優しい夢
ただただ静かだった。
音もない。
痛みもない。
「……あれ」
キツツキが、ゆっくり目を開ける。
白い空間だった。
どこまでも白い。
床も。空も。境界すら分からない。
「……ここは?」
自分の声だけが響く。
胸へ手を当てる。そこにあったはずの傷は、消えていた。
「ははっ……」
キツツキが小さく笑う。
「やっぱり私……死んじゃいましたか」
不思議と恐怖はなかった。
むしろ、どこか納得している自分がいた。
あれだけ派手に貫かれたのだ。
生きている方がおかしい。
その時だった。
「キツツキ……」
静かな声。
「っ――」
キツツキが振り返る。
そこに立っていたのは。
「鶴姫様……」
白い着物。長い黒髪。
静かにこちらを見つめる女性。
キツツキは、少し安心したように笑った。
「よかったぁ……」
「最後に会えました」
だが。鶴姫は、どこか悲しそうな顔をしていた。
ゆっくりと、キツツキへ歩み寄る。
そして。
そっと、彼女の頭へ手を置いた。
「……よく頑張りましたね」
優しい声だった。
その一言で。キツツキの表情が、わずかに崩れる。
「……っ」
「あなたはずっと」
「誰よりも里のことを考えていました」
「嫌われ役になってまで」
「ずっと、抱え込んでいたのでしょう?」
静かな声。
責めるでもない。否定するでもない。
ただ、全部分かっていたように。
優しく。包み込むように。言ってくれる。
キツツキの喉が、小さく震えた。
「……でも」
「私……いっぱい嫌われましたよ?」
少しだけ、困ったように笑う。
鶴姫は静かに首を横に振った。
「それでも」
「あなたが里を想っていたことは、本物です」
「……っ」
キツツキの目に、涙が浮かぶ。
「鶴姫様……」
掠れた声だった。
鶴姫は、その涙を見つめながら。
少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「だから――」
「もう、自分を責めなくていいのです」
白い世界が、
ゆっくり揺らぎ始める。景色が歪む。
意識が沈む。
「……え?」
キツツキが目を見開く。
鶴姫の姿が、少しずつ遠ざかっていく。
「鶴姫様……?」
最後に。とても優しい声が聞こえた。
「あなたは、まだ生きています」
そして――
キツツキは、ゆっくり目を開けた。
「……ん」
ぼやけた視界。
木の天井。薬草の匂い。聞こえる人の声。
「……あれ」
目を瞬かせる
白い世界は、もうどこにもなかった。
「ここ……」
見慣れた部屋だった。
鷲の里で使われている、木造の簡素な部屋。
「先輩……?」
ベッドの横。
そこには、セシルがいた。
「キツツキ!!」
セシルが勢いよく立ち上がる。
「目を覚ましましたか!!」
珍しく、感情を露わにした声だった。
キツツキは、ぽかんと目を瞬かせる。
「あれ?」
自分の身体を見る。
胸には包帯が巻かれていた。
「……生きてる?」
間抜けな声だった。
その瞬間。
セシルの目尻が、ぴくりと震えた。
「当たり前です!!」
怒ったような声。
だが。その目は、少し赤かった。
「勝手に死なないでください……」
掠れた声。キツツキは、しばらく呆然としていた。
やがてーー
「……ははっ」
小さく笑う。
「先輩」
「もしかして泣いてました?」
「泣いてません」
即答。
「いや絶対泣いて――」
「泣いてません」
二回目だった。
キツツキは、少しだけ嬉しそうに笑った。
夢の最後の言葉が、脳裏をよぎる。
ーーあなたは、まだ生きていますーー
キツツキは、
そっと天井を見上げた。
「……そっか」
小さく呟く。
「私、生きてるんだ」




