壊す者
歓声が、鳴り止まない。
「アーサァァァァァァァァ!!」
「今のなんだァァァァ!!!?」
「速さを斬ったぞ今ァァァァ!!」
闘技場全体が揺れる。
熱狂。
興奮。
どよめき。
その中心ーー
静かに立つアーサー。
対照的に、観客席は完全に湧き上がっていた。
***
観客席ーー
「‥‥‥たまげたな」
バーキンが、思わず口を開く。
いつもの無機質な声ではない。
ほんのわずかに、熱が混じっている。
「速度を読むだけじゃない‥‥‥」
目を細める。
「あの一撃で、”終わらせた”か」
腕を組む。
「完成度が一段上がったな」
その口元がーーわずかに緩む。
「‥‥‥‥いい」
小さく。呟く。
「実にいい」
隣でーー
「だろ?」
エルメスが、ドヤ顔で腕を組んでいた。
「だから言ったじゃないか」
「”僕のアーサー”は特別だって」
「‥‥‥お前のじゃないだろ」
バーキンが即座に返す。
「細かいことはいいんだよ」
ふふん、満足げに笑うエルメス。
「いやぁ、見れてよかった!エルメスよ」
「これはいっそう価値が跳ね上がるなぁ」
「ところで‥‥‥やっぱり売らない?」
「売らないよ」
即答。
にこり。と笑う。
だがーーその目はやはり笑っていない。
「何度でも言うけどね」
「これは、僕の"最高傑作"だ」
一拍。
その言葉にーー
「‥‥‥なるほどな」
バーキンが、静かに頷く。
「なら、尚更だな」
視線は闘技場へ。
「欲しくなる」
ぼそりと漏らす。
その横でーー
「‥‥‥‥ふっ」
マーリンが、なぜか腕を組んでいた。
やや顎を上げる。
「当然!!」
「えっ?」
蓮が振り向く。
「私の特訓の成果があったってことだよ」
「仕上がるのも当然というか」
「いやいやいや」
蓮がツッコむ。
「そんなに関わってないでしょ!?」
「精神面だよ、精神面」
すました顔で返すマーリン。
「基礎は大事だからね」
「どの口が言ってるんだよ‥‥」
「鍛錬中に横でアイス食ってばっかりだっただろ」
蓮が呆れる。
「誘惑に打ち勝つ鍛錬だよ。マスター」
「お前は、負けっぱなしだがな」
「でも‥‥‥」
小さく呟く。
「やっぱすげぇな、アーサー」
まだ鳴り止まない歓声の中。
闘技場を眺める蓮。
その目には、確かな誇りがあった。
歓声が、まだ収まらない中ーー
「さぁァァァァ!!次の試合だァァァァ!!」
サルサの声が、再び闘技場を震わせる。
「準々決勝!!」
「ここからは実力者同士のぶつかり合いだァァァ!!」
歓声の熱が、一段上がる。
「登場するのはァ!!」
ドォンッ!!
門が開く。
「鋼鉄の盾を誇る重剣士!!」
「”不落のガイゼル”ゥゥゥゥゥ!!」
ズシン‥‥‥ズシン‥‥‥
重い足音。
現れたのはーー
全身を重装で固めた大男。
巨大な盾。
厚い鎧。
その一歩ごとに、地面が軋む。
「おおおおお!!」
「ガイゼルだ!!」
「今大会の防御最強だぞ!!」
観客が沸く。
ガイゼルは、無言で盾を地面に叩きつけた。
ドゴッ!!
「‥‥‥来い」
低く、構え。
ーーそして。
「対するはァァァァァァァ!!」
一瞬の間。
空気が、変わる。
「連勝街道まっしぐらァ!!」
「拳一つで全てを叩き潰す!!」
「獣人族の怪物ーー!!」
「ランスロットォォォォォォォォォ!!」
ドォォォォォォォォォッ!!
歓声が爆発する。
ゆっくりとーー現れる影。
黒い毛並み。
圧倒的な体躯。
ただ歩くだけで、
空気が沈む。
「‥‥‥‥」
何も言わない。
ただーー立つ。
それだけで、場が支配される。
***
控え通路ーー
「‥‥‥‥」
アーサーは、静かにそれを見ていた。
(あの獣人の男‥‥‥‥)
目を細める。
(やはり強い‥‥‥‥!!)
