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踏み込めない領域

「それでは、剣闘大会を閉会する!!」


わぁぁぁぁ!!

観客の歓声が広がる。


グランゼル国王の言葉で、剣闘大会は幕を閉じた。


アーサーは蓮たちの元に合流した。


「とんでもないものをもらったね」


エルメスは、軽い口調だったが、その目は笑っていなかった。


「正直、想像以上だな」


腕を組み、低く呟くバーキン。

その視線は、アーサーの手にある証書に向けられていた。


「前の大会の褒賞は、せいぜい金貨と宝石だったはずだ

 それが今回はーー禁足地、か」


(宝石より上か‥‥‥?)


蓮は内心でそう呟き、わずかに目を細めた。

金としての価値では計り知れない何かがある。

そう感じたからだ。


「そんなにすごいものなんですか?」


問いかけると、バーキンが短く


「ああ」


と呟いた。


「俺も詳しくは知らないが‥‥‥禁足地は相当やばいって話だ。

 普通の人間は、まず近づかない」


「やばい、ですか」


蓮が聞き返すと、バーキンは少しだけ声を落とした。


「危険って意味でもそうだが‥‥‥」


一度、言葉を切る。

周囲に視線を走らせてから、続けた。


「ーー魔王軍の領内と繋がっている可能性があるって噂もある」


その一言で、空気がわずかに変わった。

さっきまで耳を打っていた歓声が、急に遠くに感じた。


「‥‥‥魔王軍、か」


蓮は小さく呟き、その言葉を噛み締めるように繰り返した。


アーサーは、手の中の証書を見つめたまま、ぽつりと呟いた。


「‥‥‥ここに行けば」


わずかに震える声。


「私の国が、崩れた理由が分かるかもしれません」


禁足地ーー王ですら軽々しく踏み入れない領域。

そこに、自分の知らない何かがある。

そんな確信にも似た感覚が、アーサーの胸に芽生えていた。


その言葉に、場の空気がわずかに揺れる。


アーサーは顔を上げた。

迷いは残っている。

それでも、瞳の奥には確かな意志が宿っていた。


「‥‥‥‥行きましょう、マスター」


次の瞬間。


「ちょ‥‥‥‥ちょっと待って!」


蓮の声が鋭く割り込む。

思わず一歩踏み出しかけていたアーサーの足が止まった。


「そんな危ない場所、遠足みたいに気楽に行けるか!」


呆れと焦りが混じった声だった。


アーサーは押し黙る。

反論しようと口を開きかけてーー言葉が出てこない。


「‥‥‥‥‥」

証書を握る手に、わずかに力がこもる。


エルメスが肩をすくめた。


「それもそうだね」


軽い口調、しかし、その内容は冷静そのものだった。


「剣もない状態でさ。今の戦力で魔王軍に出くわしたらーー」


「まず助からない」


淡々とした現実。

アーサーの表情が曇る。


「うぅ‥‥‥‥」


小さく唸るように声を漏らした。

マーリンがすぐに口を挟む。


「私は負けないけど」


少しだけむきになったような声。

だが、その言葉をエルメスが静かに遮った。


「マーリン」


穏やかな声だったが、否定の色ははっきりしている。


「君の得意な魔法も、向こうは長けている」


「魔力量もーー僕たちより、はるかに上だ」


魔王軍。

それは単なる強敵ではない。

人間の常識を超えた力を持つ存在の集まりだ。

マーリンは言葉を失い、肩を落とした。


「うぅ‥‥‥‥」


今度は、先ほどよりも弱い声だった。


「‥‥‥魔王軍、ね」

蓮が低く呟く。


その響きは、どこか引っかかるものがあった。

次の瞬間、脳裏に遡る。


ーーあの女神の言葉。


「こっちの勇者候補、みんな殺されてるんだから!ほんと洒落になってないのよ!」


軽い口調で放たれた、あまりにも重い事実。

蓮はわずかに目を細める。

ーー簡単に踏み込んでいい領域じゃない。

冗談では済まされない相手だと、改めて理解したからだ。



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