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異世界旅行社企画課の業務は  作者: 滝神淡


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第11話 捜索2

 冒険者ギルドは主要な観光スポットの一つである。ファンタジー世界に来たら冒険者達を見たいと思う人は多い。街で冒険者を見かける事もあるが冒険者ギルドに行けば冒険者に会えると思い込んでいる顧客が多く、冒険者ギルドをツアーに組み込んで欲しいという要望は多い。今ではギルド内に観光客向けの案内を行う係まで配置されるようになって、雇用の創出にも繋がっている。

 ギルドの建物は石造りの家を少し大きくした程度といった感じだ。看板に巻物と羽ペン、剣と杖が描かれているのでこれが紋章なのかもしれない。中に入ると内装は殆ど木造である。冒険者達が集まっているかというと、ガランとしていて一組の冒険者がテーブルでお喋りしている程度。あとは受付の所で女性が立っていて、多田達を見るといらっしゃいませーと挨拶してきた。実はこれらは全て仕込みで、冒険者は暇なグループが交代で居るようにしており、受付も異世界人を見たらいらっしゃいませと言うようにしている。この国・グリウェンテ王国はモンスターもほぼいないため冒険者ギルドも活気が無く、本来は廃れたサロンみたいになっている。観光客向けに冒険者とは何かを説明したりとか冒険者本人による冒険譚を聴く会とかで観光客向けの商売にシフトしたのが今の形だ。

 どうやらここにも佐藤琢磨はいないようだった。流石にここで撮影でも始めようものなら冒険者達が黙っていないだろう。

 建物を出て多田達はまた作戦会議だ。

「ここにもいなかったですね。次どうします?」

 多田が他人任せの質問を投げると沢口が応じる。

「他にも行きそうな場所を当たってみますかねー……」

 そこへエウリナが別の案を出してくる。

「ヤマノさん達と一度合流して情報交換するのはいかがですか?」

「向こうで見付けている可能性もありますしねー」

 多田はそう言いつつ若干焦りを覚えてきた。もっと簡単に見付かるかと思いきや意外に見付からないものだ。佐藤琢磨を放置していると最終的に我々の業界に打撃になってしまうのでここは何としてでも取り押さえたい。とはいえ三人が手分けして散らばるわけにもいかない。俺達もエウリナと一緒でなければ行動できないのだ。

「うーんそうですね……ここはやっぱり山野さん達といったん……お、あれは」

 沢口は喋っている途中で空に何か見付けたようだった。多田も彼の視線を追って空を見てみると、鷹が飛んでいるようだった。その鷹は足にリボンを着けており、冒険者ギルドに所属している事を示していた。

「あれってトレボールさんの鷹じゃないですか?」

 沢口がそう言うとエウリナが肯定した。

「そうです! トレボールさんとスギヤマさんが活動してくれているのでしょう」

 見ている内に鷹が旋回を始める。それはここからほど近い場所の上空だ。

「あれって…………もしかして見付けたっていう合図ですか?」

 沢口がそう呟くとエウリナが首を傾げた。

「そうなのでしょうか?」

 多田は鷹が旋回している辺りから視線を地上へ下ろしていった。そうしたら一直線に続く道路の脇でスマートフォンをかざしながら歩いている人物が目に留まった。着ている服はここの住人の物だが体形と顔が佐藤琢磨ではないかと思われた。もこもこの黒髪で太めである。

「あれ……あいつじゃないですか?」

 多田が言うと沢口が同意した。

「ええ、きっとターゲットですよ、行きましょう!」

 ちょうど佐藤はこちらに向かってくるところだった。沢口を先頭に速足で確保に向かう。佐藤は途中までスマートフォンに夢中だったが沢口が声を掛けようとしたところで気付き、突然逃げ出した。

「あ、おい‼ 逃げるな‼ 佐藤‼」

 沢口は月並みな刑事風の台詞を吐いて追いかける。月並みな台詞ではあるが、人間誰しも同じ場面に遭遇したら大体こう言ってしまうのだろう。かくいう多田も月並みな台詞を吐いてしまう。

「確保ォォー‼」

 これはどちらかというと言いたかった台詞に近い。普段の生活では決して言う事のできない台詞を吐いて多田はちょっと満足だった。

 沢口を先頭に三人で佐藤を追いかける。佐藤は太めで肉を揺らしながら走っていく。沢口は足が速く、すぐに追いついた。しかし佐藤はちょうど果物が並べられている台を引き倒して沢口の進路を妨害する。映画さながらの光景だ。佐藤は追い付かれそうになるとそうやって妨害して逃げていく。

 だが沢口の運動能力は高く、佐藤がゼェゼェ言い始めた辺りで完全に追いついた。沢口が佐藤の腕を掴んで壁に押し付け、佐藤の足を止めた。多田とエウリナも追い付き、三人で佐藤琢磨を囲む。店裏のゴミ箱などが点々と置かれている静かな路地だ。

