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英雄化

黒い刃が、ゆっくりとアーサーの首筋へ迫る。


「これで終わりだ」

拘束されたまま、回避は不可能。

蓮の顔が青ざめる。


「アーサー!!」

その瞬間だった。


「ーー緑、青」

マーリンが杖を突き出す。


風刃氷弾ウィンド・フロスト


バシュッ!!

圧縮された氷塊が風を纏い、一直線に男へ撃ち込まれる。


「チッ」

男が舌打ちする。

剣筋がわずかに逸れた。

アーサーの首筋を狙っていた刃が、数センチ横を通過する。

ガキン、と地面が裂けた。


「よく避けたね」

マーリンが小さく言う。


「避けてません!!」

アーサーが即答する。

「今のは完全に死ぬところでした!!」


「うん、知ってる」


淡々としている。

男はゆっくりとマーリンを見る。


「ーー想像以上に面倒な魔術師だ」

感情の薄い声。

だが今度は明確に殺意が乗っていた。


「まずは、お前から消えろ」


影が膨らむ。

地面一帯の黒が、一斉にマーリンへ伸びた。


「っーー!」

マーリンが目を見開く。

回避が間に合わない。


その瞬間。

ドゴォォォンッ!!!

鈍い衝撃音。

男の身体が横に吹き飛んだ


「‥‥‥なに」


男が初めて、驚きを含んだ声を漏らす。


そこにいたのはーー

トリスタンだった。

片手には、鍛冶用の大槌。

肩で息をしながら、低く吐き捨てる。


「人の店、好き放題燃やしおって」


その目に、今までにない怒気が宿る。


「鍛冶師を舐めるな」


男が体勢を立て直す。

脇腹にめり込んだ衝撃の跡が残っていた。


「‥‥ただの老人ではないか」


「ただの老人なら、鍛冶なんぞやっとらん」

トリスタンが鼻を鳴らす。


「鉄を打つっちゅうんはな」


一歩、前へ。

「毎日、重いもん振り回しとるってことじゃ」


蓮が叫ぶ。

「いや絶対それだけじゃねぇだろ!!」


「細かいことは気にするな」

即答だった。


その隙に、影の拘束がわずかに緩む。


「今だよ、アーサー」

マーリンが声を飛ばす。

アーサーは、柄を握り直す。

エクスカリバーが小さくため息をついた。


「まったく」

呆れたような声音。


「本来、こんな使い方したくないんだけど」


アーサーが静かに問う。

「借りられますか」


一瞬の沈黙。


「‥‥今のあんたじゃ、せいぜい二割ね」

エクスカリバーが答える。


「それ以上は、身体の方が先に壊れるわ」


アーサーの目が細まる。


「十分です」


「即答なのね」

少しだけ笑う。


「気に入らないけど、嫌いじゃないわ」


聖剣が、強く発光した。


パキッ、と。

拘束していた影に亀裂が走る。

黒い拘束がわずかに緩む。


だがーーそこで止まった。


「‥‥‥あれ?」

蓮が眉をひそめる。


光が、不安定に揺れている。

発動しきれていない。

エクスカリバーが舌打ちした。


「やっぱり足りない」


アーサーが低く問う。

「何がですか」


「出力よ」

エクスカリバーが吐き捨てる。

「今のあんた一人じゃ、二割でも支えきれないわ」


「は?」

蓮が嫌な予感で顔を上げる。


アーサーが大きく後方へ跳んだ。

影の拘束を無理やり引き剥がし、そのまま蓮たちの位置まで距離を取る。


ドサッ、と着地。


「はぁっ、はぁっ‥‥‥」

蓮が慌てる。

「お、おい!なんでこっち来た!?」


「指示です」

アーサーが即答する。


「誰の!?」


「私よ」

エクスカリバーだった。


「おい、そこのバカ面」


「はぁ!?」

蓮の眉が跳ねる。

「誰がバカ面だ!!」


「アンタ以外に誰がいるのよ」

即答だった。


「ちょっといい位置に来たわね」

蓮が一歩引く。

「待て待て待て、その言い方やめろ。絶対ロクでもない」


エクスカリバーは無視した。


「ちょっと私の力を貸してあげる」


「ただし」

少しだけ声が低くなる。


「本来、この子一人じゃ足りないわ」


蓮が目を細める。


「足りない?」


「そう」

エクスカリバーが鼻を鳴らす。

「二割でも、本来は複数人で支える出力なの」


蓮の顔が引きつる。

「つまり?」

ごくり‥‥‥


「だから不足分はーー」


一拍。

「アンタから借りる!!不本意だけど」


「不本意なんかよ!!」


蓮の視界に、突然文字が走る。


****************


対象:アーサー

同期成立

特殊条件達成


【英雄化】プロセス開始


****************


「なっ!?」

蓮が固まる。

「え、ちょ、なんだこれ!?」


同時に。胸の奥から、何かが抜けていく感覚。


「うわっ!?なんか持ってかれる!!」


マーリンが小さく目を見開く。


「マスターの魔力‥‥‥」


エクスカリバーが当然のように言う。


「安心しなさい」

「死ぬほどじゃないわ」


「その言い方が一番怖いわ!!」


だが、そのやり取りの最中にもーー

アーサーの周囲の空気が変わっていく。

淡い白光が、剣身を走る。

風が逆巻く。


先ほどまでとは違う圧。

男が初めて、わずかに目を細めた。


「‥‥‥なるほど」

低い声。

「そう来るか」


アーサーが剣を握り直す。


「時間は?」


「保って三分ね」

即答だった。

「それ以上は、あんたもそこのバカ面も壊れるわ」


「情報が遅い!!」

蓮が叫ぶ。


エクスカリバーは楽しそうに笑った。


「ほら、見せなさい」


「"選ばれた側"ってやつを」





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