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覚悟の証明

「あんたが、大タカか」

蓮が目を細める。


月明かりの下。

大柄な男は腕を組み、静かにこちらを見下ろしていた。


「ああ」

低い声だった。

「鷲の里、現族長ーー大タカだ」

その一言だけで十分だった。

妙な威圧感がある。


「やっぱり、ずっと見てたんだね」

マーリンが呟く。


大タカは否定しない。

「お前たちが何者か、見極めていた」


「随分慎重なんだな」

蓮が肩をすくめる。


「当然だ」

大タカの目が鋭くなる。

「今の里で、軽率な判断は死に繋がる」


だが、蓮は構わず一歩前に出る。

「話は早い」

アーサーの腕を軽く示した。

「こいつ、毒を食らった」


大タカの視線がアーサーへ落ちる。

黒い痣を見て、わずかに目を細めた。


「……黒睡花こくすいかか」


マーリンが反応する。

「知ってるの!?」


「ああ」

大タカは短く頷く。

「鷲の里でのみ扱う毒だ」

「外部の人間に解毒はまず不可能だろう」


蓮が眉をひそめる。

「じゃあ、やっぱりあんたしかいねぇってわけか」


「そうなるな」


「なら頼む」

蓮が真っ直ぐ見据える。

「解毒法を教えてくれ」


沈黙。

大タカはしばらく蓮を見つめていた。

「断る」


「は?」

即答だった。

アーサーが目を見開く。


マーリンも固まる。

「えっ、なんで?」


アーサーは苦しそうにしながらも顔を上げた。

「お願いです」

「解毒法だけでも……」


だが、大タカは首を横に振る。

「簡単に渡せるものではない」

低い声だった。

「この毒も、解毒法も」

「本来は里の外へ漏れてはならん知識だ」


蓮が舌打ちする。

「そんなこと言ってる場合かよ」

「こっちは死にかけてんだぞ」


「分かっている」

大タカは淡々と返す。

だが、その表情は変わらない。

「だからこそだ」


空気が少し張り詰める。


「中途半端な覚悟の者に協力すれば」

「結果として、ハヤブサもこの騎士も死ぬ」


その言葉に、全員が黙った。


大タカは蓮を真っ直ぐ見据える。

「お前たちは、確かにハヤブサを助けに来た」

「そこは評価する」


一拍。

「だが、潜入は失敗した」


図星だった。

蓮が少しだけ顔をしかめる。


「仲間は負傷」

「敵戦力の把握も不十分」

「この状態で再び鵺に挑めば、次は全滅する」

静かな断言だった。


反論できない。

全部その通りだった。

トリスタンが小さく舌打ちする。

「耳が痛ぇな」


「事実だ」

大タカは冷たく言い放つ。

「今のお前たちでは、ハヤブサを救えん」


その言葉に、マーリンがぎゅっと拳を握る。

「でも……!」


「焦るな」

大タカが遮った。

その声に、不思議と圧があった。

「断ったのは、見捨てるためではない」


蓮の眉がわずかに動く。

「なら、どういう意味だ」


大タカは静かに答えた。

「ワシがお前たちを試す」


「試す?」


「ああ」

鋭い目が細くなる。

「セシルを救う覚悟と力が、本当にあるかどうか」


月明かりの下。

大タカの声音だけが静かに響く。

「それを証明しろ」


静かな森に、その一言が落ちた。


「……具体的には?」

蓮が目を細める。


大タカは少しだけ顎を引いた。

「里の外れに、古い祠がある」


「祠?」

マーリンが首を傾げる。


「ああ」

大タカは続ける。

「かつて里の者が試練に使っていた場所だ」


トリスタンが眉をひそめる。

「忍びの試練場ってわけか」


「そんなところだ」

大タカは頷いた。

「そこにあるものを持ち帰れ」


蓮が腕を組む。

「何を?」


一拍。

「解毒に必要な素材だ」


アーサーが少し顔を上げる。

「……つまり」


「お前たち自身の手で、解毒薬を完成させろ」

大タカが言い切る。


「は?」

蓮が思わず眉をひそめる。

「いや、普通にあんたが作れば早くないか?」


「早いな」

あっさり認める。


「じゃあーー」


「だが、それでは意味がない」

大タカの声色がわずかに低くなった。

「ハヤブサを救うなら、鵺と戦うだけでは足りん」


「……?」


「里そのものを理解しろ」

その言葉に、全員が黙る。

「鷲の里の毒」

「鷲の里の掟」

「鷲の里の人間」

大タカは一人ずつ見渡した。

「何も知らずに突っ込めば、また同じ失敗を繰り返す」


図星だった。

蓮が小さく舌打ちする。

「ぐうの音も出ねぇな」


「だから試す」

大タカは続ける。

「この試練は、ただの力試しではない」

「里を知るための第一歩だ」


マーリンが少しだけ表情を和らげた。

「……なるほど」


トリスタンは鼻を鳴らす。

「回りくどい奴だな」


「慎重と言え」

即答だった。


「どっちでもいい」

蓮が割って入る。

少しだけ口角を上げる。

「要するに、それクリアすれば協力してくれるんだな?」


大タカはしばらく蓮を見つめる。

やがて、静かに頷いた。

「約束しよう」


「よし」

蓮が即答する。


アーサーが少し驚いたように見る。

「即決なんですね」


「選択肢ねぇだろ」

蓮は肩をすくめた。

「お前の毒もあるしな」


「……すみません」


「だから謝るなって」

蓮はアーサーの頭を軽く小突く。


その様子を見ていた大タカが、ふっと僅かに目を細めた。

「……なるほどな」

小さく漏らす。

「ハヤブサが気にかけるわけだ」


その言葉に、蓮が反応する。

「セシルは今どうしてる」


大タカは森の奥を見る。

「無事だ」

短く答える。

「だが、時間は多くない」

低い声だった。

「鵺は近いうちに、ハヤブサを完全に取り込むつもりだ」


「……っ」

マーリンの顔色が変わる。


蓮の目つきが鋭くなる。

「なら急ぐぞ」


「待て」

大タカが制する。

「試練は夜明けと同時に始める」

月を見上げる。

「今夜は休め」

「英気を養え」


そう言い残し、大タカは背を向けた。

「案内する」

森の奥へ歩き出す。


蓮たちは顔を見合わせる。

やるべきことは、見えた。


蓮は小さく息を吐いた

「‥‥‥やってやるか!」

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