獣の王
「さぁーー続いての試合ィィ!!」
サルサの声が、再び闘技場を震わせる。
「登場するのはァ!!」
ドォンッ!!
「東方より現れた拳の使い手ーー!!」
「レンファァァァァ!!」
歓声が上がる。
軽やかな足取りで現れたのは、一人の少女。
しなやかな体。
無駄のない構え。
スッーー
静かに拳を構える。
「はぁ‥‥‥‥」
息を整える。
その目には、強い闘志。
「対するはァ!!」
一拍。
「連勝記録更新中!!」
「獣人族の怪物ーー!!」
「ランスロットォォォォォ!!」
ドォォォォォッ!!
歓声が一段と大きくなる。
重い足音。
黒い毛並み。
圧倒的な体躯。
ゆっくりと、闘技場に現れる。
「‥‥‥‥‥‥」
何も言わない。
ただ、立つだけで空気が変わる。
(‥‥‥デカい)
レンファが目を細める。
(でもーー)
拳を握る。
(関係ナイネーーッ!!)
「ーー試合、開始ィィィィ!!」
ダンッ!!
レンファが踏み込む。
速い。
一瞬で間合いに入る。
「はぁッ!!」
鋭い掌打。
喉元へ。
ドッ!!
確かに、入った。
(よし!)
続けざまにーー
肋。
顎。
鳩尾。
正確無比な連撃。
ドドドドッ!!
「どうネッ!!」
観客が沸く。
「入ってるぞ!!」
「速ぇ!!」
だがーー
「‥‥‥‥‥」
ランスロットは、動かない。
「‥‥‥‥は?」
レンファの動きが止まる。
(今の‥‥‥全部、急所アルネ‥‥)
見上げる。
目の前の男はーー
微動だにしていない。
(‥‥‥‥効いてない?)
背筋に、冷たいものが走る。
「まだアル!!」
叫ぶ。
再び踏み込む。
「はぁぁぁぁぁッ!!」
渾身の一撃。
全力の拳。
ゴッ!!
確かな手応え。
ーーだが。
「……ぬるいな」
低い声。
ピタリとーー
時間が止まったように感じた。
(ーー死ぬ)
本能が、そう告げた。
ゾクッーー
全身が、凍りつく。
(なっ‥‥‥‥!?)
次の瞬間ーー
ドンッ!!
視界が、消えた。
衝撃。
ただ‥‥拳のみの打撃
「がっ‥‥‥!?」
気づいた時にはーー
体が宙を舞っていた。
そのままーー
ドサァァァァン!!
地面に叩きつけられる。
静寂。
ピクリとも動かない。
「‥‥‥し、勝者ァァァァァァァ!!」
「ランスロットォォォォ!!」
一瞬遅れてーー
「おおおおおおおおおおおおおッ!!」
歓声が爆発する。
「なんだ今の!?」
「一発‥‥‥!?」
「ありえねぇだろ‥‥‥!!」
観客席ーー
「‥‥‥嘘だろ」
蓮が呟く。
「全部入ってたぞ‥‥‥今の‥‥」
(全く効いてなかった)
マーリンの表情が、わずかに曇る。
「‥‥‥‥‥バケモノ。」
闘技場ーー
ランスロットは、振り返らない。
倒れた相手にも、観客にも興味がない。
ただそこに残るのはーー
圧倒的強者。
「な、なんなんだァーーッ!!」
サルサの声が、ひっくり返る。
「今のは一体なんだァァァァ!!」
「拳を受けても!!蹴りを受けても!!」
「ビクともしない!!」
「まさにーー化け物かァァァァ!!?」
観客席がどよめく。
「連勝は伊達じゃない!!」
「圧倒的!!圧倒的な力だァァァァ!!」
興奮が、会場全体に広がっていく。
闘技場・通路裏ーー
薄暗い空間。
その奥でーー
一人の男が、口元を歪めた。
「‥‥‥ククッ」
太った体を揺らしながら、
奴隷商人が低く笑う。
視線の先にはーー
闘技場へと戻っていくランスロットの背中。
「そうだ‥‥‥それでいい」
舌で唇を舐める。
「お前は、それでいい‥‥‥」
目が、濁る。
「戦って、勝ち続ける」
「それしか価値がないのだからなぁ‥‥‥」
ニヤリと笑う。
ーーそれが、お前の"存在理由"だ
「せいぜいーー」
声が、低く落ちた。
「俺を楽しませろ、化け物」
王族専用席ーー
大闘技場を見下ろす、高所。
レブロス・グランゼルは、
腕を組みながらその一戦を見ていた。
「‥‥‥ほう」
短く、息を漏らす。
「今のは、見事だな」
隣に控えるヴァルディスが、静かに頷く。
「はい。あの拳法家も、決して弱くはありませんでした」
「それを、あの一撃で沈めるとは‥‥‥」
「圧倒的だな」
レブロスの口元が、わずかに歪む。
「いい」
一歩、前に出る。
「実にいいぞ」
その目が、鋭く細められる。
「力とは、こうでなければな」
闘技場を見下ろす。
歓声の中心ーー
ランスロットの姿。
「ますます興味が湧いた」
低く、呟く。
「どこまで行けるか‥‥‥」
「ーー余に見せてみよ」




