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精霊の声

「……仕方ないなぁ」

ルイが困ったように頭を掻く。

「本当はあんまり頼りたくないんだけど……」

「みんな、ちょっとだけ力を貸して」


そう呟いた瞬間だった。

ふわっ――

空気が変わる。

止まっていた風が優しく吹き抜け、沼地の水面が波紋を広げる。

誰もいないはずの空間から、無数の光の粒が現れた。

青、緑、金。様々な色をした小さな光。

まるで蛍のように、ルイの周囲を楽しそうに飛び回っている。


「なっ……」

蓮が目を見開く。

「何だあれ……?」


「精霊……」

オズワルドが小さく呟く。


「精霊?」

アーサーが聞き返す。


「はい。自然に宿る存在です」

「エルフは彼らと共存し、その力を借りることで精霊術を行使します」

「ですが……」

オズワルドも驚いた顔をしていた。

「これほど多くの精霊に好かれている方は、私も初めて見ました」


「へぇ……」

蓮が感心する。

「やっぱりルイってすげぇんだな」


「えへへ」

ルイは嬉しそうに笑った。

「みんな優しいんだよ!」

そして誰もいない空間に向かって手を振る。

「久しぶり!」

「うんうん!」

「困ってるの!」

「そうそう!胸の中のやつ!」

「お願い!」

まるで本当に友達と話しているようだった。


「……見えない」

マーリンがぽつりと呟く。


「え?」


「何も……見えない」

小さな手を見つめる。


その横顔を、アーサーが静かに見つめていた。

「マーリン?」


「ううん」

マーリンは首を振る。

しかし、その瞳は消えゆく光の粒から離れなかった。


「精霊術――」

ルイが両手を胸の前で合わせる。

すると。

周囲を舞っていた光が、一斉にルイの前へ集まり始めた。


キィィィィィン……

無数の光が一本の巨大な槍へと姿を変えていく。

神々しい白銀の槍。先端には金色の紋様が浮かび上がり、

神聖な輝きが周囲の闇を払っていく。


ルイが小さな手を前に突き出した。

「ホーリーランス!!」


次の瞬間。

ズドォォォォォォォン!!

光の槍が一直線に飛翔し、泥巨人とマッドゴーレムたちの胸を貫いていく。


「グォォォォォォォッ!?」

泥の肉体が大きく抉れ、その奥に隠されていた赤黒い核が露わになった。


「そこそこ!」

「みんな、お願い!」


バキィィィィィン!!

光の槍が核を砕く。


「グォォォォォォォォォッ!!」

断末魔と共に、マッドゴーレムたちと巨大な泥の身体が崩れ落ちていく。


「ありがと!」

ルイが満面の笑みを浮かべると。

無数の光の粒は、嬉しそうにルイの周りをくるくる回り、空へと消えていった。


「さすがでございます。ルイ様」

オズワルドが胸に手を当て、恭しく頭を下げる。

「これほどの精霊術……。やはり、精霊王の加護を持つお方は違います」


「えへへ」

ルイは照れ臭そうに笑った。

「みんなが頑張ってくれたからね!」

誰もいない空間に向かって小さく手を振る。

「ありがとう!」

ふわふわと舞っていた光の粒も、嬉しそうにくるくる回ると、ゆっくり空へ溶けるように消えていった。


「……」

蓮は呆然としていた。

「すげぇな」

「いや、マジで」

「今の、魔法なのか?」


「精霊術です」

オズワルドが静かに答える。

「魔力によって無理矢理現象を起こす一般的な魔法とは異なり、精霊術とは精霊達の力を借りて行使する秘術」

「古くからエルフ族に伝わる技術でございます」


「へぇ……」

蓮は感心したようにルイを見る。

「つまり、ルイはあいつらと仲良くて、一緒に戦ってるってことか?」


「はい」

「しかし、誰もが扱えるものではありません」

「精霊の声を聞き、意思を通わせる才能が必要です」

「特にルイ様のように、これほど多くの精霊に愛される者は稀でしょう」


「へへーん」

ルイが得意げに胸を張る。

「みんな友達だからね!」


「いや、そこが一番意味分からん」

蓮が苦笑する。


その横で。

「精霊……」

マーリンがぽつりと呟いた。

小さな手を見つめる。

「友達……」


「マーリン?」

アーサーが不思議そうに顔を覗き込む。

「どうかしましたか?」


「ううん」

マーリンは小さく首を振った。

「なんでもない」

そう答えながらも、その瞳は先ほどまで光が舞っていた空を見上げていた。


「ふむ」

トリスタンが酒瓶を揺らしながら笑う。

「精霊術か」

「懐かしいのう」


「知ってるのか?」

蓮が聞く。


「昔、エルフの女と酒を飲んだことがあっての」

「その時に少し聞いた程度じゃ」

「エルフ達は精霊と共に生きる種族」

「森を守り、水を育み、風と共に歌う」

「人間とは違う生き方をしておる」


「へぇ……」

「つまり、ルイは凄いってことか」


「うむ」

「凄いぞ」

「ワシより酒は弱いがな」


「比べるところそこ?」

蓮が呆れる。


「兄貴より怖ぇ……」


「お嬢より怖ぇ……」


「エルフ怖ぇ……」


三馬鹿が震えながら呟いた。

「なんで俺らこんな奴らに喧嘩売ったんだ……」


「今さら後悔しても遅い」

ランスロットが淡々と答える。

「生きているだけ運が良かったと思え」


「ひぃっ!」

三人が同時に震え上がる。


そんな中。

「ねぇ」

ルイが首を傾げた。

「みんな、もう帰っちゃったけど」

「一人だけ、まだそこにいるよ?」


「え?」

蓮達が周囲を見回す。

しかし何も見えない。

「どこだ?」


「……あそこ」

ルイが指差した先。そこには誰もいない。


だが。

マーリンだけが、何故かその方向をじっと見つめていた。

「……」

「?」


「どうした、マーリン?」

蓮が声をかける。


すると。

「なんか……」

マーリンが不思議そうに首を傾げる。

「温かい」


「え?」


「なんか、優しい感じがする」

ふわっ――

誰にも見えない風が、マーリンの銀髪を優しく揺らした。

「気のせい……かな?」

小さく首を傾げるマーリン。


その見えない何かは、まるで再会を待つように。

いつまでも、マーリンの傍から離れようとはしなかった――。

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