王都決戦
鋼の閃光が、広場を裂いた。
ーーキィン!!
激しい金属音が響いた。
アーサーの剣は確かに完成体を捉えた。
だが。
斬れない。
黒く変色した皮膚の上で、刃が滑る。
アーサーの目が見開かれる。
「‥‥‥‥なっ」
次の瞬間。
完成体の腕が振り抜かれた。
ーードゴォッツ!!
重い衝撃。
アーサーの体が弾き飛ばされる。
石畳が転がり、数メートル先で止まった。
「アーサー!!」
蓮が叫ぶ。
完成体はゆっくりと首を傾けた。
まるで獲物の強さを測るように。
その赤い目が、再びアーサーへ向く。
アーサーは膝をつきながら立ち上がる。
腕が震えている。
「‥‥‥‥硬い」
マーリンが声を上げる。
「普通の肉体じゃない!
魔力で強化されてる!!」
完成体が一歩踏み出す。
ーードン。
石畳が沈む。
周囲にいた騎士が叫ぶ。
「だ、だめだ!」
「剣が通らない‥‥‥化け物だ!」
市民の悲鳴が広場に広がる。
蓮がアーサーを見る。
「立てるか」
アーサーは剣を石畳に突き刺している。
「‥‥‥はい」
その瞳に恐怖はない。
あるのは、怒りだけ。
アーサーはゆっくりと立ち上がり、剣を握り直す
そして完成体を睨んだ。
「ここは‥‥‥」
静かな声だった。
「アルトリアの王都です」
完成体が唸る。
低い獣のような声。
アーサーは剣を構え直す。
王家に伝わる構え。
「貴様のような存在が」
一歩踏み出す。
「暴れていい場所ではない」
完成体が地面を蹴る。
再び突進。
今度は早い。
蓮が叫ぶ。
「来るぞ!」
アーサーは逃げない。
剣を握り、踏み込む。
二つの影が衝突する。
ーードンッ!!
広場に衝撃が走った。
鋼と肉体が激しくぶつかり合う。
アーサーの剣が閃く。
だがーー
完成体の腕がそれを弾いた。
火花が散る。
「くっ‥‥‥‥!」
アーサーが後ろへ跳ぶ。
完成体は止まらない。
再び踏み込む。
ーーードンッ!!
拳が振り抜かれた。
石畳が砕ける。
アーサーは寸前で身を翻す。
だが衝撃波だけで体が揺れる。
「速い‥‥‥‥!」
マーリンが叫ぶ。
「身体能力が異常!!」
完成体が低く唸る。
その喉から漏れる音は、まるで獣の咆哮のようだった。
しかしーー
その中に、微かに。
言葉のような音が混じる。
「‥‥ォ‥‥」
蓮の眉が動いた。
「今‥‥‥何か言ったか?」
完成体がゆっくりと顔を上げる。
赤い瞳が揺れた。
「‥‥‥オ‥‥‥‥」
その瞬間。
アーサーの顔色が変わった。
「まさか‥‥‥‥」
その声。
どこかで聞いたことがある。
完成体の口が僅かに動く。
「‥‥‥‥ル‥‥‥‥」
掠れた声。
ほとんど獣の唸りだ。
それでも。
確かに言葉だった。
「‥‥‥お兄さま?」
その言葉が広場に落ちた瞬間。
完成体の体が、びくりと震えた。
赤い瞳が大きく見開かれる。
そして。
獣のような咆哮が、広場に響いた。
「グォォォォォォッ!!」
完成体が暴れるように地面を蹴る。
石畳が爆ぜる。
その巨体が、再びアーサーへ突進した。
「アーサー!!」
蓮の叫び、
アーサーは剣を構える。
だがその瞳には、先ほどまでとは違う感情が浮かんでいた。
驚き。
そして。
わずかな迷い。
「‥‥お兄さま‥‥」
その瞬間。
完成体の拳が振り下ろされた。
ーードゴォン!!
