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異世界旅行社企画課の業務は  作者: 滝神淡


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第10話 捜索

 グランゼラの外、庭も出て多田が人とぶつかった場所まで出てきた。石畳の静かな道だ。

 多田は笑笑旅行のツアーガイドがタブレット端末で表示した写真を見せてもらいながら話す。

「うーんあの時はっきりと顔を見なかったからなぁ……この人だったような気もするし、そうでなかったような気もするし……」

 結局のところちゃんと分かるわけではない。元々そんなに記憶力が良い方でも無いし。

「それって結局あんまり手掛かり無いってこと?」

 山野がもっともな突っ込みを入れてくる。それを見た沢口が多田を肘でつついてきた。これは盛っておけという合図だろうと思って多田は態度を変えた。

「あいや、多分この人だったと思います! 体形こんな感じだったし! そう、見れば確実に分かりますから大丈夫です!」

 盛りに盛って自信満々に見せる。何かいけそうな気がするという雰囲気を出して、これは無駄ではないと示すのだ。無駄そうだから止めようみたいな流れになってしまったら堪らない。

 目をパチパチさせて山野が訊いてくる。

「えぇ……と、大丈夫なの?」

「ええ大丈夫です、きっと見付かります」

「どこ捜します?」

「そりゃあもう、ねぇ……?」

 そこは多田にプランが無かったので沢口に助けを求める目を向けてみた。すると沢口は眼鏡を直してニヤリとした。

「観光客が行きやすい場所は限られています。対象は配信者でしょう? きっと無断の撮影が目的です。それなら何でもない路地を撮影するとも思えません。映える場所を選ぶと思いますよ!」

 何だか探偵みたいだ! と多田は頼もしく思った。これに乗らない手は無いので多田はそうそう、と話に乗った。

「しかも、奴が逃げていったのはあっちの方向です。あっち方面で映える場所をピックアップすればそんなに多くないはずです。この辺りの地図を!」

 それを聞いたツアーガイド・生駒がタブレット端末をしまい、付近の地図を取り出した。すぐ取り出せるように紙の地図を持っているのは流石ツアーガイドである。ツアー参加者には高齢者も多く、タブレット端末に頼りきりにならず紙も用意しているのだろう。

 皆で地図を囲んで捜索場所を選定していく。まず多田が地図上のグランゼラの辺りに指を降ろした。そして指を動かしていく。

「私がぶつかられたのがグランゼラの前。そして対象が逃げていったのはこっちの方です。だからこっち方面にいる可能性が高いですよ」

 それを見て沢口が目ぼしい場所を挙げていく。

「この方面であればまず挙げられるのがエダイエン教会ですね。次はキングコールズ広場。後は冒険者ギルド。それからワイバーン乗り場なんかも怪しいです」

 山野は隣のチャムラーンと目を見合わせ、それから提案した。

「それなら分担しましょうよ。教会とギルドが近いのでセットにして、広場とワイバーンをセットにすれば二組で回れそうですぜ」

 沢口は肯定した。

「そうですね、二手に分かれましょう。丁度笑笑旅行さんとMTCJで分けやすいですので、それで行きましょう。どちらのセットが良いですか?」

「それじゃ広場とワイバーンの方でウチはお願いします。なんたってワイバーンは撮影したそうですもんねぇ配信者が」

「ははは、確かに! モンスターは異世界の醍醐味ですし、尚且つ浮島へ飛んでいったりするのを撮影できたらさぞ映えるでしょうね。ではウチは教会とギルドを回ります」

「よぅし、決まりぃ! 絶対見付けて丸く収めましょう!」

「ええ、お互い社運、もとい生活賭かってますからね。頑張りましょう!」

 山野、チャムラーン、生駒、ツバ広帽子の男性の四人組がここで別れた。彼らは小走りで駆けていく。

 多田、沢口、エウリナの三人も頷き合い、その場を離れた。早歩きで目的地へ向かう。最初の目的地はエダイエン教会だ。

 石畳に石造りの家が建ち並ぶ街並み。空にはたまに雲以外のものも飛んでいる。まさに中世ヨーロッパ風のファンタジー世界。行き交う人々を避けつつ多田達は進む。

「これって捜しているとスランジャルバに行くのが遅れます?」

 多田は沢口に問いかけた。捜索は大事なのだが金の卵である案件も超絶大事だ。あまり遅れるわけにもいかない。沢口は得意気な顔で答える。

「一時間くらいは捜索に使えます。いや~こっちの世界ってあまりぎりぎりでスケジュール組むとその通りに行かない事多いので余裕を持たせてあるんですよ。例えば待ち合わせしても人がその通りに来てくれないとか、当たり前にありますし」