これまでの試合は
全て、”一撃”。
だがーー
(それだけじゃない)
視線が、わずかに鋭くなる。
(あの圧‥‥‥)
言葉にできない何か。
(戦えば分かる‥‥‥)
無意識に、剣を握る手に力が入る。
***
闘技場ーー
「ーー試合、開始ィィィィィィィィ!!」
ドンッ!!
先に動いたのはーーガイゼル。
「おおおおおおおおおおお!!」
盾を構え、突進。
一直線。
真正面からの圧殺。
「受けてみろォォォォ!!」
ドゴォォォォンッ!!
地面が砕ける勢い。
ーーだが。
「‥‥‥‥」
ランスロットは、動かない。
そのままーー
ドンッ!!
盾が、直撃する。
「入ったァァァ!!」
サルサが叫ぶ。
だがーー
「‥‥‥軽いな」
低い声。
「なっ‥‥‥‥!?」
ガイゼルの目が見開かれる。
押しているはずなのにーー
(動かねぇ!?)
まるで、壁。
いやーー
山。
「ぐっ‥‥‥‥‥!」
さらに力を込める。
だがーー
ピクリとも動かない。
「終わりか?」
静かに。
ランスロットが、腕を上げた。
「チッ‥‥‥‥!」
ガイゼルが後退し、距離を取る。
(バカな‥‥‥‥)
呼吸が乱れる。
(あの一撃を‥‥‥正面からだと‥‥‥?)
構え直す。
盾を前に。
体制を低く。
(ならーー)
「防ぎきってやる‥‥‥!!」
ドンッ!!
再び踏み込む。
今度は守り。
鉄壁の構え。
「来い!!」
挑発。
ーーその瞬間。
ドンッ!!!
「ぐっ!?」
衝撃。
盾の上からーー
拳。
「ば、バカな‥‥‥!!」
弾き飛ばせれる。
重装の巨体が、浮いた。
ドォンッ!!
地面に叩きつけられる。
「がっ‥‥‥‥!」
息が、詰まる。
(‥‥盾の上から!?)
立ちあがろうとする。
だがーー
影が、落ちた。
見上げる。
そこにはーー
「‥‥‥遅い」
拳が、振り下ろされる。
「ぐうぉぉぉぉぉ!!」
盾で受ける。
ガァァァァァッ!!
衝撃。
腕が軋む。
骨が、悲鳴を上げる。
(耐えろ‥‥‥‥!!)
歯を食いしばる。
「まだだァァァァァ!!」
踏ん張る。
だがーー
「‥‥‥しぶといな」
二発目。
ドンッ!!
三発目。
ドゴォンッ!!
「がっ‥‥‥あ‥‥‥!」
膝が、崩れる。
盾がーー
歪む。
「‥‥‥終わりだ」
静かに告げる。
最後の一撃。
ドォォォォォォォォッ!!
盾ごとーー空間が、歪んだ。
ーー
ドサァァァァァン‥‥‥
巨体が、完全に沈んだ。
動かない。
静寂。
「し、勝者ァァァァァァァァ!!」
「ランスロットォォォォォォォォ!!」
一瞬遅れてーー
「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
歓声が爆発する。
「防御力最強が!!」
「砕かれたぞォォォォ!!」
「止まらねぇ!!誰にも止められねェェェェェ!!」
どよめきが止まらない。
***
控え通路ーー
「‥‥‥」
アーサーは、黙って見ていた。
(強い‥‥)
「やはりあなたなのですね‥‥」
(あれは‥‥‥)
一歩、踏み出す。
(”壊している”)
防御ごと。
戦術ごと。
相手の”自信”ごと。
全てをーー叩き潰している。
「‥‥‥‥‥‥」
小さく、息を吐く。
(あれがーー)
視線が鋭くなる。
(次の相手‥‥‥)
剣を握る手に、力が入る。
「‥‥‥‥負けない」
「必ず、超える」
小さく呟いた。




