邂逅
ーー数試合後。
「決まったァァァァ!!」
サルサの声が、闘技場に響き渡る。
「これでまた一人、勝者が決まったァーー!!」
歓声が湧き上がる中ーー
次々と試合が進んでいく。
力と力のぶつかり合い。
技と技の読み合い。
その中でーー
「うおおおおおおおおッ!!」
「なんだ今の剣さばきは!?」
観客の視線を集める一人。
アーサー。
無駄のない動き。
的確な一撃。
危なげなく、勝ち上がっていく。
ーーそして。
「速すぎるゥゥゥゥゥゥゥ!!」
「また一瞬で終わったぞ!?」
閃光のように駆ける影。
リゼ。
二本のダガーが舞うたびに、
対戦相手が崩れ落ちる。
ーーさらに。
「止まらねえぇぇぇぇ!!」
「また一撃だァァァァ!!」
巨体が、拳一つで敵を沈める。
ランスロット。
その姿にーー
観客は"恐怖"すら抱き始めていた。
***
観客席ーー
「‥‥‥順調だな」
蓮が闘技場を見下ろしながら呟く。
「アーサーも、リゼも、ランスロットも‥‥‥」
「そろそろ当たりそうだね‥‥マスター」
マーリンが隣で呟く。
「ああ‥‥これからが本番だな」
その時ーー
「アーサーは順調に勝ち進んでいるみたいだね」
横から、聞き慣れた声。
「師匠」
振り向くと、エルメスが立っていた。
「遅かったですね」
「ちょっと野暮用でね」
軽く肩をすくめるエルメス。
その隣にはーー
一人の男がいた。
無駄のない立ち姿。
静かで鋭い視線。
「紹介するよ」
エルメスが口を開く。
「彼はバーキン。僕と同じ"ハイクラス"(奴隷商人)だ」
「‥‥‥バーキンだ」
短く名乗る。
「お会いできて光栄です」
蓮は頭を下げる。
バーキンは小さく頷いた。
「バーキンとは長い付き合いでね」
「……腐れ縁だ」
バーキンが淡々と返す。
「彼とは特に仲が良くてね。まるで兄弟みたいなものさ」
「‥‥‥否定はしない」
感情の薄い声。
「バーキンは他国で商いをしていてね」
「毎年、この大会を見に来るんだ」
「強い者が集まる場だ」
バーキンが闘技場を見下ろす。
「価値のある人材も、見つかる」
その一言でーー
空気がわずかに冷える。
「それで今回は」
エルメスが笑う。
「"僕の"アーサーを見せたかったんだよ」
「師匠‥‥‥」
蓮がすかさず言う。
「アーサーは"俺の"です」
「弟子のものは師匠のものだろう?」
「いじめっ子みたいなこと言わないでくださいよ」
「‥‥‥ふっ」
バーキンがわずかに口元を動かす。
「面白い関係だな」
その視線はーー
闘技場へ。
「………あの剣士か」
ぽつりと呟く。
「無駄のない。完成度は高い」
「‥‥‥‥まだ荒いが」
一拍。
「伸びるな」
「‥‥‥分かるんですか?」
蓮が聞く。
「見れば分かる」
即答だった。
「むしろ、分からない方が問題だ」
そしてーー
「‥‥‥俺に売ってくれ」
空気が、変わった。
「は?」
蓮が思わず声を漏らす。
バーキンは気にした様子もなく続ける。
「あれはいい素材だ」
「俺が手を入れれば、何倍にも価値を上げられる」
まるで"物"を語るような口調。
「悪い話じゃない」
視線が、初めて蓮へ向けられる。
「どうだ?」
「いやいやいやいや!!」
蓮が即座にツッコむ。
「売りませんよ!?仲間ですから!!」
「仲間?お前さんも奴隷商だろ?」
「価値のある人材だ」
バーキンは平然と返す。
「それをどう扱うかで、価値が変わる」
「俺は、それを最大化できる」
一切の迷いがない言葉。
「だから、譲ってくれ!頼む」
その空気をーー
「ダメだよ」
軽い声が、割って入った。
エルメスだ。
「それは譲れないなぁ」
にこりと笑う。
だがその目はーー笑っていない。
「昔の馴染みでも、ね」
「‥‥‥そうか」
バーキンは、あっさりと引いた。
だがー
「釣れないのぉ‥‥」
わずかに肩をすくめる。
「いい話だと思ったんだがな」
「君にしては強気だね」
エルメスがくすっと笑う。
「それだけ、価値があるってことさ」
バーキンは再び闘技場へ視線を戻す。
「‥‥‥あの剣士」
小さく呟く。
「いずれ、"選ばされる"側になる」
意味深な一言。
「その時に、どちらに転ぶかだな」
沈黙。
蓮の中に、わずかな違和感が残る。
(なんだ‥‥‥今の)
ただの会話のはずなのにーー
どこか、引っかかる。
闘技場では歓声が響いている。
だがその裏で、
静かに"何か"が動き始めていた。
***
ーー数試合後。
「さぁーーここで注目のカードだァァァァァ!!」
サルサの声が、これまで以上に熱を帯びる。
観客席もざわめき始める。
「ここまで順当に勝ち上がってきた二人!!」
「ついに激突だァァァァ!!」
ドォンッ!!
闘技場の門が、同時に開いた。
「無名ながら圧倒的な剣技で勝ち上がってきた剣士!!」
「アーサァァァァァァァァァ!!」
歓声が上がる。
だがそれはーー
期待と疑念が混じった声。
「本物なのか‥‥‥?」
「いやでも、あの動きは‥‥‥」
そんな中ーー
アーサーは静かに歩み出る。
無駄のない足取り。
ただ、前だけを見ている。
ーーそして。
「対するはァァァァ!!」
サルサの声がさらに弾む。
「二刀流の女戦士!!」
「スピードと斬撃で相手を翻弄する危険な存在ィィ!!」
「リゼェェェェェェェェェェ!!」
歓声が爆発する。
軽やかな足取りで現れるリゼ。
両手に逆手のダガー。
ニヤリと笑う。
「やっとだね」
小さく呟く。
闘技場の中央ーー
二人が、向かい合う。
ざわめきが、徐々に静まっていく。
「‥‥‥‥‥」
アーサーは、静かに構える。
その視線は真っ直ぐ。
リゼはーー
「やっと戦えるね」
口元を歪める。
「あの時、言ったこと覚えてる?」
一歩、距離を詰める。
「‥‥‥‥はい」
アーサーは短く答える。
「全力で来い、でしたよね」
「ちゃんと覚えてるじゃん」
リゼは楽しそうに笑う。
「いいね」
ダガーを軽く回す。
「私もーー全力でいくから」
その瞬間。
空気が、ピリッと張り詰める。
観客たちも、息を呑む。
「勝たせてもらうよ」
リゼの目が、鋭くなる。
だがーー
「負けません」
アーサーの声は、静かだった。
だが確かに、強い意志が宿っている。
一歩も引かない視線。
「‥‥‥いいね」
リゼが、笑う。
「そういうの、嫌いじゃない」
二人の間に、沈黙。
ーー次の瞬間。
「ーーこれはァァァァ!!」
サルサが叫ぶ。
「スピードか!?剣技か!?それともーー」
「新たな頂点が生まれるのかァァァァ!!」
観客の熱が、一気に高まる。
「準備はいいかァァァ!!」
二人はーー動かない。
ただ、互いを見据える。
「ーー試合、開始ィィィィィィィィィッ!」




