剣と瞬足
「ーー試合、開始ィィィィィィィィィッ!!」
その瞬間。
ダンッ!!
地面を蹴ったのはーーリゼ。
「ッ!!」
一瞬の間合いで消える。
(速いーー!)
観客席がどよめく間もない。
キィンッ!!
金属音。
だがそれは、斬撃ではない。
アーサーの剣が、ギリギリで弾いた音。
「へぇ‥‥‥」
(今の、反応するんだ)
だが止まらない。
次の瞬間ーー
ズバッ!!
左のダガー。
続けさまにーー
キィンッ!!
右。
さらに間髪入れずーー
ギィンッ!!
三撃、四撃、五撃。
全てが"急所"。
首。
心臓。
関節。
一切の無駄がない連撃。
「おいおいおい!」
「速すぎるだろあれ!!」
観客が叫ぶ。
だがーー
キィンッ!キィンッ!!
すべて、弾かれる。
「………は?」
リゼの目が、わずかに細くなる。
(全部見えてる?)
さらに踏み込む。
足運びが変わる
直線ではない。
揺れるような軌道。
刺客へ。
「ここはーーどう?」
背後。
ズバッつ!!
完全な死角からの一撃。
ーーだが。
キィンッ!!
「なっ!?」
振り向いていない。
それでも剣が、正確にそこにある
(嘘でしょ)
一瞬、思考が止まる。
その隙を埋めるようにーー
ザッ!!
距離を取り直すアーサー。
息は乱れていない。
「‥‥‥」
ただ、静かに構え直す。
観客席ーー
「なんだ今の‥‥‥」
蓮が呟く。
「見えてんのか‥‥‥?」
マーリンは小さく首を振る。
「違う」
目を細める。
「見てるんじゃない」
一拍。
「読んでる」
闘技場ーー
「ふーん‥‥‥」
リゼが小さく笑う。
「なるほどね」
ダガーをくるりと回す。
「面白いじゃん」
この目が、さらに鋭くなる。
「じゃあさー」
再び構える。
「これも、読める?」
次の瞬間。
消えた。
「ッ!?」
観客の視界から、完全に消失。
「どこ行った!?」
「見えねぇ!!」
ーー上。
リゼが、跳んでいた。
回転。
落下。
重力を乗せた一撃。
ズバァッ!!
「くっ‥‥‥!」
アーサーが、始めて追い込めれる。
ガキィィィィンッ!!
強い衝撃。
地面がわずかに軋む。
(重い‥‥‥‥! )
だがー受け切る。
着地した瞬間。
「まだまだァ!!」
地面スレスレの低空からーー
連撃。
速さが、さらに上がる。
キィン!!ギィン!!ガンッ!!
火花が散る。
剣とダガーが、ぶつかり続ける。
観客の目にでは、もう追えない。
「なんだこれ‥‥‥」
「レベルが違うぞ‥‥‥」
その中でーー
(速い‥‥‥でも)
アーサーの目は、冷静だった。
(軌道は単純じゃない)
(でもーー癖はある)
わずかに、踏み込みを変える。
その瞬間。
キィンッ!!
初めて。
リゼの動きがーーほんの一瞬だけ止まった。
「ッ!!」
目が、見開かれる。
(今の‥‥‥)
アーサーの剣が、
"先にそこにあった"。
「ッ!!」
リゼの目が、細くなる。
(今のーー見切った?)
ほんの一瞬。
だが確かに、自分の動きに"合わせてきた"。
「へぇ‥‥‥」
口元が、吊り上がる。
「やっぱりアンターー」
ダガーを軽く振る。
「面白いね」
一歩、下がる
そしてーー
「じゃあさ」
静かに。息を吐く。
「少し、本気出すね」
その瞬間。
空気が、変わった。
ザワッーー
観客席がざわめく。
「なんだ‥‥‥?」
「空気が‥‥‥」
蓮が眉をひそめる。
「来るぞ‥‥アーサー」
マーリンが、小さく喉を鳴らす。
ごくり‥‥
闘技場ーー
「ーー"瞬足"」
小さく、リゼが呟く。
ダンッ!!
ーー消えた。
「は?」
誰も、反応できない。
次の瞬間ーー
キィィィィッ!!!
アーサーの剣に、
強烈な衝撃が走る。
「ッ!!」
(速いーーさっきと、比べ物にならない)
目で追うのが、ギリギリ。
いやーー
(追えない)
ギィン!!ガンッ!!キィン!!