「佐藤琢磨さんですね?」

 沢口が問うと佐藤は大声を上げた。

「いてぇーな離せよ! 離せ!」

「はいはい、離しますよ。はい、あなたは佐藤琢磨さんですね?」

「いてーなこれ暴力だぞ、帰ったら警察だからな!」

 そう言って佐藤は沢口を撮影し始めた。沢口は顔をしかめた。

「あの、状況分かってます? 撮影止めてもらえますか?」

「そんなん俺の自由だろ。それより暴力どうするんだよ? どんな理由があっても暴力は駄目だろ?」

「あなたが逃げたから捕まえる必要があっただけです、暴力じゃないですよ。あなたはあそこで何をしていたんですか?」

「人間活動~」

「そんな幼稚な……」

 沢口は頭が痛いといった感じだ。まともな会話ができそうな相手ではない。多田は援護に入った。

「ここ無断で撮影しちゃいけないんで、あなたの機材は没収になります。渡してもらえますか?」

「何で渡さなくちゃいけないんだよ?」

「ルールだからです」

「ルール守ってるよ」

「守ってないから言ってます。はい、渡して下さい」

 多田が手を差し出すと佐藤はスマホを遠ざけてなおも撮影を続けた。

「盗ったら泥棒だからな。人の物盗もうとしてますこの人達~」

 スマホに向かって話し掛ける佐藤。多田も本当に話していて頭痛がする思いだった。これはもう手の施しようのない馬鹿だ。

「これもう話しても無駄なんで、ちょっと兵士に来てもらいます?」

 多田がエウリナに尋ねると、エウリナは顎に指を当てて考えるような顔をした。

「うーん……多分、大丈夫です。もうそろそろ時が来ます」

 そう言いながらエウリナは背後に振り向いて、何かを見付けた。

「スギヤマさんが来ました!」

 彼女の声に多田も振り向いた。多田達の背後から二人組がやってくるのが見えた。

 一人は黒い短髪で鼻筋の通った中々のイケメン、この人物が杉山である。背中に大剣を背負い、革鎧を纏っている。

 もう一人は仙人みたいな顔で緑色のローブを纏った中年の男性。こちらがトレボールである。トレボールが杖をかざすと鷹が下りてきて、彼の肩に止まった。

 杉山が来た事で多田達は離れた。これから何が起こるか予想できたからだ。杉山は前に出て佐藤に話し掛けた。

「えーと佐藤さんだっけ? 一度しか言わないからよく考えてどうするか決めろよ? 一つ、お前の持ち物を全て出せ、没収だ。もう一つ、何をしていたか全部話せ。従わない場合強制執行する」

 佐藤はそれに対しても態度を変えなかった。スマートフォンに向かって話し掛ける。

「おいおい見ろよ、冒険者だぜ。しかも日本人! おもしれー、抽選よく当たったよね、ちょっとインタビューしてみまーす! ねーこっちの生活どうでっ」

 佐藤は最後まで言えなかった。杉山が前に手をかざすと突風が起こり、佐藤を壁に叩きつけたのだった。超局所的に吹いた突風は多田達には被害を及ぼさなかった。

「いっでええええええぇぇあ‼」

 佐藤は壁に叩きつけられた無様な格好で叫ぶ。杉山の手は青白く光っていた。これが魔法である。こちらの世界で修業する事で魔法が使えるようになったのだ。佐藤の手から落ちたスマートフォンがガツッと音を立てる。そのスマートフォンの所まで杉山は進み、背中の大剣を抜いた。人間が振り回せるような重量には見えない大剣を杉山は何でもないように構える。

「はーいでは今からこれブッ壊しまーす。よく見ておいてねー見納めだからねー」

「おい……おい、ちょっおい、ちょっやめろお前ちょっお前、こんな事して良いと思ってんのか⁈ おい、日本に帰ったらお前警察、おい! おい、あっ……‼」

 佐藤が喚いている途中で杉山は大剣を振り下ろした。スマートフォンは真っ二つ。それだけでは終わらない。間髪入れずにもう一振り、もう一振り、駄目押しでもう一振り。スマートフォンは完全に粉砕された。

 静かになって数秒。

 それから杉山は宣告した。

「はい完了~。これで消去する手間も省けた。良かったな?」

「何しやがるんだボケェッ‼ お前他人の物を壊したら犯罪なんだぞ! どうしてくれんだよこのハゲ! お前訴訟起こしたるから住所教えろや‼」

 佐藤が怒りに任せて杉山に詰め寄っていく。しかし杉山はもう一度突風を起こした。

「ブゲェアアァッ‼」

 また壁に叩きつけられる佐藤。そこへ杉山はゆっくりと近付いていった。

「はーいではこれからグーパンいきまーす。意識がある内に言っておくねー。これからお前は留置場へ連れていかれて、服も含めて全て没収されて粗チ○を晒しまーす。それから質問に答えるまで拷問でーす。その後罰則の労働も待っていまーす。何か質問は?」

「お前、法律っ……弁護士、弁護士呼べよ! こんな事しっ……」

 佐藤はなおも身勝手な事を喚いたが、途中で杉山の左ストレートがその顔にめり込んで止まった。

「キュルゥゥゥゥゥゥーーーン……」

 意図せず可愛らしい声を出して佐藤はズルズルと壁沿いに崩れ落ちた。

「人の話はちゃんと聞こうな? あーあ、汚い汁が付いちまった」

 杉山は左手をプルプル振った。

 冒険者、強し。


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