キツツキ
なんとかマーリンの魔法で、トリスタンを穴から救出した。
だがーー
すでに囲まれていた。木々の上。地上。屋根の影。
黒装束の忍びたちが、無言で蓮たちを包囲している。
「……囲まれてるね」
マーリンが杖を握り直した。
「派手に行くぞ」
蓮がそう言った瞬間。
「マーリン!!」
「うん!!」
即座に杖を構える。
蓮が叫ぶ。
「全員、目を閉じろ!!」
「えっ」
アーサーが目を丸くする。
「白ーー。白光閃」
その時だった。
バァァァァッ!!
夜の闇を裂くように、強烈な白光が周囲を包んだ。
「ぐっ!?」
「目がっ!!」
忍びたちが一斉に目を押さえる。
「うおおっ!?」
トリスタンまで悲鳴を上げた。
「おいおいおい!!どういうことだ!!」
「今のうちだ!!走れ!!」
蓮の号令。一斉に駆け出す。
マーリンは、あたふたするトリスタンの手を掴んだ。
「こっち!」
「引っ張るな!!」
混乱の中、蓮たちは一気に包囲網を突破する。
走りながら。腰の聖剣が呆れたように声を漏らした。
「何が“派手に行くぞ”よ」
「派手だっただろ」
即答。
「方向性が違うのよ!!」
「ええええ!!」
アーサーが走りながら叫ぶ。
「戦わないんですか!?マスター!」
「勝てるわけないだろ!!」
蓮が即座に返した。
「相手は忍びだぞ!!」
「地の利も数も向こうが上だ!!」
「それに……」
ちらり、と後方を見る。
トリスタンは脇腹を押さえながら走っていた。
「おっさん負傷してるし」
落下の衝撃で脇腹を強く打ったらしい。
「いっ……たたた」
トリスタンが顔をしかめる。
「うるせぇ!!」
「ワシはまだ戦える!!」
マーリンが心配そうに見上げる。
「大丈夫?」
「平気だ」
そう言いつつ、明らかに痛そうだった。
蓮は小さくため息をつく。
「……だから無理しないって選択肢覚えろよ」
その時だった。前方の木の上から、くすりと笑う声が響く。
「逃がすと思いました?」
全員が足を止める。
月明かりの下。
枝の上に、一人の少女が座っていた。
足をぶらぶらと揺らしながら、にこりと笑う。
「待ってましたよ」
キツツキだった
蓮たちが足を止める。
アーサーが即座に剣を構えた。
「……あなた」
キツツキは小さく首を傾げる。
「あなた達って」
にこにこと笑ったまま。
「先輩のお知り合いですよね?」
その言葉に、蓮が目を細める。
「だったらどうした」
「いえいえ」
キツツキはくすくす笑う。
「何しに来たのかなーって」
「観光に見えるか?」
蓮が即答した。
「見えませんねぇ」
楽しそうに答える。
その空気を裂くように、一歩前へ出たのはマーリンだった。
「セシルはどこ」
低い声。
いつもの柔らかな雰囲気はない。
その目は鋭く、真っ直ぐキツツキを射抜いていた。
キツツキが少しだけ目を丸くする。
「わぁ」
感心したように笑う。
「ちっちゃいのに怖いですね」
「答えて」
短い言葉。だが圧があった。
マーリンの杖先に淡い光が灯る。
キツツキはそれを見て、少しだけ肩をすくめた。
「先輩なら無事ですよ?」
「今のところは」
最後の一言に、空気が冷える。
アーサーが眉をひそめる。
「どういう意味ですか」
「そのままです」
キツツキは枝からぴょんと飛び降りた。
音もなく着地する。
「先輩は今、鵺様のところにいます」
その名前に、蓮の目が細くなる。
「鵺……」
キツツキは笑顔のまま続けた。
「でも」
一拍。
「会いたいなら、簡単には通しませんよ?」
スッ、と短刀を抜く。
月明かりが刃を照らした。
「だって私」
にこり。
「先輩を連れ戻すために、頑張ったので」
マーリンが杖を握る手に力を込める。
蓮は小さく息を吐いた。
「話し合いは無理そうだな」
「最初からそのつもりでしたけど?」
キツツキが笑う。
その瞬間。
彼女の姿が掻き消えた。
「っ!?」
アーサーが目を見開く。
次の瞬間。
「え」
マーリンの背後。
キツツキがすでに回り込んでいた。
「まずは魔法使いからですよね」
にこりと笑う。短刀が閃く。
「マーリン!!」
蓮が叫ぶ。
ガキィィン!!
