怪物
(チッ……やりづれぇな)
鵺が舌打ちする。
ガァァン!!
大剣と拳が激突。
雷が弾けた。
(連携が成立してきてる)
ギィィィン!!
今度は横から、アーサーの斬撃。
鵺が咄嗟に受け止める。
(騎士の女も動きが良くなってやがる)
最初とは違う。
確実に、自分の動きへ合わせ始めている。
そして――
ドゴォン!!
ランスロットの拳が脇腹へ突き刺さる。
「ガッ……!」
一瞬。身体が痺れた。
(クソが……!!)
鵺の表情が歪む。
(この獣人‥‥‥厄介だな。)
視線が、黒銀の腕甲へ向く。
【ケラウノス】
(この武具がめんどくせぇ……!!)
雷の付与。
直撃すれば、僅かに身体が硬直する。
そして何より――
(戦闘スタイルが俺に似てやがる)
力押し。接近戦。
真正面から叩き潰す戦い方。
だからこそ、噛み合う。
だからこそ、やりづらい。
「クソッ!!」
鵺が初めて、明確な焦りを見せた。
ランスロットが、ニヤリと笑う。
「忠告しといてやる」
「あぁ?」
鵺が睨みつける。
ランスロットは静かに言った。
「――この技は重いぞ」
次の瞬間。
ランスロットが横へ跳ぶ。
鵺の瞳が見開かれた。
そこには――
剣を構えたアーサー。
静かに腰を落としている。
「アルトリア流剣術――」
空気が張り詰める。
アーサーの瞳が、真っ直ぐ鵺を捉えた。
「王牙突ッ!!!!」
ドゴォォォォォン!!!!
轟音。凄まじい突き。
まるで獅子の牙のような一撃が、
真正面から鵺を貫いた。
「ガァァァァァッ!!?」
鵺の身体が吹き飛ぶ。
壁を突き破り、
地下通路を破壊しながら転がっていく。
静寂。
誰もが息を呑んだ。
「やった……のか?」
蓮が呟く。
土煙が舞う。
そして――
ズルッ。何かが動いた。
「……殺す」
低い声。
ゆっくりと、鵺が立ち上がる。
全身が血塗れだった。
だがその目だけは、
さらに狂気を増している。
「殺すッ!!!」
殺気が爆発する。
「絶対に殺すッ!!!!」
ドンッ――!!
地面が砕ける。
鵺が再び突っ込もうとした――その時。
「もうやめたまえ」
静かな声。
その場の空気が止まった。
鵺が眉をひそめる。
「あぁ?」
振り返る。
そこには一人の男が立っていた。
細長い体。不気味な笑み。
まるで蛇のような眼。
「……何で貴様がここにいる」
鵺が低く唸る。
男は口元を歪めた。
「久しぶりですね、鵺」
夜叉。
その幹部の一人。
『大蛇』だった。
「もう君の負けだよ、鵺」
静かな声だった。
だが。
その場の空気が、僅かに張り詰める。
「あぁ?」
鵺が睨みつける。
「俺はまだ負けてねぇ」
額から血を流しながら、獰猛に笑う。
「邪魔するなら――」
大剣を持ち上げる。
「お前も殺すぞ」
すると、大蛇は小さく溜息を吐いた。
「はぁ……」
心底呆れたような声。
「”夜叉”であろう者が」
「こんな醜態を晒しておいて、まだ言いますか」
空気が変わる。細い瞳が、
真っ直ぐ鵺を射抜いた。
「――恥を知りなさい」
「…………」
鵺が黙る。
その瞬間。アーサー達も理解した。
この男もまた、鵺に匹敵する怪物だと。
大蛇は、ゆっくりマーリンへ視線を向ける。
「それに……」
口元が、僅かに歪んだ。
「いい収穫もありました」
「……?」
蓮が眉をひそめる。
だが、その時だった。
「おーい!!」
場違いなほど明るい声。
「鵺さーん!!」
「大蛇さーん!!」
バサァァァァッ!!!!
巨大な影が、上空から舞い降りる。
「なっ……!?」
アーサーが目を見開いた。
そこにいたのは――
巨大な黒い魔獣。
大鴉。
そして、その背へ乗っていたのは。
「えっ……?」
少年だった。
年齢は、どう見ても十代前半。
無邪気そうな笑顔。
だが――
ランスロットの目が細まる。
「……見た目は幼いが」
静かな声。
「血の匂いがする」
アーサーの表情が険しくなる。
「あんな少年まで……」
「夜叉の幹部なのか!?」
少年は大鴉の上から、
ニコニコと手を振っていた。
「あれぇ?」
「鵺さんボロボロじゃーん」
悪意のない声。
だからこそ、余計に不気味だった。
大蛇が静かに告げる。
「彼も夜叉の幹部ですよ」
「八咫烏」
「通称――カラス」
少年――カラスは、楽しそうに笑った。
「姫様が呼んでるよー」
その瞬間。
鵺が盛大に舌打ちする。
「チッ……」
明らかに不満そうだった。
大蛇の視線を受け、乱暴に大剣を担ぐ。
「帰りましょう」
大蛇が静かに言う。
鵺は最後に、ランスロット達を睨みつけた。
「次は殺す」
低い声。直後。
羽ばたきが轟く。
巨大な大鴉が翼を広げる。
暴風。
そして、夜叉の幹部達は闇の中へ消えていった。
やがて、蓮が小さく息を吐く。
「……助かったのか?」
エルメスが、飛び去った空を見上げながら答えた。
「何とか」
「引いてくれたみたいだね」
その時だった。
ガクッ――。
「……っ」
アーサーの膝が崩れる。
「アーサー!!」
蓮が慌てて駆け寄った。
「だ、大丈夫です……」
そう言いながらも、呼吸は荒い。
腕は痺れ、剣を握る手が震えていた。
鵺との戦闘。
それほどまでに、消耗が激しかった。
ランスロットもまた、静かに息を吐く。
バチバチと、ケラウノスから漏れていた雷が消えていく。
「……あの化け物」
アーサーが悔しそうに呟く。
「まだ本気ではなかった気がします」
その言葉に、空気が重くなる。
蓮も否定できなかった。
実際。鵺は最後まで、笑っていた。
エルメスが静かに目を細める。
「夜叉……か」
その声音には、珍しく警戒が滲んでいた。
「厄介なのに目をつけられたね」
「姫様って何なんだ?」
蓮が眉を寄せる。
だが、エルメスは首を横に振った。
「今はまだ分からない」
「ただ――」
飛び去った夜空を見上げる。
「あれほどの怪物達を従えている存在だ」
「間違いなく危険だろうね」
静寂。
その時。
「……うぅ」
小さな声。マーリンだった。
「マーリン!!」
蓮が駆け寄る。
マーリンは薄く目を開け、
苦しそうに顔をしかめた。
「……お腹痛い」
「それだけ言えるなら大丈夫だな」
蓮が少しだけ安堵した。




