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異世界旅行社企画課の業務は  作者: 滝神淡


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第13話 スランジャルバ王国

「テレポーテーションってほんと凄いですね。こんな便利な魔法あったら良いなランキング1位ですよ」

 多田がそう言うと沢口も同意を示す。

「ええ、これは僕も欲しいですね。もし使えるようになったら車は売っちゃいます」

「電車とか飛行機代も掛からなくなりますよね、超エコですわー」

 そんな二人の会話を見ていたムムが口を挟んできた。

「あなた達の国には美味い酒がありますか?」

 多田は頷く。

「ええ、日本酒というのがありますよ」

「それは貰うことができますか?」

「いやいや、私達から直接現地の人に何か渡すのは禁止されているんです」

「何とかならないですか?」

「いやー……そう言われてもなあ」

 多田は日本のビジネスマンらしく曖昧な笑顔をして、困ったので沢口の方に目を向ける。沢口はそのサインを直ぐに察知し、割って入った。

「王家の方に問い合わせてみると良いと思います。例えばエウリナさんに頼んでみるとか。日本酒が王家に献上されているかどうか分かりませんが、たぶん保有されていると思いますよ。我々のような観光業者が換金のために持ち込んだ物資の中にもお酒がけっこうあったと思います」

「隠れてちょっと持ってきて渡してくれたら嬉しい」

「はっはは、これはなかなか手強い。バレたら私達、もうこっちの世界に来れなくなっちゃうんですよねぇ」

 ムムは殊更に弱々しく杖にしがみついて俯いて見せる。

「飲みたい、老い先短い老人の頼みだと思ってどうか」

 わざとらしいムムに対して多田が突っ込みを入れる。

「ムムさん、こっちに来る前エウリナさんから袖の下貰ってたでしょう? それくらいお達者ならまだまだ先は長いですよ」

「私はそのようなものは貰っていません」

「貰ってたじゃないですかーわざわざ手を出してこう、クイクイって催促までしてー」

「え?」

 ムムは聴こえないふりをする。

「貰ったでしょ?」

「え?」

「あーこれならまだ大丈夫ですわ、大丈夫。まあ王家の方から入手できるようなら、ね? そうしましょう」

「それを裏ルートから入手することに意味がある」

「いやー悪いわーこの人大魔導士なのに悪いわー」

「まあまずは、ね? こっちの世界のお酒を今度ご一緒しましょう、ね?」

 沢口が低姿勢でそう言うと、ムムは妥協したような態度を取り、歩き出した。ムムが祭殿の入口にある受付で受付係の女性と何やら話をすると、受付係の女性が書類に色々書き込み、それから外を指差す。ムムが多田達の方を一瞥して外へ出ていく。特に何も言わないし手招きもしていないが、これで手続きは済んだようだ。多田と沢口はムムを追って祭殿を出ていく。

 ムムが歩いていった先には一人の男性が待っていた。ずんぐりした中年でパイプ煙草をふかしている。ずんぐり男性はムムに気付くと急いでパイプ煙草を三回吸い込み、パイプをひっくり返してカスを捨てた。

 ずんぐり男性が何か挨拶らしきことを言ってムムを迎える。多田がスマートフォンを見ると『スランジャルバ語?』とワーニング文言が出ているので『はい』ボタンを押した。するとずんぐり男性が言った言葉が翻訳されて音声が出てくる。

「こんにちは、お待ちしておりました」

 この翻訳アプリは現在のモードで翻訳できない言葉を聴き取ると直ちに別の言語の候補を提示してくれる。随分と高性能だなと思いつつ何で直ぐにスランジャルバ語が候補に挙がってくるのか不思議だ。これで翻訳モードがスランジャルバ語対日本語モードに切り替わった。

「あなたに客人です」

 ムムがスランジャルバ語でずんぐり男性に応じる。ムムは二カ国語喋ることができるようだ。ずんぐり男性がパイプをしまい、沢口に微笑みかける。沢口がずんぐり男性に近付いていき握手を求めた。

