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空気が、裂けた。


「っーー!」

男が目の前にいた。


速い。さっきまでとは比べ物にならない。


一直線。迷いのない斬撃が、アーサーの首筋へ走る。

間に合わない。


そう思った瞬間ーー

「青ーー防壁展開アイス・ウォール


バギィン!!

アーサーの目の前に、半透明の氷壁が出現する。

斬撃がぶつかる。

衝撃だけで壁に亀裂が走った。


「うっ!?」


アーサーが後ろへ弾かれる。

氷壁は、一秒も保たず砕け散った。

パリン、と光る破片が舞う。


「ありがとう!マーリン!」


アーサーが体勢を立て直しながら叫ぶ。

マーリンは男から目を逸らさない。


「まだだよ」

短く言う。


「次、来る」


その声と同時だった。男の姿が、また消える。


「えっーーまた!?」


「右!!」

エクスカリバー。


「下がって!」

マーリン。

二つの声が、重なった。

アーサーが反射で身を捻る。

黒い刃が鼻先を掠めた。


砕けた氷片が、まだ宙を舞っていた。


「次、左」


エクスカリバーの声。

アーサーが反射的に剣を振るう。


キィン!!

何かを弾いた感触。だが、そこには誰もいない。


「いない‥‥‥‥?」

蓮が目を見開く。


その時だった。

足元の影が、不自然に揺れた。


「アーサー!下!」

マーリンが叫ぶ。影が、伸びる。


地面に落ちていた瓦礫の影。

炎に揺れる柱の影。崩れた壁の影。

それらすべてが、一斉にアーサーへ絡みついた。


「なっ‥‥‥‥!?」


足が止まる。影が、地面から手のように這い上がってくる。

男の声。いつの間にか、アーサー自身の影の中から現れていた。


「ーーッ!?」


男が、そのまま腕を振るう。

ズバァッ!!


影そのものが刃になって跳ね上がる。


「くっ!!」


アーサーが反射的に剣を立てる。

受ける。だが重い。金属音ではない。

貼りついた何かを断ち切るような嫌な感触。


「これが‥‥‥影!?」


蓮が息を呑む。

斬ったはずなのに、影は砕けない。

裂けた黒が地面に落ち、再び男の足元へ戻っていく。


「厄介ね」

エクスカリバーが低く言う。


「実体と影を行き来してる」


「つまり?」


「普通に斬っても意味のない場面もあるってことよ!」


説明と同時だった。

男の影が、再び広がる。

地面を這うように伸びる黒。

アーサーの足元へ迫る。


「アーサー!飛んで!」


マーリンが叫ぶ。

アーサーは即座に跳ぶ。


ズバンッ!!

さっきまで立っていた地面から、黒い棘が無数に突き出した。


「うわっ‥‥‥‥!?」

蓮が後ずさる。


「何だよそれ!!反則だろ!!」


「マスターは下がって!!」

マーリンは蓮に叫ぶ。


男は淡々と言う。


「影は常に足元にある」

「逃げ場などない」


空中。逃げ場のないアーサーへ、男が一直線に踏み込む。


「終わりだ」

剣が振り下ろされる。だがーー


「させないよ」


マーリンが杖を構えた。前に出る。


「青、白ーー」

薄い光が瞬時に展開する。


氷晶障壁アイス・シールド


パキィィィィン!!


透明な魔法障壁が、アーサーの目前に生成される。

敵の剣が激突し、火花と氷片が飛び散った。


「チッ」

初めて、男が舌打ちをする。

その一瞬で、アーサーが着地。


「助かった!マーリン!」


「お礼はあと」


マーリンが短く返す。


「次、来るよ」


「はい!!」


ほぼ同時だった。影が左右から跳ね上がる。

一本じゃない。三本。五本。


「多っ!?」

蓮が叫ぶ。


アーサーが駆ける。斬る。弾く。避ける。

だが数が増えていく。


「左!」

エクスカリバー。


「上!」

マーリン。


「右からも来る!」


二人の声が交差する。アーサーは迷わない。

体が勝手に反応しているみたいに、最短で剣を振るう。


カンッ!!

ザシュ!!

ギィィン!!


連撃。防御。回避。

だがーー


「っ!」

一瞬、足が止まる。影が足首に絡みついた。


「捕まえた」

男が初めて、確信を持って言う。


「しまっーー」


黒い影が一気に這い上がる。

足、腰、腕。拘束。


アーサーの動きが止まる。


「アーサー!!」

蓮が叫ぶ。

男がゆっくり剣を持ち上げる。


「これで終わりだ」


真っ直ぐ、首筋へ。

拘束されたまま。アーサーは、目だけで剣を見た。


その目に、恐怖はない。

エクスカリバーが小さく笑う。


「へぇ」

「この状況で、その目するんだ」


アーサーが静かに言う。


「まだ、終わってません」

マーリンが、目を細めた。


「‥‥くっ」


エクスカリバーの光が、わずかに強くなる。




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