斬撃の数が、一気に増える。
「おい嘘だろ!!」
「さっきより速ぇぞ!!」
観客が悲鳴のように叫ぶ。
リゼの姿が、ブレる。
残像。
踏み込み。
反転。
全てが"加速"している。
「どう!?これ!!」
背後からの声。
ゾクッーー
キィンッ!!
ギリギリで受ける。
(完全に見えないわけじゃない)
(でもーー)
体が、追いつかない。
ドンッ!!
押し込まれる。
地面に、足跡が刻まれる。
「まだまだァ!!」
さらに加速。
ズババババババッ!!
「くっ‥‥‥‥!」
初めて、アーサーが押される。
観客席ーー
「ヤベェぞ‥‥‥」
蓮が思わず身を乗り出す。
「あれ‥‥‥‥」
「スキルだね」
エルメスが言う。
「純粋な加速系」
「厄介だよ、あれは」
「いや‥‥しかし、なんとか持ち堪えてるぞ!」
バーキンも身を乗り出して観戦する。
闘技場ーー
(速い‥‥‥)
(でもーー)
アーサーの目は、まだ死んでいない。
(一定だ)
わずかに、呼吸を見る。
踏み込みのリズム。
(完全な無秩序じゃない)
剣を構え直す。
「‥‥‥来い」
小さく、呟く。
その目はーー
もう、逃げていなかった。
(速い‥‥‥)
(でもーー)
アーサーの目が、わずかに細くなる。
(一定だ)
踏み込みのリズム。
呼吸、
重心の移動。
すべてがーー"繋がっている"。
(見えなくてもいい)
(分かればいい)
キィンッ!!
再び、斬撃を受ける。
だが今度はーー
(そこだ)
一歩。
ほんのわずか、前へ出た。
「ッ!?」
リゼの目が、見開かれる。
(今、前に出た!?)
ありえない。
この速度域で、
"迎えに来た"。
(何なの、こいつ‥‥‥!!)
だが止まらない。
止まれない。
(瞬足は‥‥‥もう長くない!!)
限界が近い。
(だったらーー)
歯を食いしばる。
「これでッ!!」
全てを込めた、最大加速。
視界が、歪む。
一直線。
喉元へーー必殺の一撃。
(取った!!)
確信。
その瞬間ーー
「ーーアルトリア流剣術」
小さく、呟きが落ちた。
一瞬。
空気が、沈む。
「ーー《獅子断》」
ゾクッーー
全身に、鳥肌が立つ
(なに‥‥‥これ)
世界が、静止したように感じる。
(やばい)
(これーー)
(受けちゃダメなやつだ)
(避けーー)
遅い。
ガキィィィィィィィッ!!!!
激しい衝撃。
火花が、散る。
「ーーえ」
リゼの手から、
感触が消えた。
視線を落とす。
ダガーがーー
半ばから、綺麗に断たれていた。
「‥‥‥嘘」
そのままーー
スッ。
喉元に、剣が添えられる。
完全な、停止。
静寂。
歓声すら、遅れている。
「‥‥‥‥‥」
アーサーは、何も言わない。
ただ、そこに"答え"があった。
「‥‥‥っは」
リゼが、小さく笑う。
肩で息をする。
「はいはい。降参」
額に汗。
少し諦めたような表情をするリゼ
しかし、どことなく楽しそうだった。
「読んでたんだ‥‥‥全部」
ぽつりと、呟く。
アーサーは静かに言う。
「全部じゃないです」
一拍。
「でもーー来る場所は分かりました」
静寂。
そしてーー
「ーー勝者ァァァァァァァァァ!!」
「アーサァァァァァァァァァァ!!」
歓声が、爆発する。
「なんだ今のはァァァァ!!?」
「見えた奴いるか!?」
「いや無理だろ!!」
どよめきが、止まらない。
闘技場の中心。
リゼは、剣先を見つめながらーー
「負けたか‥‥」
小さく呟く。
そしてーー顔を上げる。
ニヤリ。
「でもさ」
一歩、下がる。
「最高だったよ」
その目には、まだ火が灯っている。
「次は、負けないから」
アーサーは、わずかに目を細める。
「‥‥‥はい」
短く、応じた。
剣を下ろす。
歓声の中ーー
二人は、静かに離れていった。