「いやーどうもどうもプレアウズさん、本日はよろしくお願いします!」

「よろしくお願いします。今日という日は最高な日です。あなたはショービーさん?」

「沢口です」

「サワグチさん! そうでしたそうでした、今日は良い旅になると確信しています」

「多田さん、こちらはプレアウズさん。タボ村への案内人です。私も役所で顔合わせしただけなので今日で会うのは二回目です」

 沢口から紹介を受け、多田もプレアウズに握手を求めた。

「多田です、よろしくお願いします。今日は素敵な場所へ連れていってくれるそうで」

「よろしくお願いします。それはもう気に入ること間違い無しです」

 プレアウズはとても陽気に話す人柄のようだ。翻訳アプリでは早口を表現できないが実際には物凄く早口でテンション高く喋っている。打ち解けるのに時間がかからなそうだ、と多田は安心した。案内人が気難しい人だったりすると情報が取り辛いからな、話しやすい人物の方が断然良い。今日この案内人からどれだけ有益な情報を引き出せるかがこっちの腕の見せ所ってわけだ。

 沢口がプレアウズに書類を渡し、署名をしてもらう。こうした細かい記録は大事で、怪しい行動をしていないことの証明になる。

 ムムとはここで別れ、多田達はプレアウズと一緒に馬車に乗った。この馬車でいったん衛星都市メルデアの外縁部に向かう。馬車の中で沢口が行先について話し始めた。

「プレアウズさん、タボ村のはずれに変わった湖があると聞いています。その湖には名前が付いているのでしょうか? 正式な呼び名とか」

「名前はあります。そう、あれです、そう……『幸せな鐘の湖』です。そう。綺麗な名前でしょう?」

「なるほど、それは綺麗な名前ですね! 幸せな鐘の湖ですか、へぇー。プレアウズさんはもう何回も行ったことがある?」

「はい、何回も行ったことがあります。私のお気に入りの場所です。私が妻と結婚する前はその湖のほとりでよくお喋りしました。切り株が丁度腰掛に良い形になっていて、そこに並んで座り、お喋りするのです。今日はパンがよく焼けた、掃除をしていたら失くした物が出てきたとか。友人と喧嘩してしまった話もしました」

「おお~それは素晴らしい経験ですね。湖を眺めながらお喋りをする、素敵な場所なんでしょうね。湖のほとりから見る湖の様子は、あのー……絶景ですか?」

「それはもう絶景です! 見渡す限りの湖です。赤や緑の鳥たちが水面で佇んでいます。森と山に囲まれて、まるで絵画のような眺めです」

「いや~素晴らしいですねえ! ただでさえ絶景の、その湖が……えー……年に一回、上の湖と繋がると?」

「上?」

 一瞬の静寂。

 沢口も多田も目を丸くして身を乗り出してしまう。二人の動きは見事にシンクロしていた。

 沢口はこめかみの辺りをポリポリと掻き、伝え方の修正を試みる。

「あのー上というか、あのー……あれ、あれですよ。湖が下にありますよね。そこから上を見上げた所にもう一つの湖があると聞きましたが……別の湖です」

 するとプレアウズが頷いた。

「おお、見上げた所に湖があるということですね! はい、もちろんあります。それはひっそりとした湖でとても神秘的です」

「あー良かったああああああー‼ 一瞬焦りましたよ、上の湖のことが通じないから、もしかして無いの? って」

 沢口は背もたれに深々ともたれかかって脱力した。多田もそれに倣って背もたれにもたれかかった。ここでもシンクロだ。

「いやー心臓縮みましたわー。もし上の湖が無いって話になったらヤバかったですねー今日来た意味無いじゃんってなっちゃいますよ」

 安堵の声を多田が上げると沢口も同意した。

「まったくです。複数人から情報を得ていましたし国の役人にも確認を取っていたからかなり確度は高かったはずなんですよ。ここまで事を運ぶのにも結構な額を投資しているのでボツになってしまったら痛いですよね」

