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鉄錆の王国  作者: VEPLE
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第一エーテルリアクター跡

鋼鉄の扉の向こう側に広がっていたのは、想像を絶する巨大な「闇」だった。


点検用魔光灯の細い光の矢を向けても、その光源は闇に吸い込まれ、天井すら見えない。ゼノたちが湿った石段を下りていくと、彼らの靴音が、まるで巨大な大聖堂のなかにいるかのように何重にも反響した。


やがて、エリアナが魔光灯の出力を最大まで上げた瞬間、その空間の全貌が眼前に浮かび上がった。


「これは……」


エリアナが、息を呑むような声を漏らした。


頭上には、幾百、幾千もの巨大な青銅製の歯車、太いピストンシャフト、そして吸気山脈の岩盤に直接噛み合わされた超巨大な吸気ダクト(インテーク)が、静止した巨獣の骨格のようにひしめき合っていた。

その空間の中央に、天を衝くようにそびえ立っているのは、直径二十メートルを超える巨大な強化ガラスの円筒──リアクターの「心臓部コア」だった。

ガラスの内部では、澱んだ深い闇のなかで、淡い青い光の粒子が、まるで不気味な生き物の触手のように渦巻いて震えている。


「ここが、第一エーテルリアクター……」

ミラが胸当てに手を当て、畏敬の念を込めて見上げた。

「ここで、王国を復興させるための、無尽蔵のエーテルエネルギーが作り出されるのですね。」


「違う。」


ゼノは工具箱を抱え直し、コアの直下から四方に伸びる、無数の銅製配管パイプの束を冷徹な目で見つめた。


「エネルギーを生産する『発電所』じゃない。配管の向きが逆だ。山脈の外側からエーテルを引き込み、このコアを通して、また山脈の奥へ還している。」


「逆……? どういうことよ、ノア。」

エリアナが怪訝そうに問いかけた。


「これは延命装置フィルターだ。」

ゼノはコアの接続バルブを凝視した。

「大気から取り込んだ不安定で破壊的なエーテル粒子を、このコアで安定化させ、無害な循環エネルギーとして大陸全土の伝達回路グリッドへ還す。つまり、アトリア全土の浮力と環境を支える『心臓』そのものなんだ。……エネルギーを無から『創る』魔法の装置なんかじゃない。」


エリアナは息を呑んだ。

ゼノの「技師としての観察」が、王国の歴史がひた隠しにしてきた、アトラスという環境維持システムの致命的な現実を、一瞬にして暴いたのが分かった。


彼らが「復興のエネルギー源」と信じていた場所は、実際には、大陸の落下を物理的に食い止めるための「延命装置」に過ぎなかったのだ。


その時だった。


ゼノがコアの前に置かれた、真鍮製の巨大な中枢制御盤コントロール・コンソールへと一歩近づいた、その瞬間。


──カチャリ。


誰も触れていない制御盤の内部で、重厚な機械式ロックが自律的に外れる音が響いた。


同時に、ガラス円筒のなかの淡い青いエーテル流が、まるで彼の存在を察知したかのように、眩いばかりの純度の高い「青」へと激しく光り輝いた。

ドックの比ではない、**「焼けた埃のような、どこか甘いオゾンの混じった独特の金属臭」**の嵐が、空間全体に吹き抜ける。


制御盤の真鍮板に施されていた古い王国整備刻印が、カチャカチャ、カチリと音を立てて自律的にスライドし、その上に、王国文字のホログラムが浮かび上がった。


『レガリア認証──セロン王の直系、ゼノ・ヴァルデン。』


澄んだ機械音声が、十数年の沈黙を破って、大空間に響き渡った。


『第一リアクター緊急バイパスシステム起動。中枢の停止シーケンス、あるいは安全遮断回路の選択権を、現在の監視者へ委譲します。』


エリアナとミラ、そして古参兵たちが、その光景に言葉を失ってゼノを見つめた。

ゼノは、光り輝く制御盤の前に立ちすくみ、自らの工具箱の取っ手を強く握りしめた。


施設は彼を「王子」としてではなく、この暴走しかけた巨大な心臓を制御すべき「最後の技師(監視者)」として、完全に認識したのだ。

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