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待ち伏せ

「セシル!」


マーリンが思わず声を上げた。

薄暗い部屋の中央。

椅子に拘束された少女が、ゆっくりと顔を上げる。

乱れた髪。

少しやつれてはいるが、その瞳にはまだ芯があった。


「……マーリン?」

かすれた声だった。


マーリンが駆け寄る。

「よかった……!」

安堵したように息を吐く。


セシルは少しだけ目を細めた。

その表情が、ほんの僅かに和らぐ。

「本当に……マーリンちゃんですね」


その横で、蓮が小さく肩をすくめた。

「まず俺じゃねぇのかよ」


セシルが視線を向ける。

少しだけ目を見開き、

静かに呟いた。

「……蓮様」


一拍。

「なんで来たんですか」

その場が少しだけ静かになる。


蓮は眉を上げた。

「なんでって?」

少しだけ笑う。

「有望な秘書がいなくて困ってる奴がいるからな」


セシルが目を瞬かせる。


蓮はそのまま続けた。

「迎えに来た」

短い言葉だった。


だが、そこに迷いはない。

セシルは数秒だけ黙り込み、

やがて小さく息を吐いた。

「……そうですか」

ほんの少しだけ口元が緩む。

「それなら、仕方ありませんね」


「何がだよ」


「戻ってあげます」


「上からだな、おい」

小さなやり取りに、

張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。


アーサーが一歩前へ出た。

「下がっていてください」

剣を抜く。

ガキン。一閃で鎖が断ち切られた。


「おお、便利だな」


「こういう時のためです」

足元の拘束も外れる。


セシルはゆっくり立ち上がろうとし、

少しだけふらついた。

「っと」


蓮が肩を支える。

「大丈夫か」


「少し足が痺れているだけです」

そう答えた直後だった。


大タカが一歩前へ出る。

「……ハヤブサ」

低い声だった。


セシルが目を見開く。

「大タカ様……」

一瞬だけ、張り詰めていた表情が揺らいだ。


大タカは静かに頷く。

「無事で良かった」

短い言葉だった。


だが、それだけで十分だった。

セシルは少しだけ目を伏せる。

「申し訳ありません」

「私が捕らえられたせいで……」

唇を噛む。

「私は、里が鵺の手に落ちているとは……」

悔しさが滲んでいた。


だが、大タカは首を横に振る。

「お前が気にすることではない」


「ですが……」

セシルは拳を握る。

「鶴姫様も……」

その名前に、空気が少しだけ重くなる。


マーリンが小さく首を傾げた。

「鶴姫?」


蓮も目を細める。

「誰だ?」


だが、その問いに答えるより先だった。

大タカが僅かに眉をひそめる。

「……静かすぎる」


空気が止まる。


「ん?」

蓮が顔を上げた。確かに妙だった。

外の騒ぎが、思ったより遠い。

見張りも来ない。

誰も異変に気づいていないようにすら感じる。


「おい」

蓮の目つきが変わる。

「これ、妙じゃねぇか?」


アーサーも頷く。

「……はい」

「警戒が薄すぎます」


マーリンの表情も曇る。

「もしかして……」


その瞬間。パチ、パチ、と軽い拍手が響いた。

全員が一斉に振り返る。

部屋の入口。

そこに、小柄な影が立っていた。


「やっぱり来ましたね」

にこり、と笑う。

見慣れた笑顔。

キツツキだった。


「待ってましたよ」

にこり、と笑う。

その場の空気が一瞬で冷えた。


蓮が目を細める。

「……やっぱりお前か」


「はい」

キツツキは小さく首を傾げた。

「せっかくなので、もう少し上手くやってくれるかと思ったんですけど」


「随分余裕だな」


「余裕ですよ?」

くすり、と笑う。

「だって、全部想定内ですし」


アーサーが剣を構える。

「……っ」


キツツキの視線がそちらへ向いた。

「あ」

少しだけ目を丸くする。

「この間の騎士さん」

にこり、と笑う。

「無事に解毒できたんですねー」


アーサーの表情が険しくなる。

「おかげさまで」


「へぇ」


感心したように目を細める。

「思ったより優秀でした」


「褒められても嬉しくありません」


「でしょうね」

軽い調子だった。

だが、その目は一切笑っていない。


キツツキは視線をゆっくりセシルへ向ける。

「先輩」

セシルの肩が僅かに強張る。

「先輩、大事にされてますねー」


「……」


「わざわざここまで迎えに来てもらえるなんて」

少しだけ口元を上げる。

「羨ましいです」


「やめて」

セシルが低く言う。

笑みが少しだけ深くなる。


「でも不思議ですよね」

一歩、前へ出る。

「里を捨てたクセに」


空気が凍る。


マーリンが目を見開いた。

「……っ」


蓮の目つきが変わる。


セシルは唇を噛み、

小さく拳を握る。

「違う」


「違います?」

キツツキが首を傾げる。


「私はただ――」


「結果的にそうなったんですから、同じじゃないですか」

言葉を被せる。

淡々としていた。

だからこそ、余計に刺さる。


「やめろ」

蓮が低く言う。


キツツキが視線を向ける。

「怖いですね」


「煽ってんじゃねぇよ」


「事実確認ですよ」

まるで悪びれない。


そのまま視線を大タカへ移した。

「大タカ様」

にこり、と笑う。

「もう諦めてください」


大タカの眉が僅かに動く。

「……何をだ」


「全部です」

即答だった。

「先輩も」

「鷲の里も」

「鶴姫様も」

笑顔のまま告げる。

「全部、もう遅いんですよ」


空気が重く沈む。

その言葉に、大タカの目が鋭く細められた。

「キツツキ……」


だがキツツキは一切怯まない。

むしろ楽しそうですらあった。

「だから言ったじゃないですか」

小さく肩をすくめる。

「ちゃんと待ってたんですよ」


その瞬間。

部屋の外から複数の足音が響いた。

ダッ、ダッ、ダッ――。


蓮が舌打ちする。

「チッ」


マーリンが顔を青くする。

「囲まれた……!?」


キツツキは嬉しそうに笑った。

「それでは第二ラウンド、始めましょうか」

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