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第一試合

剣闘大会当日ーー


王都グランゼル、大闘技場。


巨大な円形のコロシアムは、

すでに人で埋め尽くされていた。


ざわめき。

歓声。

熱気。


そのすべてが、渦を巻くように会場を満たしている。


「‥‥‥‥すげぇな」

蓮が、思わず呟いた。


見渡す限り、人、人、人。


貴族らしき者たちが座る特別席。

その下には、一般観客がびっしりと詰めかけている。


立ち見すら出ているほどの盛況ぶりだった。


「こんなに集まるのかよ‥‥‥」


「はい!」


セシルが元気よく頷く。


「年に一度の大イベントですからね!

 この国で知らない人はいませんよ!」


「なるほどな‥‥‥‥」


蓮は改めて、闘技場へと視線を向けた。


中央には、広大な戦闘フィールド。

周囲を囲む高い壁。

そのさらに上には、王族専用の席が設けられている。


ーーその時。


ドォォォォォッ!!

重低音が響いた。


同時に、歓声が一段と大きくなる。


「来るぞ‥‥‥‥」

誰かが呟いた。


高い位置にある王族席。

そこに、一人の男が姿を現した。


豪奢な衣装。

威厳に満ちた佇まい。


ーーこの国頂点。


グランゼル王国国王ーーレブロス・グランゼル。


その姿を見た瞬間、

観客の熱が一気に跳ね上がる。


「おおおおおおおおッ!!!」


地鳴りのような歓声。

王はゆっくりと手を上げた。

それだけでーー

ピタリと、会場が静まる。


「‥‥すげぇ」

蓮は小さく呟く。


(これが‥‥‥王か)