「うっわ流石第二営業課のエース! 計算され尽くしてますね。あーでも、一時間も余裕持たせてたんですか?」

「そこは余裕を持たせていた部分だけでなく、杉山さんにご挨拶していくつもりだった部分をちょっと、ね? この捜索に参加いただけるので捜索中にお会いできればこちらから伺う時間が省けますし、最悪エウリナさんからよろしくお伝えいただく形にすれば後日にしてしまっても……何てことを考えていました」

 杉山さんとは冒険者だ。さきほどエウリナが言っていたスギヤマさんの事である。MTCJは冒険者に護衛を依頼する事も有り、ちょくちょく挨拶をして良好な関係を保っているのだろう。

「うーわ、そこまで計算してたんですか! マジ頼りになりますわ~!」

 多田は感心しきりだった。スケジュール関連は全部彼にお任せしてしまって良さそうだ。そして彼に任せてしまえば自分はスケジュールを覚えなくても良いというずる賢い裏の顔は見せない事にした。大人の世界で人をおだてるのは大体そいつを利用するためである。

「サワグチさんとても頼りになります!」

 エウリナも話に乗ってきた。あざとく目をキラキラさせている。まずもって彼女も人を利用するためにおだてているのだろう。

 そんな多田とエウリナの黒い思惑を知ってか知らずか沢口は照れたように頭を掻いた。

「いや~僕おだてられると木に登っちゃうタイプだから駄目ですよー? じゃ~頑張っちゃおうかなー!」

 エダイエン教会は幾つもの尖塔を持つ立派な教会だ。側面に大きなステンドグラスが配置されていて観光客の注目を集めている。しかもファンタジーならではなのが、中央の尖塔の上には水晶の様な多面体が浮かんでいる。かなりの見栄えの良さなので多くのツアーの中にこの教会が組み込まれている。

 多田達は15分かけてエダイエン教会までやってきた。ここまで来る途中の道でも対象人物・佐藤琢磨がいないかどうか注意深く見てきた。映えスポットにいる可能性が高いものの必ずしもそうとは限らない。どこかへ移動中だったりすれば何でもない路地にいる事だってあり得る。

 教会の付近にはまばらに人がいた。まずそれらの人々を注意深く見ていく。怪しい人も日本人らしき人も見当たらない。

「しっかし、配信者なんて野放しになったら一番最悪なパターンですね」

 多田がぼやくと沢口も肯定する。

「それが迷惑系配信者だったらと思うと心配です。変な落書きでもされたら本当にヤバイです」

「うへーそれはもう……ブチ○すしかないですねー」

 異世界観光業界にとっては観光価値が最も大事だ。現地に来てその目で見たいと思うように顧客を誘導するためには映像は限られていた方が望ましい。勝手な映像が氾濫してしまっては困る。幸い異世界では生配信ができないので、異世界にいる間に捕まえて機器を取り上げてしまえばぎりぎり防ぐ事ができる。しかしもっと危惧すべき事は他にある。もしその配信者が迷惑系だった場合には破壊や落書きなどして目立とうとする可能性がある。そんな事をされてしまったら観光価値の低下だけでは済まない。考えるだに恐ろしい。

「ええ、こっちは生活かかってますからねー」

 沢口がそう言うとエウリナも同意を示した。

「教会に落書きをしていた場合は罰則無しでは済ませられないです。サワグチさんと沢山の交渉をしないといけません」

「ええーそれは流石に政府と交渉してほしいなあ~そうしないと僕仕事失っちゃいますよ……」

「うふふ、ではそうならないように頑張って見付けましょう」

「ああー僕も見付けたらブチ○したくなってきました~」

 わざとらしく拳を作って笑いを誘う沢口だが眼鏡の奥の目は笑っていなかった。生活がかかったサラリーマンは時々こうなる。

 教会の中も探索してみる。中は概ね想像したようなベンチの並ぶ教会だが、壁画が動いていたり天井からは光の粒が雪みたいに降ってきていたりしている。やはり地球の日常ではお目にかかれない光景だ。意外と中も人が少なく、老年の男性が二人、ベンチに座って話しているだけだった。

