たれた青白い光が中空に広がり、チカチカと点滅する立体的なホログラムを投影した。
浮かび上がったのは、巨大な大陸「アトリア」の縮小地図だった。
だが、その地図は一目でわかるほど不気味に変色していた。大陸の全土が、まるで錆びついた鉄板のように赤茶色に蝕まれており、かつて王国があった各地に点在する「小さな光の点(リアクター群)」が、半分以上灰色に沈黙している。
地図の隅には、古代ヴァルデン王国の言葉で不吉な警告ログが点滅していた。
──『濾過中枢:第一から第八、目詰まり検出。循環圧力:許容限界突破。アトラス自律浮行高度、危険領域へ遷移中』。
「これは……何なの?」
エリアナがホログラムに近づき、息を呑んだ。
「各地の光が消えているのは……」
「ギデオンの言ったことは本当だったんだ」
ゼノは制御盤の内部にピンレンチを差し込み、配線の接触を確認しながら呟いた。
「アトラスは息絶えようとしている。この第一リアクターが暴走していたのは、他にあるリアクターが次々と目詰まりを起こして停止し、その分の過剰な負荷が、この第一系統に一気に逆流して押し寄せていたからだ」
ゼノは台座の横にある古い記録板の接点に、精密ドライバーの先を当てて微調整した。
青い光が明滅し、さらなる断片的な図面が空中に映し出される。
「俺がリアクターを完全に止めていなければ、この中枢が過負荷で自己破裂し、アトラス全体の循環系が急激に逆流して、今頃大陸そのものが空中分解していた。止めたのは正しい判断だったんだ。だけど──」
ゼノは、ホログラム地図に浮かぶ、すでに完全に灰色に沈んでいるリアクターの点を指差した。
「この第一リアクターは、大陸全体の巨大な『呼吸システム』の、たった一つのバルブにすぎなかった。他のすべてのリアクターが、同じように目詰まりを起こして壊れかけている。アトラスを支えている浮力と濾過の仕組みそのものが、完全に摩耗しているんだ」
「世界の根幹が……故障しているというの?」
エリアナが、震える声で尋ねた。
「ああ。部分的な修理じゃもう追いつかない。世界全体が、巨大な故障の渦の中にあるんだ」
ゼノは静かに立ち上がり、台座からピンレンチを引き抜いた。
真鍮の多面体は、主を失ったかのように、冷たい青い光を細く明滅させながら、暗闇の奥で静かにハミングし続けていた。




