賑やかな夜
夜の村を、蓮達は慌てて駆けていた。
遠くから、未だに爆発音が響いてくる。
「……まだやってる」
蓮が引きつった顔で呟く。
「意外と元気ですね」
アーサーが苦笑した。
「トリスタン、丈夫」
マーリンがこくりと頷く。
「そこ褒めるところか?」
そんな会話をしているうちに、
爆発音の発生源が見えてきた。
そして――
「イダダダダダッ!!」
悲鳴。
「暴れるな!!」
「大人しくしろッ!!」
数人の里の戦士達が、
一人の男を地面へ押さえつけていた。
服はボロボロ。髭は煤だらけ。
しかも顔面には、しっかり拳の跡までついている。
「だからワシは味方だっつってんだろ!!」
「離せ!!腕が折れる!!」
トリスタンだった。
「…………」
蓮達の足が止まる。
そして次の瞬間。
「っ!!」
トリスタンが蓮へ気づいた。
その目が、一気に輝く。
「おぉ!!」
「蓮!!」
今にも泣きそうな顔だった。
蓮は呆れた顔で片手を上げる。
「おっさん迎えにきたぞ」
するとトリスタンが即座に叫んだ。
「遅すぎだ!!」
「悪かったって!」
蓮が申し訳なさそうに言う。
「ワシずっと戦ってたんだぞ!?」
「死ぬかと思ったわ!!」
「いや途中から爆発楽しんでただろ」
「…………」
トリスタンが目を逸らす。
「やっぱりな?」
その時だった。里の戦士の一人が、
蓮達の後ろを見て目を見開く。
「っ……!!」
空気が変わる。
「大タカ様!?」
その声で、周囲の戦士達も一斉に振り返った。
そこには、静かに立つ大タカの姿。
「……!!」
驚きが広がる。鵺との戦闘後、姿を見せていなかった族長。
生きていた。それだけで、里の戦士達の表情が変わる。
大タカは、押さえつけられているトリスタンを一瞥し――
「離してやれ」
短く言った。
「はっ!!」
戦士達が慌てて拘束を解く。
「ゲホッ!!ゲホッ!!」
トリスタンが涙目で立ち上がった。
「酷い目にあった……」
服の土を払いながら、恨めしそうに蓮を見る。
「お前ら、本当に来るの遅ぇからな?」
「忘れてた」
蓮が真顔で答える。
「鬼かお前は!!」
トリスタンが叫ぶ。
そのやり取りを見て、周囲の空気が少しだけ緩んだ。
だが――
蓮は、ふと眉をひそめる。
「……で?」
視線を向けた。
「さっきからの爆発は何だ?」
その瞬間。
トリスタンが、すっと目を逸らした。
「…………」
嫌な沈黙。
蓮の目が細くなる。
「おい」
「……火薬庫があった」
ボソッと呟く。
「は?」
「だから火薬庫じゃ」
トリスタンが開き直ったように言う。
「里の採掘用か何か知らんが、ちょうど良さそうなのが置いてあってな」
蓮の顔が引きつった。
「お前まさか……」
「陽動にはちょうど良かったんじゃ!!」
トリスタンがドヤ顔で言い切る。
「良くねぇよ!!」
蓮が即ツッコミした。
アーサーも流石に苦笑する。
「だからあんな爆発が……」
マーリンがぽつりと呟いた。
「トリスタン」
「ちょっと楽しそうだった」
「違う!!」
トリスタンが即座に否定する。
「…………」
しかし、誰も信じていなかった。
トリスタンが気まずそうに咳払いする。
「いやほら……」
「せっかくなら派手にやった方が、敵も釣れるじゃろ?」
「途中から完全にノッてただろ」
蓮が呆れる。
「……少しだけな」
「認めたな?」
その時だった。
「…………」
里の戦士達が、何とも言えない顔で火薬庫の方を見た。
遠くでは、未だに小さな火花が散っている。
「おい」
蓮が真顔になる。
「火、ちゃんと消したよな?」
静寂。
トリスタンの額に、
つぅ……っと汗が流れた。
「…………」
「おい」
「……逃げるぞ!!」
「やっぱりかァ!!?」
蓮の叫びと同時――
ドゴォンッ!!!!
再び、火薬庫の方角で爆発が起きた。
「うぉっ!!?」
「ま、まだ残ってたのか!?」
里の戦士達が慌てて振り返る。
ボンッ!!ボンッ!!
立て続けに小爆発。
夜空へ火の粉が舞い上がった。
「あー……」
トリスタンが冷や汗を流す。
「ちょっと導火線長めだったかもしれん」
「かもしれんじゃねぇ!!」
蓮が怒鳴る。
「お前どんだけ仕掛けたんだ!?」
「いやほら!!敵を派手に誘導したかったから……」
「絶対楽しくなってただろ!!」
「…………」
低い沈黙。
全員の動きが止まる。ゆっくりと。
大タカが、トリスタンを見ていた。
鋭い眼光。
「……トリスタン」
「はい」
即答だった。
さっきまでの勢いが消えている。大タカが静かに言う。
「貴様」
「里を吹き飛ばす気か?」
「ち、違う!!これは必要な犠牲というか!!」
「犠牲になりかけてるの里なんだよ!!」
蓮がツッコむ。
その瞬間――
ボゴォォォンッ!!!!
今までで一番大きい爆発。
「まだあったのかよ!!?」
アーサーが目を見開いた。
「さすがにこれは‥‥」
里の戦士達が慌てて走り出す。
「消火だ!!」
「水を持ってこい!!」
「火薬庫に延焼させるな!!」
一気に現場が慌ただしくなる。
その中で。
トリスタンが、そっと後ろへ下がった。
「……逃げるか」
「待てコラ」
蓮が首根っこを掴む。
「イダダダ!!」
「お前も手伝え!!」
「ワシ怪我人なんだぞ!?」
「知らねぇ!!」
引きずられていくトリスタン。
その光景を見て――
「……ふふっ」
小さな笑い声。セシルだった。
「……っ」
自分でも驚いたように、少し目を丸くする。
その隣で、キツツキも小さく笑った。
「賑やかですねぇ」
夜の里に、慌ただしい声が響く。
だが――
さっきまで漂っていた、
張り詰めた空気はもうなかった。