「まーでもボツ案も結構出てるんでしょ?」

 多田自身が同行してボツになった企画は多くないが、営業部で情報収集している段階でボツになる案はかなりの数に上る、と花鳥課長が言っていた。最大の要因は危険性で、観光客を危険に晒す可能性が少しでもあれば社内審査になる。危険が明白なものは確実に落ちるし、この程度なら問題無いのでは、と思ってもボツになることもある。それくらい危険性には神経をとがらせているのだ。観光客が受け入れるべき危険は異世界へのゲートで予期せぬ事態が起こったことによるもののみで、ツアーの内容の方で観光客が不利益を被った場合は最悪だと訴訟に発展する。

「んーまあそれなりに出てますよ。スランジャルバもかなり開拓したので、今探しているのは専ら『皆が知っているわけじゃないけど良いところがあるよ』ってラインです。そうするとガセネタもよく掴まされますし」

「世知辛いですねー。じゃあ色んなガセネタもある中を当たりになりそうな話に辿り着くように縫って進んでいくわけですね?」

「はい、企画部の方にはなるべくちゃんとした情報が上げられるように努力していますよ、可能な限りは」

「いやー流石ですわー沢口さん営業マンの鑑ですねマジで」

「いやー必要に迫られてやっているだけですよ。鑑っていうよりせいぜい『鑑』から部首だけ残したような感じです。お給料のためにやってますってだけです」

「んーうん、まあ色々ありますよね~」

 多田は言われた意味がよく分からなかったためてきとうにお茶を濁した。沢口は時々小難しい表現をする傾向があり、そんな時多田はついていけない。

 プレアウズは外をちらりと確認すると何かに気付いたようだった。

「ああー! ああー! 皆さん、せっかくだからここの名物を食べましょう! 運転手さんそこの道端で止まって下さい!」

 唐突だったので沢口も多田も驚いた。一体どういうことなのか理解する前に馬車は停車してしまい、プレアウズは運転手にお礼を言うとさっさと降りていってしまう。沢口は慌てて現地通貨を取り出し、運転手へ渡した。この通貨はスランジャルバ王国とグリウェンテ王国で共通で使えるものだ。

「プレアウズさん、いきなりどうしたんですか……」

 困った顔をして沢口が馬車を降りていく。多田もそれに続いた。降車した所は石造りの家よりも木造の家屋が多く、街外れといった様相だった。衛星都市メルデアの外縁部を目指していたため、まさに街外れに向かっていたのではあるが。人通りはそれなりにあり、寂れた様子は無い。プレアウズはニコニコしながら一軒の小さなお店を指し示す。

「メッディーナさん、メルデアの名物を食べましょう。せっかく来たのですから!」

「……メッディーナ? あのー沢口です、沢口。食事はタボ村に着いてからで良かったんですけどね、軽い物にして下さいよ」

 お店は道側に小窓があり、そこから焼肉らしき旨そうな匂いが漂ってきている。プレアウズが小窓から店内へ呼び掛けると奥から若い女性が出てきて、そこで三人分を注文してしまった。店の看板にはサンドイッチらしきイラストが描かれている。多田も沢口も目を見合わせて微妙な表情になる。プレアウズが何をしたいのかよく分からない。

 少しすると品物が出来上がってきた。出来上がってきた物を見るとサンドイッチだ。パンの形状が整っていないのは普段見ているものと異なるところだが、日本以外では神経質に整えたりしないだろうということくらい容易に想像が付く範囲だ。矯めつ眇めつ多田はサンドイッチを確認し、感想をぽつり。

「これー……名物なんですか? ここの?」

 プレアウズはそうそう、と陽気に答える。

「はい、この肉はこの地方でしか獲れない貴重なものです。しかも一頭から一枚しか取れない部位を使用しています。私も一度食べてみたかったのです!」

「ふーん……そうなんだ……何か普通に牛肉っぽいけど。うーん……あれ? えー……とプレアウズさんも初めて食べるの? 地元の人じゃないの?」

「ああ、えーはい、地元は地元ですがぎりぎり隣町なのです。地元にも色々あります。さあそこの公園で食べましょう!」

 色々ある、と言われてはしょうがない。色々あるのだろう。そう思うことにして多田はプレアウズと一緒に公園に入っていく。沢口は大丈夫かなぁとぼやきながらついていった。


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