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精霊術

ズズズズズ……

沼地を揺らしながら、五メートルを超える泥の巨人が咆哮を上げる。


「グォォォォォォッ!!」


「で、でけぇぇぇ!!」


「兄貴ぃぃぃ!!」


「死ぬ!!」


三馬鹿が半泣きでランスロットの背中にしがみつく。

「離れろ」


「嫌です!!」


「離れろと言っている」


「嫌です!!」


「やかましい」

ランスロットが眉をひそめた。


その横で、アーサーが一歩前へ出る。

「マスター」


「ん?」


「少し試してみます」

髪を揺らしながら、アーサーは静かに剣を構えた。

「アルトリア流剣術――」


ドンッ!!

地面を蹴る。白銀の閃光が泥巨人へ迫る。


「獅子王斬!!」


ズバァァァァン!!

黄金の斬撃が泥巨人の身体を斜めに切り裂いた。

「グォォォッ!?」

巨体が真っ二つに裂ける。


「おお!」


「金髪の嬢ちゃん強ぇ!!」


「やったですぜ!」


しかし。

ズルリ……

切断された泥が、再び蠢き始める。


「なっ……!?」


二つに分かれた泥は、まるで生き物のように互いを引き寄せ合い、

ズズズズズ……元の巨人へと戻っていく。

「グォォォォォォッ!!」


「うそぉ!?」

プーが悲鳴を上げた。


アーサーは剣を下ろし、小さく息を吐く。

「……やっぱり効きませんね」


「全く手応えがないわね」

エクスカリバーが呟く。


「斬撃じゃ駄目か」

蓮が顔をしかめる。


「核を壊さないと」


「核?」


ルイの表情も珍しく真面目だった。

「マッドゴーレムは体を壊しても意味ないんだ」

「身体のどこかにある"核"を壊さないと、何度でも再生するよ」


「……なるほど」

トリスタンが酒瓶を揺らす。

「つまり、面倒な相手という訳じゃな」


「グォォォォォォッ!!」

泥巨人の足元から、

ボコッ

ボコボコボコッ!!

新たな泥人形たちが次々と姿を現した。


「まだ増えるのかよ!?」


「ヒィィィッ!!」


「無理ですぜ!!」


「兄貴ぃぃぃ!!」


「だから兄貴と呼ぶな」

ランスロットの額に青筋が浮かんだ――。


「グォォォォォォッ!!」


再生した泥の巨人を見上げながら、ルイは真面目な顔になる。

「核の場所、分かったよ」


「え?」

蓮が目を瞬かせた。

「分かるのか?」


「うん!」

ルイは当然のように頷く。

「土の精霊さん達が教えてくれた!」


「土の精霊?」

蓮が首を傾げる。


その横で、オズワルドが静かに口を開いた。

「ルイ様は、精霊術に長けているのです」


「精霊術?」


アーサーも興味深そうに聞き返す。

「エルフが用いる特殊な魔法みたいなものでしょうか?」


「私も詳しくは存じませんが……」

オズワルドは少し考える。

「何でも、精霊の声が聞こえるとか」


「声?」


「はい。エルフの中でも、特に優れた者だけが扱える秘術だと聞いております」


「へぇ……」

蓮は感心したようにルイを見る。

「すげぇな、お前」


「えへへ」

ルイは照れ臭そうに笑った。

「みんな優しいんだよ!」


「いや、誰と話してるんだよ……」

蓮が苦笑する。


その時。

「精霊術……」

ぽつり。

マーリンが小さく呟いた。


「ん?」

アーサーが振り向く。

だが、マーリンは自分の手を見つめたまま、何かを考えているようだった。


「どうしました?」


「……ううん」

マーリンは小さく首を振る。

「なんでもない」


ドゴォォォン!!

巨大な泥の拳が振り下ろされ、地面が爆ぜた。

「ヒィィィィッ!!」

三馬鹿が悲鳴を上げる。

「でかい!!」


「死ぬ!!」


「嫌ですぜぇぇぇ!!」


バシャッ!!

泥を跳ね上げながら、三人は転がるように逃げ回る。


「待て待て待て!!」


「兄貴ぃぃぃ!!」


「まだ死にたくねぇ!!」


巨大な腕が再び振り下ろされる。


ドガァン!!


「うわぁぁぁ!!」


間一髪。

プーが頭から泥の中へ飛び込み、何とか回避した。

「しゃ、喋ってないで何とかしてくだせぇ!!」

「このままじゃジリ貧ですぜ!!」

「俺達、肉団子になりますよ!?」


「やかましい!」

蓮が叫ぶ。

「分かってるって!」

「核の位置は!?」


「胸の辺り!」

ルイが即答する。

「でも泥が厚くて見えない!」


「壊しても再生するし!」

「厄介だな……」

蓮が顔をしかめる。


その時。

ドゴォォォォン!!

巨大な泥の拳が、今度は馬車目掛けて振り下ろされた。


「馬車!?」


「食料!」


「酒!」


トリスタンが顔色を変える。

「酒は守れぇぇぇ!!」


「そこかよ!!」

蓮がツッコむ。


「うぬぅ!」

トリスタンは酒瓶を抱えたまま飛び退く。


しかし。

「まずい!」

アーサーの顔が険しくなる。

「このままでは押し切られます!」


「……うむ」

ランスロットも珍しく眉をひそめた。

「数が多い」

「ジリ貧だな」


そして。


「グォォォォォォッ!!」


沼の奥から、さらに新たな泥人形が姿を現した。


「まだ増えるのかよ!?」

蓮が叫ぶ。


「無理ぃぃぃ!!」

三馬鹿の絶叫が響く。


その時だった。

「……仕方ないなぁ」

ルイが、珍しく困ったように頭を掻いた。

「本当はあんまり頼りたくないんだけど……」

「みんな、ちょっとだけ力を貸して」


そう呟いた瞬間。

ふわっ――

周囲の空気が変わる。

風が止まり。

沼の水面が静かに揺れる。

そして、誰もいないはずの空間から、無数の光の粒が集まり始めた――。





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