圧倒的な存在感。

それだけで、場を支配している。


やがて王が口を開いた。


「ーー今年もまた、この日を迎えられたことを喜ばしく思う」

低く、よく通る声。


「我が国グランゼルの誇る剣闘大会」


「強者たちが、その力を示す場でありーー」


「民にとっては、希望と熱狂の象徴でもある」

観客が息を呑む。


「今年もまた、数多の猛者が集った」


「種族も、出自も問わぬ」


「ただ強き者が、勝ち上がる」


一拍。


「ーー存分に戦え、そして、最強を証明してみせよ」


その一言でーー


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


会場が爆発した。


歓声。

叫び。

熱狂。


全てが一気に解き放たれる。


「やべぇな‥‥‥これ」


蓮が苦笑する。


「テンション上がってきたわ」


その時ーー


「マスター」


振り向くと、アーサーがそこにいた。

すでに出場者としての装備に身を包んでいる。


「おう」


蓮は軽く笑う。


「緊張してるのか?」


「‥‥‥少しだけ」

正直な答え。

だが、その目に迷いはない。


「でも、大丈夫です」


「必ず、勝ちます」

その言葉に、蓮は頷いた。


「ああ」

肩に手を置く。


「お前ならいける」


「思いっきりやってこい」


「‥‥‥はい」


短く、力強い返事。

そのままアーサーが、闘技場へと向かっていく。

背中が、小さくなっていく。


「さて、と」

蓮は振り返る。


「俺たちは観戦だな」


「うん」

マーリンが頷く。



ーーその数分後。


「これもください!」


「えっ、ちょ、まだ食べるの!?」


セシルとマーリンは、

出店で山のように食べ物を抱えていた。


串焼き。

パン。

謎の肉。


もぐもぐもぐ。


「おい‥‥‥観戦する気あるのかお前ら‥‥‥」

蓮が呆れる。


「ひゃんと‥‥(もぐもぐ)‥‥見てるよ‥(もぐもぐ)」


マーリンが口いっぱいに頬張りながら答える。


「んぐっ‥‥‥!」


少し喉に詰まらすマーリン。

すかさず、セシルが飲み物を渡す。


「もう!マーリンちゃん大丈夫!?」

背中を摩って上げるセシル。


「むぐ‥‥‥アーサーの試合はちゃんと見る‥‥‥」


「その前に全部食い切りそうだけどな‥‥」


蓮はため息をつきながら、

再び闘技場へと視線を向けた。


ーー戦いが、始まる。


***


王族専用席ーー


大闘技場を見下ろす、高所。

そこに、静かに佇む一人の男がいた。


グランゼル王国国王ーー

レブロス・グランゼル。


腕を組み、眼下の熱狂を見下ろしている。

歓声すら、どこか遠い。


「‥‥‥今年も、よく集まったものだな」

ぽつりと呟く。


その背後に、一人の男が控えていた。


無駄のない所作。

感情を抑えた声。

男の名前は、ヴァルディス

王に仕える側近だ。


「今年の参加者はどうだ?」

レブロスは視線を落としたまま問う。


「はい」

即座に応じる。


「今年も、各地から猛者が集っていると報告を受けております」


「良い戦いが期待できるかと」


「そうか」


短く返す。

その口元が、わずかに歪んだ。


「それは楽しみだな」


一拍。


「ところでーー」


「今年の"注目株"はどうだ?」


空気がわずかに変わる。

側近は一歩だけ前に出た。


「いくつかございます」


「言ってみよ」


「はい。冒険者枠ではーー」


「"鋼斧のガルド"」


「大戦斧を用いた圧倒的な破壊力が持ち味の男です」


「防御をものともせず叩き潰す戦い方で、すでに各地で名を上げております」


「ほう」

レブロスがわずかに興味を示す。


だがーー


「しかし」

側近の声が、わずかに低くなる。


「今年、最も注目されているのはーー」


一拍、置く。


「剣闘士」


「獣人族の男です」


レブロスの眉が、わずかに動いた。


「名は、ランスロット」

その名が、静かに落ちる。


「黒の個体でありながら、すでに連勝記録を更新中」


「その戦闘能力は、並の参加者を遥かに凌駕しております」


「ほう‥‥」


レブロスの目が細くなる。


「獣人族、か」


「ええ」


「観客人気も高く、今回の優勝候補と目されております」


「なるほどな」

レブロスは顎に生えた髭を撫でながら

ゆっくりと視線を巡らせる。


闘技場の一角。


鉄の檻の奥ーー

黒い影が、静かに佇んでいた。

ただ一人、熱気から切り離されたように。


「‥‥‥面白い」

小さく呟く。


だがーー


「もう一名」

側近が続けた。


「気になる存在が」


「ほう?」


レブロスの視線が戻る。


「誰だ‥‥申してみよ」


「はい。ーー名は、アーサー」


その名に、特別な響きはない。

だがーー


「推薦者が、問題でして」


「‥‥‥誰だ」


「エルメス様です」


その瞬間。

レブロスの目が、わずかに見開かれた。


「何っ‥‥‥エルメス、だと?」


低く、確認するような声。


「はい」

側近が頷く。


「正式な推薦ではありませんが、直々に目をかけている様子でして」


「ほう‥‥‥」


レブロスの口元が、ゆっくりと歪む。


「"あの"エルメスが、か」


興味が、明確に乗る。


「それは確かに‥‥‥」

一歩、前に出る。

闘技場を見下ろしながらーー


「実に面白い」


その一言には、

確かな期待が含まれていた。


***


「さぁーー始まりましたァ!!今年の剣闘大会!!」


闘技場に、明るく弾む声が響き渡る。


「実況はこのサルサがお送りしまーすッ!!」


観客席がどっと沸く。


「まずは第一試合ーー!!」


「こちらァ!!」


ドォォンッ!!

重い音と共に、闘技場の門が開いた。


「現れたのはーーッ!!」


「鋼斧のガルドォォォォォ!!!」


歓声が爆発する。


巨大な体格。

肩に担がれた、大戦斧。


「見てくださいこの体格!!この迫力!!」


「一撃必殺!!叩き潰しの戦法で名を上げた猛者だァ!!」


ドンッ!!

ガルドが地面を踏み鳴らす。


「うおおおおおおおおッ!!」


観客がさらに沸く。


「これはいきなりの優勝候補登場だァーーッ!!」


一拍。


「対するはーーッ!!」


「無名の剣士ーーアーサー!!」


ざわっ。

観客の一部がざわつく。


「おやおやァ!?これはどういう組み合わせだァ!?」


「まさかの一回戦から、実力差マッチかァーー!?」


サルサの声が、場を煽る。


「だが!!剣闘大会は何が起こるか分からない!!」


「下剋上なるか!?それとも圧殺か!?」


「ーー試合、開始ィィィィィッ!!」




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