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混ざらない魔法

「セシル!! 危ない!!」


マーリンの叫びが響く。

だが、セシルの身体は動かなかった。

脇腹へ受けた一撃。

乱れた呼吸。

崩れた体勢。

避けられない。

鵺の大剣が、そのまま振り下ろされる。


――その瞬間。

「……はぁ」

小さな溜息。


ひらり、と影が割り込んだ。

「あぁん?」

鵺が眉をひそめる。


次の瞬間――

ズンッ。鈍い音が響いた。


「……え?」

セシルの瞳が揺れる。

目の前。自分を庇うように立っていたのは――

キツツキだった。

鵺の大剣が、彼女の背中から胸を貫いている。

赤い血が、刃を伝って滴り落ちた。


「…………」

誰も、言葉を失う。


キツツキは小さく咳き込み、

口から血を零した。

それでも。彼女はいつものように、薄く笑う。


「……まったく」

「世話が焼けますね、先輩」


「な、んで……」

セシルの声が震える。

「どうして……あなたが……」


キツツキは、ゆっくりと振り返った。

顔色は白い。

だがその目だけは、真っ直ぐセシルを見ている。


「私のこと……嫌いだったんじゃ……」

掠れた声。キツツキは一瞬だけ黙り――


「……嫌いですよ」

そう答えた。


「優しくしてくれるところとか」

「不器用なところとか」

「放っておけない顔してるところとか」

静かな声だった。

だが。

次に零れた言葉だけは、どこか震えていた。


「でも……」

血を吐きながら、キツツキは小さく笑う。


「それ以上に‥‥あなたに憧れていました」

その言葉で。セシルの呼吸が止まった。


「……なん、で……」

ぽたり、と。

雫が落ちる。

自分でも、何が零れたのか分からなかった。

視界が滲む。


「なんで……そんなこと……」

震える声。


キツツキは、少し驚いたように目を丸くする。

「あれ」

「先輩、泣くんですね」

静寂。だが――

「……興醒めだわ」


低い声が響いた。

鵺だった。

心底つまらなそうに、二人を見下ろしている。


「くだらねぇ」

大剣を引き抜く。血飛沫。

キツツキの身体が揺れ、

セシルが咄嗟に抱き止めた。

鵺はその光景を見て、鼻で笑う。


「そんなに仲良く死にたいなら――」

大剣をゆっくり振り上げる。


「そうしてやるよ」


振り下ろされる斬撃。

その瞬間――ギィィンッ!!

火花が散る。


「……っ!」

アーサーだった。

両手で剣を握り、鵺の大剣をギリギリで受け止めている。

床が砕ける。腕が軋む。

それでも、彼女は退かない。


「させません!!」

押し返そうとした瞬間――


ガキィィン!!


鵺の剣撃がそのまま叩き込まれる。


「うっ……!」


アーサーの身体が吹き飛ぶ。

瓦礫へ激突。

鵺は心底つまらなそうに吐き捨てた。


「どいつもこいつも……」


殺気が膨れ上がる。


「つまんねぇんだよ!!」




その時だった。


「……許せない」


小さな声。マーリンだった。

俯いていた少女が、

ゆっくり顔を上げる。

その瞳から、いつもの感情が消えていた。


白い魔力が溢れ出す。


白。


それはマーリンがそう呼ぶ魔法。


【光属性】を示す、

彼女独自の分類。


そして――


その白へ、

今度はドス黒い魔力が混ざり始める。


黒。


【闇属性】を示す


白と黒。


それらは"特別な属性"だった。


通常属性――炎、水、風、土。


それらとは違う、

高位に位置する力。


故に、

白は他属性と混ざる。


黒もまた、

他属性と混ざる。


より強力な複合魔法として成立する。


だが――


白と黒だけは違う。


【光】と【闇】


互いが強すぎるが故に、

決して混ざり合わない。


同時制御すら不可能。


それは、

魔導の常識だった。


なのに今。


マーリンは、

その禁忌を無理やり捻じ曲げようとしている。

白と黒が、強引に絡み合う。


ゴゴォォォォォッ


空気が軋む。


大地が震える。


マーリンの周囲で、

暴走寸前の魔力が唸りを上げた。


「混ざれぇぇぇッ」

マーリンが魔力を込める。



そして――


バキッ。

杖に亀裂が走る。


「……えっ」


マーリンの顔が凍る。


次の瞬間。


パリンッ!!

杖が砕け散った。

制御を失った魔力が、周囲へ弾け飛ぶ。


「おい」

鵺が首を傾げる。

「今、何かしようとしたか?」


ドゴォッ!!


鵺の蹴りが、

マーリンの腹へ突き刺さった。


「うっ――!?」


小柄な身体が吹き飛ぶ。


「マーリン!!」

蓮の叫びが響く。


「……っ!!」


アーサーが飛び出す。


決死の斬撃。


真正面から、

鵺へ叩き込む。

だが――


「ぬるいな」


ギィィンッ!!


鵺の大剣が、

真正面から受け止めた。

火花が散る。


「っ……!!」


押し返せない。

圧倒的な膂力。


ガァンッ!!


鵺の強烈な斬撃が、アーサーを襲う。


「くっ――!!」

吹き飛ぶ。


地面を滑り、瓦礫へ激突。

鵺は止まらない。

一瞬で間合いを詰めてくる


「終わりだ」


大剣が振り上がる。

アーサーの瞳が揺れた。


(やられる!!)


その瞬間。


ガキィィィィンッ――――!!



凄まじい衝撃波が弾けた。


「……あ?」


鵺が目を細める。

振り下ろされたはずの大剣が、止まっていた。


「待たせたな……」


低い声。

聞き覚えのある声だった。


アーサーの瞳が揺れる。

「あなたは……」


土煙の向こう。

ゆっくりと現れた男は、

両腕に黒銀の甲冑型遺装武器を纏っていた。


その眼光は、

真っ直ぐ鵺を射抜いている。


「……ランスロット」


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