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エクスカリバー

ーーその瞬間だった。


「だから言ってんだろうが!!」


怒声が、店内を叩きつけるように響いた。


トリスタンだった。


いつもの気だるげな様子は消え失せている。

目は鋭く、明確な"拒絶"を宿していた。


「その剣はーー売らねぇ」

一歩、前に出る。


「誰にも、だ」

空気が張り詰めた。

ヴェルナーは、わずかに目を細める。


「‥‥‥‥これはこれは」


だが、その声音に怒りはない。

むしろ、面白がっているようだった。


「珍しいですねぇ、そこまで感情を出すとは」


視線が、トリスタンから剣へと移る。


「よほど"価値"があると見える」


沈黙。

トリスタンは何も答えない。

ただ、睨み返す。


しばらくの静寂の後ーー

ヴェルナーは、ふっと笑った。


「‥‥‥今日は、この辺りにしておきましょうか」


あっさりと、引いた。


「また来ますよ、トリスタン」


意味深な一言を残し、踵を返す。

取り巻きたちも、それに続いた。

店の扉が閉まる。

静寂が戻る。

アーサーは、ゆっくりと剣から視線を外した。


「‥‥‥失礼しました」

トリスタンに向かって、小さく頭を下げる。


「私どもも、今日はこれで」


「また、伺います」


トリスタンは何も言わない。

ただ、酒をあおるだけだった。


蓮たちは店を後にする。


だがーー

アーサーは一度だけ、振り返った。

あの剣を、もう一度見るために。



***


夜。


鍛冶屋の中は、静まり返っていた。

かすかな灯りの中で、トリスタンは一人、酒を飲んでいる。


「‥‥‥‥なんで止めたのよ」


不意に、声がした。

誰もいないはずの空間。

だが、確かに響いた。


トリスタンは、驚く様子もなく酒をあおる。


「‥‥‥‥ああ?」


「分かってたでしょ」


「あの子、あんたのとこに来た理由」


声の主はーー剣。

壁に立てかけられた、あの一振り。

エクスカリバーだった。


「さぁな」

トリスタンはぶっきらぼうに答える。


「売りもんじゃねぇって言ったろ」


「まぁ、私は売り物じゃないけどね」

少しだけ、呆れたような声音。


「でも、あのまま渡しても良かったんじゃない?」


トリスタンは鼻で笑う。


「バカ言え」


「お前がいなくなったら、誰と酒飲むんだよ」


一瞬の沈黙。


「‥‥‥‥はぁ?」


「そんな理由なわけ?」


「他に何がある」

トリスタンは酒を飲み干した。


「気に入らねぇんだよ」


「選ばれる側のくせにーー選ぶ側でいる顔がな」


エクスカリバーは、くすりと笑った。


「‥‥‥でも、来るわよ」


「またね」


トリスタンは答えない。

ただ、空になった酒瓶を転がした。



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