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しっくりこない剣

グランゼル東通りーーアルゼン商会。

王都でも名の知れた武器屋のひとつだ。

店内に一歩足を踏み入れた瞬間、思わず息を呑む。

壁一面に並べられた剣や槍。

ガラスケースの中には、宝石で装飾された武具が所狭しと陳列されている。


どれもこれも、明らかに"高級品"だった。


「本日は、どのようなものをご所望で?」


奥から現れたのは、細身の男だった。

仕立ての良い服に身を包み、指にはいくつもの指輪。

いかにも商人といった風貌だ。


「剣を見せてほしいのですが」


アーサーは、まったく物怖じせずに言った。

この場の空気に飲まれる様子はない。


(さすが元貴族‥‥‥か)

蓮は内心で感心する。

堂々とした立ち振る舞いは、場違いな空気すらねじ伏せていた。


「さすがお嬢様‥‥‥」

隣でマーリンがぼそりと呟く。


その一方でーー


「えっ!?ショートソードでこの値段!?」


蓮はガラスケースに張り付き、素直に驚いていた。

完全に"庶民側"の反応である。


「アーサー様、こちらなどいかがでしょう?」

店主がにこやかに声をかける。


アーサーはわずかに眉をひそめた。


「‥‥‥私はまだ名乗っていませんが」


店主はにやりと笑う。


「貴方様を知らない者はおりません」


「剣闘大会の優勝者ーーアーサー様は、今や王都でも有名ですから」


(‥‥商売の匂いがするな)

蓮は目を細める。


店主によって、一振りの剣が運ばれてきた。


ロングソード。

柄から鞘に至るまで、細やかな装飾が施されている。

宝石が散りばめられ、見た目だけならまさに"至高"と呼ぶに相応しい。


「当店の職人が手掛けた逸品でして」


「素材も加工も、すべて最高級でございます」


店主はどこか誇らしげに語る。


「とても高そう‥‥‥‥」

マーリンが小さくつぶやいた。


「持ってみてもいいですか?」

アーサーが尋ねる。


「もちろんでございますとも!」

店主は即座に答えた。


アーサーは剣を手に取る。

重さを確かめるように、ゆっくりと握り直す。

わずかに振る。

その動きは、無駄がなかった。

店主は期待に満ちた目で見つめる。


「いかがでしょう?」


アーサーは、しばらく黙っていた。


「‥‥‥‥あまり、しっくりきませんね」


その一言で、空気が止まる。

店主の笑みが固まった。


(な、何だと‥‥‥‥!?)

心の中で悲鳴を上げる。


(これを気に入らないだと!?)


店主の笑みが固まった。


「‥‥‥今、なんと?」


「しっくりきません」

アーサーはあっさりと言い切る。


(な、何だとぉぉぉぉぉぉ!?)


店主の内心が絶句する。


(この剣だぞ!?王都でも指折りの職人が打った至高の一本だぞ!?)


「も、もう一度‥‥‥もう一度だけお試しを!」

焦った声で食い下がる店主。


アーサーは無言で、もう一度軽く振る。


「………やはり、違いますね」


(ダメだぁぁぁぁぁぁ!!)


店主の脳内で何かが崩れ落ちた。


(このままでは‥‥‥このままではただの冷やかしで帰られる‥‥‥!)


「で、ではこちらはどうでしょう!?」


ほぼ半ば叫ぶように、次の剣を取り出す。

さっきよりもさらに装飾が豪華な一振りだった。


「こちらは魔力伝導率を極限まで高めたーー」


「重いですね」

説明の途中で斬られた。


「ではこちらは軽量化をーー」


「軽すぎます」


「で、ではバランスをーー」


「しっくりきません」


(会話が成立しねぇぇぇぇぇ!!)


蓮が横で吹き出しそうになる。



「お前、ちょっとはオブラートに包めよ‥‥‥」


アーサーは首をかしげた。


「事実を言ってるだけなんですが?」


店主は膝をつきそうになった。



***


アルゼン商会を後にして、しばらく。

王都の賑やかな通りを抜け、人気の少ない路地裏へと

足を踏み入れる。


店の数も減り、建物はどこか古びている。

さっきまでの"華やかさ"とは、まるで別の世界だった。



「‥‥‥残るは、ここだな」

蓮が立ち止まる。

その視線の先にあったのはーー

ボロボロの鍛冶屋だった。


看板は傾き、文字は半分以上ほど消えかけている。

扉は軋み、今にも外れそうだ。

煙突はあるが、煙が出ていない。


(‥‥‥‥やっているのか、これ)

思わず蓮は呟く。


「絶対ハズレじゃない?」

マーリンが即答した。


アーサーは少しだけ眉をひそめる。

だがーー


「入ってみましょう」


迷いはなかった。


「いや、ちょっと待て」

蓮がツッコミを入れる。


「さっきの店と落差ありすぎだろ」


「これで当たりだったら」


マーリンがくすりと笑う。


「そういう店ほど。面白いものが置いてあるかもね」


「いや絶対ないって」


蓮のツッコミを無視して、アーサーは扉に手をかけた。


ギィィィ‥‥‥

嫌な音を立てて、扉が開く。


中はーー暗かった。

酒の匂いと、鉄の匂いが混ざっている。

奥の方かな、ゴソ‥‥‥ゴソ………と鈍い音が響いていた。


「‥‥‥なんか、いるな」

蓮が小さく呟く。


その時。


「勝手に入ってくんな」


低く、だるそうな声が響いた。

奥の影から現れたのはーー

無精髭を生やした男。

片手には酒瓶。

もう片手には、鍛冶用のハンマー。

目は濁っているようでーーどこか鋭い。


「客か?」

興味がなさそうに言いながら、酒をあおった。








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