金属音。火花が散る。
「させません!!」
アーサーだった。割り込むように剣を差し込み、短刀を受け止める。
キツツキが目を丸くする。
「わ」
少しだけ感心したように笑う。
「速いですね」
アーサーは険しい顔のまま押し返す。
「仲間には手を出させません」
「騎士っぽいですねぇ」
軽口。
そのまま後方へ跳ぶキツツキ。距離を取る。
マーリンがほっと息を吐いた。
「た、助かった……」
蓮が小さく舌打ちする。
「やっぱり面倒だな」
「だから言ったでしょう?」
エクスカリバーが呆れたように言う。
「相手は忍びよ」
トリスタンが大槌を構え直す。
「ったく」
脇腹を押さえながら吐き捨てた。
「ガキ一人相手に、随分苦戦してんな」
キツツキがにこりと笑う。
「おじさん、怪我人なのに元気ですねぇ」
「誰がおじさんだ!!」
「そこ気にするとこ!?」
蓮が思わずツッコんだ。
「隙ありです」
「っ!?」
キツツキの姿が掻き消えた。
「アーサー!!」
蓮が叫ぶ。
ガキィィン!!
金属音が夜に響いた。
アーサーは咄嗟に剣を振り上げ、短刀を受け止める。
火花が散る。
「……!」
だが、その瞬間。
キツツキの口元がにやりと歪んだ。
「フェイントです」
「なっーー」
視界から消える。
「上だ!!」
蓮が叫ぶ。
ドッ!!
「ぐっ‥‥‥!」
強烈な蹴りがアーサーの背中に叩き込まれた。
身体が吹き飛ぶ。
数メートル先まで転がり、地面を滑る。
「アーサー!!」
マーリンが叫ぶ。
「うっ……」
すぐに立ち上がる。
だが、その表情は険しい。
「速い……!」
キツツキは木の枝へ、軽やかに着地していた。
足をぶらつかせながら、にこりと笑う。
「んー」
少し考えるように首を傾げる。
「先輩よりは、まだ少し遅いですね」
その一言に。
蓮の目が細くなる。
(……なるほどな)
ただの後輩じゃない。
普通に強い。
しかもーー
セシルと比較してなお余裕がある。
キツツキは短刀をくるりと回した。
「でも」
笑顔のまま。
「先輩のお友達としては、十分合格点ですよ」
「上からだな」
蓮が小さく吐き捨てる。
キツツキは、にこりと笑ったまま短刀を構え直した。
「次は、ちゃんと仕留めますね?」
空気が張り詰める。
木々の上では、黒装束の忍びたちが再び包囲を狭めていた。
逃げ場はない。
数でも、地の利でも圧倒的不利。
だがーー
蓮は、ふっと口元を吊り上げた。
「そうかよ」
ゆっくりと、アーサーへ視線を向ける。
「なら」
その一言に、アーサーがはっと顔を上げた。
蓮の目は、すでに決まっている。
「少し、本気でやるか」
「……はい!」
アーサーが剣を握り直す。
エクスカリバーが、どこか楽しげに笑った。
「ようやくね」
月明かりの下。
空気が変わる。
キツツキの笑みが、ほんの少しだけ消えた。
「……あれ?」
初めて。
彼女の声に、僅かな警戒が混じる。




