新たな牙、その一撃
ーーガンッ!!
拳が剣に叩きつけられ、アーサーの体が半歩、後方へ滑る。
「ぐっ‥‥‥‥!」
靴底が石を削る。
真正面で受けていれば、押し潰されていた。
今のはーー受け流したに過ぎない。
(重い‥‥‥‥!)
腕が軋む。
骨の奥まで、衝撃が響く。
(力は完全に上‥‥‥だがーー)
視線は逸らさない。
(単調だ)
ランスロットの拳は強い。
だが、直線的。
だからこそーー
踏み込む。
「アルトリア流剣術ーー《裂爪》!!」
ーーザンッ!!
斜めに斬り上げる一閃。
拳の軌道を外しながら、その腕を裂く。
「‥‥‥‥‥!」
ランスロットの体制が、わずかに崩れる。
その隙を逃さない。
「アルトリア流剣術ーー《双爪》!!」
ーーザンッ!!
ーーザンッ!!
左右から抉る連撃。
浅い。
だが、確実に通る。
削れる。
それは偶然ではない。
ーーアルトリア流剣術。
王家に伝わる剣術。
神獣”獅子”を象徴としーー
その牙で敵を裂き、その爪で敵を屠る。
アルトリア王国では国旗にその”獅子”が描かれている。
かつての王は言った。
”民を守る獅子であれ”と。
その思想が、そのまま剣となった流派。
だからこそ。
逃さない。
削り取る。
それがーーアルトリア流剣術。
だが。
ーードンッ!!
ランスロットが、踏み込む。
「ーーッ!?」
強引に距離を潰す。
剣の間合いを、無理やり壊す。
至近距離。
拳。
ーーガンッ!!
「ぐっ‥‥‥‥!」
剣で受ける。
だが。
衝撃が、腕を突き抜けた。
ビリッーー
神経が焼けるような感覚。
(なっ‥‥‥‥‥!?)
手が、痺れる。
指先が、言うことを聞かない。
剣を握る手がーー震える。
(この威力‥‥‥‥!)
まともに受ければ、剣ごと持っていかれる。
その時。
ーーブンッ!!
拳が、頬を掠めた。
ーードゴォン!!
背後の地面が、弾け飛ぶ。
石が砕け、砂塵が舞う。
たった一撃。
それだけで、地面が抉れる。
(少し掠っただけで、この威力‥‥‥!?)
理解する。
この男はーー
”防ぐ相手じゃない”。
(捌いて、斬る‥‥‥!)
思考を切り替える。
次の一撃。
来る。
だがーー
(見える‥‥‥!)
肩の動き。
踏み込み。
ほんの一瞬早くーー
「アルトリア流剣術ーー《横爪》」
半歩、身体をずらす。
拳が、空を切る。
その瞬間ーー
「そこだ!」
ーーザンッ!!
脇腹を切り裂く。
「‥‥‥‥!」
ランスロットの体が、わずかに揺れる。
だがーー
止まらない。
むしろ。
さらに踏み込んだ。
ーードンッ!!
距離が消える。
至近距離。
拳が、振り抜かれる。
「ーーッ!」
ギリギリで受ける。
だが。
押される。
(押し切られる‥‥‥‥!)
このままでは、ジリ貧。
一方ーー
ランスロット。
(この剣‥‥‥)
確実に、自分を削ってくる。
そしてーー
(あの一撃‥‥‥)
脳裏に残る、鋭い斬撃。
(喰らえば終わる)
確信。
拳だけでは、押し切れない。
ギリ、と。
腕に巻かれた鎖を握る。
(‥‥‥本意じゃないが)
一瞬の迷い。
だがーー
(守るためだ)
決断。
ーージャラ‥‥‥
鎖が、解かれる。
空気が変わった。
「‥‥‥っ!」
アーサーの瞳が、細くなる。
(間合いが‥‥‥広がる‥‥‥!)
次の瞬間。
ーーブンッ!!
鎖が唸る。
鞭のようにしなり、進路を完全に遮断する。
左右から挟み込む軌道。
踏み込めばーー当たる。
(距離を‥‥‥支配された‥‥‥!)
「おっとぉぉぉ!!ランスロット!!初めて戦い方を変えてきたぞぉぉ!!」
サルサの驚く声が響き渡る。
今まで”拳”のみで戦ってきた彼が戦略を変えてきたのだ。
だが。
(それでも‥‥‥!)
剣を構える。
視線は、逸らさない。
(斬る‥‥‥‥!)
踏み込む。
ーーザンッ!!
鎖を、斬る。
だが、すぐに別の軌道で襲い来る。
ーーザンッ!!
ーーザンッ!!
弾き、斬り、避ける。
少しずつ。
確実に。
削っていく。
(あと少し‥‥‥!)
