勝利の代償
歓声が、まだ遠くで鳴り続けている。
闘技場の外へと続く通路。
石造の壁に、興奮の余韻が反響していた。
その中をーー
一人の剣士が、静かに歩いている。
アーサーだった。
剣を手に。
だが、その足取りは決して軽くない。
(‥‥‥勝った)
確かな事実。
だが、それ以上にーー
(強かった)
脳裏に焼き付いて離れない。
ランスロットという存在。
拳一つで、あの圧力。
一撃でも受け損ねれば、終わっていた。
(紙一重‥‥‥だったな)
小さく、息を吐く。
その時ーー
「アーサー!!」
背後から、声。
振り向く。
そこにはーー
手を振りながら駆けてくる蓮の姿があった。
その後ろには、マーリンの姿も見える。
「マスター‥‥‥!」
アーサーの表情が、わずかに揺らぐ。
蓮はそのままの勢いで近づきーー
「お前さぁ!!」
開口一番、叫んだ。
「何あの技!?」
びしっと指を突きつける。
「いや確かに教えたよ!?教えたけどさぁ!!」
「普通あそこまで完成させる!?」
頭を抱える。
「意味わからんて!!」
アーサーは、少し困ったように笑う。
「ですが‥‥‥マスターが教えてくださった技です」
「そのおかげで、勝てました」
真っ直ぐな言葉。
一切の迷いがない。
「うっ‥‥‥」
蓮が、言葉に詰まる。
「‥‥‥それを言われると何も言えんわ」
ぼそっと呟く。
その様子を見てーー
「ふふ‥‥」
低い笑い声が響いた。
マーリンだった。
「アーサー、見事だった」
ゆっくりと歩み寄る。
その目は、確かに評価していた。
「力で劣る相手に対し、技で上回る‥‥」
「理想的な勝ち方だった」
「あ‥‥ありがとうございます!!師匠!!」
アーサーが、軽く頭を下げる。
マーリンは続ける。
「だが、忘れるでないぞ?」
一拍。
「紙一重だったことも、また事実だ」
視線が鋭くなる。
「慢心すれば、次はない」
その言葉にーー
「‥‥‥はい!師匠!!」
アーサーは、強く頷いた。
「いやいや‥‥‥何この茶番‥‥‥。」
蓮が呆れ顔でツッコむ。
その時ーー
「やあ」
聞き慣れた声。
全員の視線が、そちらへ向く。
通路の奥。
壁にもたれかかるように立っていたのはーー
エルメスだった。
隣にはバーキンの姿も見える
「‥‥‥師匠?」
蓮が、首を傾げる。
「どこに行ってたんですか?」
エルメスは、くすりと笑う。
「ちょっとね」
それだけ。
その目は、どこか楽しそうだった。
「‥‥‥なんか怪しいな」
蓮が、じとっとした目で見る。
「気のせいだよ」
さらりと流すエルメス。
マーリンが、その様子を横目で見ながらーー
「‥‥‥ふん」
小さく鼻を鳴らした。
何かを察しているような目。
だが、何も言わない。
空気が、少しだけ緩む。
戦いの緊張が、ゆっくりと解けていく。
その空気をーー
「いやぁーーー!!」
豪快な声がぶち壊す。
「感動したぜ!!嬢ちゃん!!」
バーキンだった。
大股で近づいてきて、バンッとアーサーの肩を叩く。
「ぐっ‥‥‥!」
「最後の突き!ありゃあ痺れたなぁ!!」
ガハハと笑う。
(えっ‥‥‥誰この人‥‥‥‥!?)
「正直、あのデカブツが負けるとは思わなかったぜ!」
「いいもん見せてもらった!」
「‥‥‥ありがとうございます」
少し押され気味ながらも、アーサーは礼を返す。
そこにエルメスが話に割って入ってくる。
「ところでーーその剣‥‥もうボロボロだね」
アーサーが、自分の剣に目を落とした。
刃は、ボロボロだった。
欠け。
歪み。
ひび。
「‥‥‥やはり、酷い状態ですね」
小さく呟く。
蓮が、覗き込む。
「うわ‥‥‥」
素直な感想。
「よくそれで最後まで戦えたな」
「マスターから頂いた、大事な剣ですから」
アーサーは、静かに言う。
「研げば‥‥‥まだ使えます」
その言葉にーー
「いやそれは無理があるだろ‥‥‥‥」
蓮が苦笑する。
アーサーは、少しだけ剣を持ち上げーー
じっと見つめた。
その時ーー
ぴき。
微かな音。
「‥‥‥‥?」
アーサーの眉が、わずかに動く。
ぴき、ぴきぴき‥‥‥‥。
刃に、走る亀裂。
嫌な音
「あ」
次の瞬間。
ーーストン。
刃が、落ちた。
真っ二つに折れた剣が、
無情にも地面に転がる。
静寂。
一瞬の、完全な沈黙。
そしてーー
「あああああああああああああああ!!!」
アーサーが、絶叫した。
「わ、私のぉぉぉぉぉぉぉ!!剣がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
取り乱す。
完全に取り乱す。
「嘘でしょう!?今のタイミングで折れます!?」
「いやむしろ今までよくもったな!?」
蓮が即ツッコミ。
「ど、どうしましょうマスター!?これ修理できますか!?」
「いや無理だろそれ!!」
「そんなぁぁぁぁぁ!!」
ガックリと膝をつくアーサー。
バーキンが腹を抱えて笑う。
「ガハハハ!!いいオチだなぁ!!」
エルメスは、くすりと笑いーー
「‥‥‥‥さて」
ぽつりと呟く。
「次は、新しい剣が必要だね」
その一言がーー
次の物語の、始まりを告げていた。




