白い閃光
白い閃光が、男を斬り抜けた。
一瞬。
音が消える。
「――」
男の動きが、止まった。
遅れて。
ザンッ、と斜めに裂ける音。
黒い外套が、大きく切り裂かれる。
胸元から肩にかけて、深い斬痕。
「っ――」
初めてだった。
男の顔に、明確な苦痛が走る。
血が、地面へ滴る。
蓮が目を見開いた。
「入った‥‥!」
マーリンも小さく息を吐く。
「すごい」
アーサーは着地と同時に距離を取る。
だが、その肩がわずかに上下していた。
「はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥」
エクスカリバーが鼻を鳴らす。
(当然よ)
(誰の力だと思ってるの)
「いや、かなり俺の命も削ってるからな!?」
蓮が即座にツッコむ。
同時に、胸へ再び激痛が走る。
「ぐっ‥‥!」
膝が揺れる。
***************
【同期】継続中
残り時間:01:42
***************
「まだ半分もあるのかよ!!」
「マスター」
マーリンが少しだけ困った顔をする。
「頑張って」
「雑ぅ!!」
だが、その軽口とは裏腹に。
空気はまだ終わっていなかった。
男が、ゆっくりと自分の傷口へ触れる。
指先に付いた血を見る。
「‥‥なるほど」
低い声。
「確かに、聖剣だ」
その声に、先ほどまでの余裕はない。
男が顔を上げる。
その目に宿っていたのは、明確な敵意だった。
「少し、見誤っていた」
黒い影が、再び足元から溢れ出す。
だが今度は違う。
量が違う。濃度が違う。
影そのものが、空間を侵食するように膨張していく。
蓮の顔色が変わる。
「おい‥‥まだあんのかよ」
マーリンの表情も消える。
「‥‥本気だね」
男は静かに剣を構え直した。
「回収対象認定を更新する」
一拍。
「危険度ーー上位」
エクスカリバーが、小さく笑う。
(あら)
(ようやく評価されたじゃない)
アーサーが剣を握り直す。
汗が頬を伝う。だが目は逸らさない。
男が、静かに告げた。
「次で終わらせる」
空気が、再び張り詰めた。
黒い影が、男の足元から這い出る。
床を侵食するように広がり、周囲の光を飲み込んでいく。
蓮が顔をしかめた。
「おいおい‥‥まだ強くなるのかよ」
(当然でしょ)
頭の中に、エクスカリバーの声が響く。
(魔族が本気を出すのは、追い詰められてからよ)
「聞きたくねぇ情報ありがとう!!」
エクスカリバーは無視した。
(でも、ちょうどいいわ)
少しだけ、楽しそうな声音。
(せっかく同期までしたんだもの)
一拍。
(もう一撃、いくわよ)
蓮の顔が引きつる。
「軽く言うな!!こっちは死にかけてんだぞ!?」
***************
【同期】継続中
残り時間:01:38
負荷上昇を検知
***************
「なんか増えた!!嫌な文字増えた!!」
マーリンがちらりと蓮を見る。
「マスター、顔色やばいよ」
「知ってる!!」
アーサーは静かに剣を構える。
息を整える。
「もう一撃ですか」
(正確には、最後の一撃よ)
エクスカリバーの声色が少しだけ低くなる。
(次で決めなさい)
(これ以上は、本当に壊れる)
蓮が即座に反応した。
「おい待て!!今さら重要情報ぶっこむな!!」
「了解しました」
アーサーは即答だった。
「いやお前も迷えよ!!」
男が静かに剣を下ろす。
「終わりだ」
影が爆ぜた。
ドバァッ!!
地面一帯から黒い槍が一斉に突き上がる。
「来るよ!」
マーリンが叫ぶ。
「青ーー展開!多重氷壁」
パキィィィン!!
氷壁が数枚同時に出現する。
だが、影槍が次々とそれを貫通していく。
「硬っ!?」
マーリンの目がわずかに見開く。
「今までより密度が高い!」
トリスタンが大槌を構える。
「面倒なもん出しおって!」
ゴォン!!
横から飛んできた影槍を叩き砕く。
その間に、アーサーが低く姿勢を落とした。
風が、集まる。
白い粒子が剣へ収束していく。
(集中しなさい)
エクスカリバーが静かに言う。
(アンタだけじゃない)
(後ろにいる全員の期待も、今は乗ってる)
アーサーの瞳に、熱が灯る
「はい」
蓮が息を飲む。
「アーサー‥‥」
男が影を纏ったまま、一直線に踏み込んだ。
アーサーも同時に踏み込む。
「行きます!!」
白と黒が、真正面から激突した。
ドゴォォォォンッ!!
爆発みたいな衝撃。
石畳が弾け飛ぶ。
黒い影が、無数の刃となって襲いかかる。
「っ‥‥!」
アーサーが剣を振るう。
一閃。二閃。三閃。
白光が影を断ち切る。
だが数が多い。
黒が腕を掠める。頬が裂ける。
制服に赤が滲む。
「アーサー!」
蓮が叫ぶ。
(止まるな!!)
エクスカリバーの声が響いた。
(前だけ見なさい!)
アーサーの目が、鋭くなる。
男が低く言う。
「終わりだ」
影が一点へ収束する。
巨大な黒刃。
空間ごと叩き斬るような一撃。
だがーー
アーサーは、踏み込んだ。
「遅いです」
男の目が見開かれる。
「なっーー」
半歩。
ほんの半歩だけ内側へ潜る。
エクスカリバーが笑う。
(そこよ)
アーサーが剣を振り抜いた。
「アルトリア流剣術ーー」
一瞬、静寂。
「ーー白閃・断」
ザンッ!!!!
白い閃光が、男を縦に斬り裂いた。
影ごと。防御ごと。まとめて。
黒が、止まる。
男の身体が、その場で静止した。
「‥‥見事」
初めてだった。
男が、わずかに笑う。
「回収対象としては、惜しいな」
静寂。
誰も動かない。
男は最後にアーサーを見る。
「覚えておこう」
その声には、先ほどの敵意ではなく、わずかな興味だけが残っていた。
それだけ言って、目を閉じた。
パキッ、と。
身体に亀裂が走る。
ゆっくりと、影が剥がれ落ちていく。
黒い粒子が、サラサラと闇へ溶けるように散っていく。
やがてーー何も残らなかった。
蓮が、呆然と立ち尽くす。
「‥‥‥‥消えた」
そしてーー
***************
【同期】終了
リンク解除
***************
「は?」
蓮の身体から、一気に力が抜けた。
「うわっ、ちょーー」
ドサッ。
その場に倒れ込む。
「マスター!?」
マーリンが駆け寄る。
蓮は天井を見ながら、死んだ目で呟いた。
「‥‥もう二度とやらん」
エクスカリバーが鼻で笑う。
(次もあるわよ)
「あるな!!!」
そのツッコミだけが、崩れた店に響いたーー。




