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鉄錆の王国  作者: VEPLE
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帝国突入

ドックの重厚な鉄扉が、爆圧によって紙切れのように引きちぎられた。

熱風と黒煙が、赤く染まった中枢ドックを吹き抜ける。古い潤滑油の焼ける匂いと、大気を引き裂くようなオゾンの焦げ臭さが一瞬で充満した。


「突入! 抵抗する者は脚を撃ち抜け!」


ギデオンの声は、爆音の余韻のなかでも驚くほど冷徹で、よく響いた。

彼が身にまとうのは、帝国が誇る「鋼灰色スレートグレー」の魔導甲冑だ。その表面に彫られた紋章が、オゾンを帯びた青白い火花を散らしながら、周囲の暗闇を冷たく照らしている。

背後から、銃剣を構えた帝国軍の魔導歩兵たちが、煙の壁を割りながら無駄のない動きで展開していく。


「──殺すな。」


ギデオンは短く付け加えた。


「王家の血脈は生きたまま回収する。手足を落とすのは構わんが、心臓だけは撃ち抜くな。アトラスの頭脳を起動させるための『鍵』だ」


彼にとって、この探索は単なる反乱軍の掃討ではない。

高度を落とし続ける大陸アトリア。その崩壊を食い止めるために、帝国の魔導局が導き出した唯一の活路──それが、旧王国の第一リアクターの解析であり、それを起動させることのできる「王家の血脈」の確保だった。

旧王国の遺物をコントロールし、世界を正しく延命させる。その帝国の「ことわり」の前には、下層民の命も、反乱軍の意地も、すべては些末な誤差にすぎなかった。


「防衛線を死守しなさい! ゼノに近づけるな!」


エリアナが叫び、鎖鞭剣を振るった。

蛇のようにしなる鋼の刃が、突入してきた兵士の魔導盾を強打し、凄まじい火花を散らす。

だが、帝国軍の包囲網は、潮が満ちるように冷徹かつ確実に、彼らを追い詰めていった。古参兵たちが築いた即席のバリケードは、魔導炸薬の二波、三波によって次々と瓦礫へと変えられていく。


「エリアナ、もう持たないわ!」

ミラが短剣の柄を握りしめ、冷汗を流しながら叫んだ。

「奴ら、本気で私たちを殺しに来ている──いや、ゼノ以外は全員『排除』でも構わないという構えよ!」


ミラの言う通りだった。

ギデオンの部隊は、ゼノがいる中枢の方向に対しては決して殺傷性の高い魔導魔法を使わない。その代わり、エリアナたち防衛部隊に対しては、無慈悲な銃弾と冷徹な包囲網で確実に息の根を止めに来ていた。


その頃、ゼノは背後の第一リアクターのコンソールにしがみついていた。


「くそっ、この音は……!」


ゼノはコンソールに耳を押し当て、内側の音を聞き取ろうとした。

金属が悲鳴を上げている。

ただの軋みではない。第一リアクターの深部から、地鳴りのような「重い超低音」が響いていた。それは、まるで巨大な肺が、吐き出す空気を見失って破裂しかけているかのような、不気味な脈動だった。


真鍮製の巨大な円筒形リアクターの表面には、無数の配管が血管のように張り巡らされている。

その配管のいくつかの継手から、青白い蒸気がオゾンの匂いとともに噴き出していた。

コンソールの中央には、かつて見たこともないほど複雑な目盛りが刻まれた真鍮の圧力計が配置されていたが、その三本の指針は、すでに許容量を示す「赤の領域クリティカル」を遥かに超え、狂ったように細かく振動している。


「おい、エリアナ! 戦っている場合じゃない!」


ゼノは喉が裂けるほどの声で叫んだ。


「このリアクター、圧力が異常上昇してる! 内通者が発信石を使った時の魔導波か、さっきの突入の爆破衝撃が、第一系統のバルブに干渉したんだ!」


「何ですって?」

エリアナが帝国兵の槍を受け流しながら、驚愕の声を上げる。


「このままだと……!」

ゼノは、内部に張り巡らされた金線が、ドクドクと不規則に脈動するのを見た。

王家の血脈がもたらす「理解の濁流」が、彼の脳裏に直接、最悪の図面を描き出す。

「このリアクターは、エネルギーを濾過して安定させる装置だ。だけど、出口が塞がれたまま圧力が上がれば、内側から自己崩壊を起こす。そうなったら──この旧水門施設だけじゃない。上にある吸気山脈の地盤ごと、すべてが砂のように崩れ落ちるぞ!」


その言葉は、ドック全体に冷水を浴びせたように響き渡った。


「馬鹿な。旧王国のリアクターが、それほどの暴走を起こすはずがない」

ギデオンが煤煙のなかから歩み出て、その冷徹な双眸をゼノに向けた。

「あれはアトラスを浮揚させるための、不滅の心臓のはずだ」


「不滅のわけがあるか!」

ゼノはコンソールを殴りつけた。

「どんなに優れた機械だって、手入れを怠って、無理に回せば壊れる! 頑丈な鉄の箱だからこそ、破裂したときの被害は計り知れないんだ。帝国も、俺たちも、この部屋にいる全員が、地底の泥に押し潰されることになる!」


ギデオンの足が止まった。

その鋼灰色スレートグレーの兜の奥で、彼の知性が、ゼノの言葉の真偽を瞬時に演算していた。

ゼノの目は、嘘をつく者のそれではない。何よりも、リアクターから漏れ出す青い蒸気の量が、物理的な限界を示していた。


「……標的の回収を一時保留する。」

ギデオンが手を挙げ、帝国兵たちの動きを止めた。

「技師の少年。お前なら、それを止められるのか」


ゼノは、目の前で狂ったように激震する、第一リアクターのメインレバーを凝視した。

赤錆がこびりついたその巨大なレバーは、まるで「触れる者を拒む牙」のように、青白い火花を散らしながら沈黙していた。

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