第二ラウンド
「それでは第二ラウンド、始めましょうか」
キツツキが笑った瞬間だった。
アーサーが一歩前へ出る。
剣を構える。
「行くわよ、アーサー!」
エクスカリバーが声を上げた。
「はい!」
アーサーの瞳が鋭く細まる。
「先手必勝です!」
地面を踏み込む。
ドンッ!! と床が鳴った。
「アルトリア流剣術――」
一瞬で間合いを詰める。
キツツキの目が見開かれた。
「っ、速――」
「獅子王斬!!」
ガギィィィィンッ!!!!
凄まじい衝突音。
キツツキの短刀と聖剣が激突する。
「なっ――!?」
押し負けた。
キツツキの身体がそのまま吹き飛ばされる。
ドガァン!!壁を突き破り、そのまま外へ転がった。
「ぐっ……!」
ミシッ、と嫌な音が走る。
キツツキが顔をしかめた。
(腕……やっちゃいましたか)
「アーサー!!」
蓮が叫ぶ。
アーサーは振り返らない。
「キツツキは私が引き受けます!」
真っ直ぐ前を見る。
「皆さんは先へ!」
そのまま外へ飛び出した。
蓮は舌打ちしながら周囲を見る。
すでに複数の忍びがこちらを囲んでいた。
「チッ……!」
「囲まれてる!」
マーリンが前へ出る。
杖を強く握った。
「どいて」
小さな声だった。
だが、その瞳は本気だった。
「今回は、手加減できないから」
魔力が渦を巻く。
「緑――」
風が収束する。
「ウインドブレイク!!」
ドォォォンッ!!
圧縮された暴風が一直線に炸裂した。
「がっ!?」
「うわぁっ!!」
忍びたちがまとめて吹き飛ぶ。
蓮が思わず目を見開く。
「マーリンさん、やばっ……!」
「今さら?」
マーリンが少しだけむっとした。
***
一方――。
外へ吹き飛ばされたキツツキは、ゆっくりと立ち上がる。
「っ……はぁ」
腕が痺れていた。
(なんですか今の馬鹿力……)
その前へ、アーサーが静かに降り立つ。
キツツキが目を細めた。
「本当に、この前の騎士さんですか?」
「そうですが?」
即答だった。
「別人みたいですね」
アーサーは剣を構え直す。
「今回は、絶対に負けられませんので」
静かな声だった。だが、そこには確かな闘志があった。
「それに――」
アーサーの目が細まる。
「あなたの動きは、もう見切りました」
キツツキの笑みが僅かに引きつる。
(……やりづらいですね、この人)
間髪入れず、アーサーが再び踏み込む。
「また来るんですか!?」
「アルトリア流剣術――」
聖剣が唸る。
「煌牙!!」
ガギィィィィンッ!!!
重い一撃。
キツツキは両腕で受けるが、地面を大きく滑った。
「うっ……!」
アーサーの連撃が続く。
速い。重い。そして、迷いがない。
キツツキが舌打ちした。
「っ……!」
袖の内側から、複数の毒針を放つ。
ヒュンッ!!
だが。
「もう、それは食いません」
アーサーの剣が閃く。
キィン!!キン!!キィィン!!
毒針が空中で次々叩き落とされた。
キツツキの目が見開かれる。
「全部落とすんですか!?」
「同じ手に二度もやられません」
ガギィィィィンッ!!!!
再び剣と短刀が激突する。
火花が散った。
アーサーがそのまま押し込む。
キツツキは歯を食いしばりながら短刀で受け止めるが、完全に押されていた。
「っ……!!」
足元が沈む。
地面へ亀裂が走る。近い。
互いの呼吸がかかる距離。
アーサーの瞳は真っ直ぐだった。
迷いなく、ただキツツキだけを見ている。
対してキツツキの額には汗が滲んでいた。
「はぁ……っ」
肩で息をする。
「はぁ……はぁ……」
腕が痺れる。
まともに受けるたび、骨が軋んだ。
(何なんですか、この人……!)
その時だった。
エクスカリバーが楽しそうに笑う。
「いい顔になってきたじゃない」
「笑ってる場合ですか!?」
キツツキが思わず叫ぶ。
「余裕なくなってるわよ、忍びさん」
「誰のせいですか……!」
アーサーが静かに剣へ力を込める。
「まだです」
ガッ!!!!
キツツキが再び押し飛ばされた。
呼吸が乱れていた。
(まずい……)
本能が警鐘を鳴らす。
アーサーが静かに剣を構えた。
いつもの上段ではない。
剣先を真っ直ぐこちらへ向ける。
一点だけを貫く構え。
キツツキの表情が僅かに変わる。
(何ですか、その構え――)
エクスカリバーが笑った。
「決めるわよ、アーサー!」
「はい!」
アーサーが踏み込む。
ドンッ!!!!地面が爆ぜた。
「アルトリア流剣術――」
空気が震える。
「"王"牙突!!」
一直線。凄まじい速度だった。
「っ!?」
キツツキが目を見開く。
避け――きれない。
ドガァァァァン!!!!
衝撃。凄まじい衝撃。
キツツキの身体が一直線に吹き飛び、建物の壁へ激突した。
「がっ――」
壁が砕ける。
そのまま崩れ落ちるキツツキ。
短刀が、からん、と地面へ転がった。
静寂。
アーサーはゆっくりと剣を下ろす。
「……終わりました」
小さく息を吐く。
キツツキは動かない。
エクスカリバーが楽しそうに笑った。
「ふふっ」
アーサーが視線を向ける。
「その技」
エクスカリバーが口角を上げる。
「完全に自分のものになったわね」
アーサーが少し目を瞬かせた。
「……そうでしょうか?」
「ええ」
エクスカリバーは満足そうだった。
「最初は真似してるだけって感じだったけど」
「今のはちゃんと“アーサーの剣”だった」
アーサーは少しだけ照れたように目を伏せる。
「……ありがとうございます」
その返事は小さい。だが、どこか嬉しそうだった。
「おーい! アーサー!!」
遠くから声が響く。
アーサーが振り返る。
通路の向こう。蓮たちがこちらへ走ってきていた。
「マスター!」
アーサーの表情が少し明るくなる。
蓮は周囲を見回した。
崩れた壁。倒れているキツツキ。
地面へ突き刺さった剣跡。
そして、立っているアーサー。
「……勝ったんだな?」
「はい」
アーサーが静かに頷く。
マーリンが目を丸くする。
「すごい……」
エクスカリバーが得意げに笑った。
「当然よ」
「誰の騎士だと思ってるの?」
「お前が偉そうにすんな」
蓮が即座に突っ込む。
「事実でしょ?」
「否定はしねぇけど」
アーサーは少しだけ困ったように笑った。
だが、その空気は長く続かなかった。
――ゾワリ。
突然。空気が変わる。
蓮の表情が一瞬で消えた。
「……っ」
マーリンも息を呑む。
大タカが鋭く顔を上げた。
「来るぞ」
重い気配。圧力。
まるで空気そのものが沈んだようだった。
ゆっくりと。通路の奥から、一人の男が姿を現す。
長い黒髪。異様な威圧感。
その目だけで、本能が警鐘を鳴らす。
「おいおいおい……随分と騒がしくしてくれたな」
低い声が響いた。
セシルの顔色が変わる。
「――鵺」
その名が落ちた瞬間。
場の空気が、さらに重く沈んだ。