鎖の数が、減る。
軌道が、乱れる。
そしてーー
「もう‥‥そろそろ決着をつけましょうか」
アーサーが改めて剣を構える。
「そのようだな‥」
ランスロットも構える。
空気が、張り詰める。
アーサーは深く深呼吸をした。
「ふーーーーー」
そして、新たに剣を構え直す。
そのアーサーの構えを見た観客たちから
ざわめきが起こった。
観客席。
蓮が、目を見開く。
「それって‥‥‥‥まさか‥‥‥‥」
視線の先。
アーサーの構え。
低く。
一直線に、貫くためだけの姿勢。
"斬る"構えではない。
"突く"構え。
アルトリア流剣術には存在しないーーはずの型。
その瞬間。
記憶が、よぎる。
***
「そういえばアーサー」
鍛錬中。
蓮が、軽い調子で声をかける。
「そういえば‥‥‥
アルトリア流って、"突き"はないのか?」
「はい、斬撃が主体ですね」
「ふーん‥‥‥じゃあさ」
蓮が、剣を構える。
少しふざけたような動き。
「こうやって構えてーー」
低く。
ビリヤードの球を突くような姿勢。
「一気に、ドンッ突く!!」
ーーヒュン!!
空気を裂く音。
「‥‥‥‥っ!」
「まぁこんな感じ」
アーサーの目が、見開かれる。
「どう?カッコよくない?」
蓮が、ドヤ顔で言う。
「えっと‥‥‥それは‥‥‥?」
「ん?昔見たアニメの技」
「アニメ‥‥?」
アニメを見たことないアーサーは戸惑った。
軽いノリ。
完全に冗談。
「まぁ実戦で使えるかは知らんけどな!」
笑う蓮。
しかしアーサーは至って真剣だった。
「これは何という技なんですか?マスター」
「これか?この技は‥‥‥‥」
***
そして現在。
アーサーが、構える。
低く。
真っ直ぐに。
一点を貫く構え。
「‥‥‥‥っ」
ランスロットの目が、見開かれる。
(その構え‥‥‥!)
空気が、変わる。
(今までの技とは"比べ物"にならない気がする)
「使わせてもらいます‥‥‥マスター」
大きく深呼吸をするアーサー。
(ーー来る)
赤いノイズが、意識の端を掠める。
だが。
(それはいりません)
一瞬だけ、蓮の気配を感じる。
(これはーー私の戦いです)
ーープツン。
意識の中で、何かが断ち切る。
********************
【対象者が同期を切断しました。】
********************
ーープツン。
何かが、完全に途切れた。
ふーー。
神経を研ぎ澄ませる。
「ーーアルトリア流剣術ーー」
アーサーが、静かに呟く。
「ーー《牙突》!!」
ーードンッ!!
爆発的な踏み込み。
一一直線。
全てを貫く一撃がーー放たれた。
一直線。
迷いのない、突き。
(速いーー)
ランスロットの目が、捉える。
見えている。
軌道も。
狙いも。
全て。
だがーー
(‥‥‥間に合わない!?)
体が動かない。
いや。
動こうとはしている。
だがーーその前に。
もう、来ている。
距離が、消えている。
(なんだ‥‥‥この踏み込み‥‥‥!)
理解が追いつかない。
今までの動きと、明らかに違う。
ー直線。
だが、それだけじゃない。
"無駄がない"。
削ぎ落とされた一撃。
それはまるでーー
(牙………!)
喰らいつく、獣の一撃。
避ける。
その選択をとるにはーー
もう、遅かった。
ーーズドンッ!!
衝撃。
アーサーの剣が、ランスロットの胴を貫いた。
「ーーがっ‥‥‥‥!」
空気が、止まる。
観客の声が、消える。
音がーー消失する。
ランスロットの体が、わずかに浮いた。
そしてーー
後方へ、吹き飛ぶ。
ーードゴォン!!
地面に叩きつけられる。
土煙が、舞い上がる。
静寂。
誰も、声を出せない。
理解が、追いつかない。
ただ一人。
アーサーだけが、立っていた。
剣を突き出したまま。
荒い呼吸。
震える腕。
それでもーー
倒れない。
やがて。
煙の中からーー
動かない影。
ランスロットは、起き上がらなかった。
その瞬間。
「ーーしょ、勝者ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
サルサの声が、響いた。
「アーサーーーーーーーーー!!!」
歓声が、爆発する。
だが。
アーサーは、動かない。
ただ。
ゆっくりと、剣を下ろす。
そしてーー
「‥‥‥‥はぁ‥‥‥‥」
小さく、息を吐いた。
視線の先。
倒れた、ランスロット。
(強かった‥‥‥)
心から、そう思う。
だからこそ。
その勝利にはーー
意味があった。




