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大タカ

静かな森の奥。

月明かりが木々の隙間から差し込んでいた。

マーリンはアーサーの腕に手を添えたまま、眉を寄せる。


「……応急処置はしたけど」

真剣な声だった。

「完全には抜けてないね」

淡い治癒の光が、アーサーの傷口を包み込む。

だが、腕に浮かぶ黒い痣はまだ残っていた。


「これ、普通の毒じゃない」

マーリンが小さく呟く。

蓮が眉をひそめる。


「解毒できねぇのか?」


マーリンは申し訳なさそうに首を振った。

「進行は少しだけ遅らせられる」

「でも、根本的な解毒は無理」

「私にはちょっと‥‥‥」

その言葉に空気が重くなる。


アーサーは歯を食いしばりながら、小さく息を吐いた。

「……申し訳ありません」

「私のせいで」


「だから気にすんなって」

蓮が即答する。

「お前は十分やった」


「ですが……」


「しつこい」

短く言い切る。

アーサーが少しだけ目を丸くした。


「お前がいなかったら、マーリンはやられて終わってた」

蓮は視線を逸らしながら続ける。

「だから、今は大人しく治されとけ」


「……はい」

少しだけ、アーサーの表情が和らいだ。


その時だった。

「……その毒」

低い声が割って入る。全員の視線が向く。

トリスタンだった。

木にもたれながら、腕を組んでいる。


「心当たりあるの?」

マーリンが聞く。


トリスタンは小さく鼻を鳴らした。

「昔、裏市場で聞いたことがある」

「鷲の里の忍びは、独自の毒を使うらしい」


蓮が目を細める。

「独自の毒?」


「ああ」

トリスタンが頷く。

「外じゃほとんど出回らん」

「里の植物から精製した特殊毒だとか何とか」


「じゃあ」

マーリンがアーサーの腕を見る。

「解毒法も……」


「里の人間しか知らんだろうな」

嫌な沈黙が落ちた。


蓮が額を押さえる。

「……は?」

「つまり、解毒するには」


トリスタンが肩をすくめる。

「鷲の里に戻るしかないってことだ」


「最悪だな」

蓮が深いため息をつく。


「しかも」

トリスタンは続けた。

「完全な解毒法を知ってそうなのは、一人しかいねぇ」


「誰だ」


「鷲の里の族長」

低い声。

「ーー大タカだ」


その名に、マーリンが反応する。

「セシルの……」


「ああ」

トリスタンが頷く。

「鵺に反発してたって話だ」

「まだ生きてるなら、味方にできるかもしれん」


蓮はしばらく黙り込む。

毒の解毒。

里内部の情報。

そして、鵺に対抗するための戦力。

全部繋がる。


「……なるほどな」

小さく笑った。

「結局、また戻るのかよ」


「うん」

マーリンがこくりと頷く。

「今度は、ちゃんと作戦立てようね」


「最初からそうしろよ」

トリスタンが即座に返した。


「うるせぇ」

蓮が吐き捨てる。

少しだけ、空気が和らぐ。


だが。

目的は決まった。

アーサーを救うためにも。

セシルを助けるためにも。

次に会うべき相手は一人だけだった。


「ーー大タカを探すぞ」

蓮の声が、静かな森に落ちた。


「で?」

エクスカリバーが呆れたように言った。

「どうやって会いに行くわけ?」


蓮が腕を組む。

「そうなんだよな……」


「どこにいるかも分からないでしょ」

エクスカリバーが肩をすくめる。


「族長なんだろ?」

トリスタンが鼻を鳴らす。

「そう簡単にノコノコ出てくるとは思えんがな」


「……でも」

小さく声を上げたのはマーリンだった。

全員の視線が向く。

「さっき、気になったことがある」


「何?」

蓮が聞く。


マーリンは少し考えるように目を伏せた。

「キツツキと戦った時」

「周りの忍び、途中から攻撃してこなかった」


蓮が眉をひそめる。

「……確かに」

包囲されていたはずなのに、

途中から戦っていたのは、ほぼキツツキ一人だった。


「キツツキが止めてたと?」

アーサーが呟く。


「ううん」

マーリンは首を振る。

「違うと思う」


「じゃあ何だよ」


マーリンは静かに続けた。

「誰かが、様子を見てた」

一瞬、空気が変わる。


蓮の目が細くなる。

「……監視か」


「うん」

マーリンが頷く。

「たぶん、私たちが何者か見極めてた」


トリスタンが顎に手を当てる。

「つまり」


「大タカかもしれない」

マーリンが言った。


沈黙。


蓮が小さく笑う。

「なるほどな」


エクスカリバーがため息をつく。

「なら話は早いじゃない」


「いや」

蓮は首を振った。

「向こうが見てたなら、こっちから探す必要はないな」


「えっ?それはどういう‥‥‥」


蓮が森の奥へ向かって声を張る。

「見てるんだろ?」

「だったら出てこいよ」


静寂。風が木々を揺らす。

誰もいない――そう思った、その時。


「……随分と無茶をする男だ」


低い声が、背後から響いた。

全員が振り返る。

木々の影。そこに、一人の大柄な男が立っていた。

鋭い眼光。肩に止まる一羽の鷹。

その姿だけで、場の空気が張り詰める。


「ハヤブサを助けに来たのは評価しよう」

低く、重い声。

「だが」

目が細くなる。

「お前たちに、あれを救える覚悟はあるのか?」


蓮が目を細めた。

「……あんたが大タカか」


男は静かに答える。

「ーーそうだ」

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