広場が揺れた。
石畳が砕け、粉塵が舞い上がる。
アーサーは寸前で剣を盾にし。衝撃を受け流した。
だが完全には防ぎきれない。
体が後ろへ滑る。
「くっ‥‥‥‥!」
完全体が低く唸る。
赤い瞳がぎらつく。
そして再び拳を振り上げた。
その瞬間。
完成体の動きが、僅かに止まった。
「‥‥‥‥ッ」
喉から漏れる音。
まるで何かに抗うように。
体が震える。
蓮の目が細くなる。
「‥‥‥今だ、アーサー!」
その瞬間。
蓮の視界に、赤いノイズが走る。
(ーー来てる)
********************
【契約系統:接続維持】
【対象:アーサー】
【状態:同期/不明】
********************
アーサーの視界が、わずかに広がった。
完成体の動きが、遅く見える。
(ーー見える!!)
だがアーサーは動かない。
完成体が見つめている。
その口が、ゆっくりと動いた。
黒く変色した唇。
そこから、掠れた声が漏れる。
「‥‥‥‥ころ‥‥‥‥‥」
誰もが息を呑む。
マーリンの目が見開かれる。
完成体の赤い瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。
まるで。
人間の意識が戻ったかのように。
そして。
その口が、確かに言った。
「‥‥‥‥ころせ」
広場が凍りつく。
アーサーの剣が震える。
「‥‥‥お兄さま‥‥‥‥」
剣が、わずかに下がる。
(斬れるわけがない)
その一瞬の迷い。
だがーー
「‥‥‥‥ころせ」
その言葉が、すべてを断ち切った。
その言葉の意味は、誰にでも分かった。
ヴァルド。
アルトリア第二王子。
彼は今。
自分を討てと言ったのだ。
アーサーの瞳が揺れる。
だが。
ほんの一瞬だけだった。
ゆっくりと剣を構える。
その表情から迷いは消えていた。
「‥‥‥‥承知しました」
静かな声。
「アルトリアの騎士として」
一歩踏み出す。
剣が構えられる。
王家に伝わる構え。
そしてーー
「アルトリアの敵を討ちます」
完成体が咆哮する。
だがアーサーはもう迷わない。
地面を蹴る。
ーードンッ!!
二つの影が再び衝突した。
完成体の拳が振り下ろされる。
アーサーは横へ流す。
石畳が砕ける。
粉塵が舞う。
その隙間を縫うように、アーサーが踏み込む。
剣が閃く。
ーーキィン!!
再び金属音。
刃が弾かれる。
だがアーサーは止まらない。
二歩。
三歩。
足運びが変わる。
王家に伝わる剣術。
正面から斬らない。
崩す。
揺さぶる。
完成体の拳が唸る。
ーードンッ!!
アーサーは身を沈める。
拳が頭上を掠める。
その瞬間。
剣が走る。
肩口。
ーーキィン!!
やはり斬れない。
だが。
完成体の体勢が崩れる。
蓮の目が細くなる。
「‥‥‥‥なるほど」
マーリンが息を呑む。
「体勢を崩してる‥‥」
アーサーが小さく呟く。
「硬いなら」
一歩踏み込む。
「斬れる"形"にする」
(ーー隣にいる)
一瞬だけ。
蓮の存在が、背中に重なる。
踏み込みが、半歩深くなる。
完成体が咆哮する。
拳が振り抜かれる。
アーサーはさらに踏み込む。
懐へ。
王家の剣術。
最短距離。
剣が低く走る。
狙うのは。
首。
ーーザンッ!!
初めて、肉を裂く音が広場に響いた。
完成体の体が止まる。
赤い瞳が揺れる。
その奥で
ほんの一瞬だけ
人間の意識が戻る。
ヴァルドの口が、わずかに動いた。
「‥‥‥あ‥‥‥‥」
血が流れる。
巨体が揺れる。
アーサーは剣を引き抜き
静かな声で言った。
「‥‥‥安らかに」
完成体の体が崩れ落ちる。
ーードォン。
広場が揺れた。
アルトリア広場に、静寂が落ちる。
誰も言葉を発さない。
ただ風だけが吹いていた。
蓮が静かに言う。
「‥‥‥終わったか」
アーサーは剣を見つめていた。
その刃には、まだ血が濁っている。
「‥‥‥いいえ」
小さな声が落ちる。
「これはーー」
一瞬だけ、目を伏せる。
「私が選び、背負ったものです」