 教会から出てくると三人で相談する。

「どうします? この付近もぐるっと見回ってみます?」

 多田が提案すると沢口は違う案を出す。

「聞き込みをしてみるのはどうでしょう? この辺りで」

 エウリナが更に別の案を。

「もう次の目的地へ行きますか?」

 三者三様。すぐには纏まらない。三人であれこれ言ってみたが、最終的に聞き込みをしてみる事になった。

 教会の側面のステンドグラスを眺めながら散歩している老夫婦に狙いを定め、沢口が近付いていく。やはりここは営業マンなので知らない人に声をかけに行くのも躊躇が無い。

「私はこちらの王室の方と一緒に街を見回って異世界人がルールを守っているかどうか確かめています。この辺りに怪しい異世界人を見たりしませんでしたか? 例えばこの世界の人と一緒に異世界人が行動するのがルールなのですが、異世界人だけで行動してしまっているとか」

 沢口は王室のエウリナと一緒にいる事を利用して見回り風を装って老夫婦に話し掛けた。うまいやり方である。老夫婦は婦人の方が話し始めた。

「怪しい人が沢山います。先週そこの通りで八百屋の奥さんがスリに遭ったと言っていました。きっとそれをしたのは公園の向こうに住んでいるティマの息子です。あの家の息子は学校もあまり行かずに不良達と遊んでいます。でもあの家も夫が病気で死んでから色々苦労したとレストランの婦人から聞きました。それから、この前犬を連れているのにクソを回収しないで去っていった人がいました。その人は農機具屋の夫です。彼の息子が犬を連れている時はちゃんとクソを回収するのですが、彼は犬のクソを自由にさせています」

 これは困った事になった。この老婦人は聞き込みの内容を理解せず世間話を始めてしまったのである。そして犬のクソは『犬のフン』と発音する事ができるように翻訳アプリの改修が必要そうである。

「ああー……なるほどぉ……それは、あのーお困りのようですねぇ。ではまああの、そういう所も参考にさせていただきますので、ええ」

 沢口は聞き込みが失敗に終わった事を悟り、さっさと話を切り上げようという顔になっている。

「この教会の草むしりも近所でやろうと言っているのに、端に住む頑固ジジイが草むしりに参加しないのです、とパン屋のクフィルが言っていました。あの頑固ジジイは娘が良い所に嫁いだのですが、あまり帰って来ないので彼は寂しいのだと思います。それから」

「ああーそれはもう大変ですよねぇ! いやー大変参考になりました! ではですね、深刻になりそうな場合役所の方に言っていただいて、という事で、どうもご協力ありがとうございましたー!」

 逃げるように沢口はその場を後にした。いや逃げるように、ではなく、逃げた。

 老夫婦から充分に距離を取ってから沢口はぼやいた。

「あー失敗した……」

「ちょっと人選がまずかったですね……」

 多田が苦笑いで声を掛けると沢口は弱った顔をした。

「あれは延々と続きますね。参りました、聞き込みといってもこんな事があるのかぁ……」

「一筋縄ではいかないっすね~どうします? もう少し何人か行ってみますか?」

「うーんどうしましょうかねぇ……」

 沢口はやる気が削がれてしまったようだ。最初からあんな喋り倒しに遭遇してしまったら無理もない。

 エウリナが少し残念そうにして冷静な突っ込みを入れてきた。

「聞き込みは難しいかもしれません。捜索である事を伝えればすぐに噂が広まってしまい大事になってしまうでしょう。捜索である事を伝えないならば特徴が際立って明確でないと難しいでしょう。ここの人々にとって異世界人は全て変わった人に見えます」

「あ~なるほどですねぇ。まあ配信者なんで撮影していたりすれば一発で分かるっちゃ分かるのですが……それもここの人に言っても通じないですしねぇ。良い案だと思ったのですが、思ったより駄目でしたね」

 聞き込みをすれば目撃情報が得られるかと期待していたが、どうやら諦めた方が良さそうだ。

「それじゃあ少しぐるっとここらを回ってから次の場所行きます?」

 多田が提案するとそうしようという事になった。付近をぐるりと回って次の目的地・冒険者ギルドへ向かった。結局三人が好き勝手に出したアイデア全部乗せになるというぐだぐだ具合である。


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