三馬鹿
森に、情けない悲鳴が響いた。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
焚き火の光に照らされながら、縄でぐるぐる巻きにされた三人が地面で転がっている。
長男らしき男が、必死に身をよじった。
「ま、待て!!」
「俺達は山賊だぞ!?奴隷ってなんだよ!!」
蓮は肉を一口かじりながら、首を傾げる。
「いや、さっき襲ってきたよね?」
「そ、それは……通りすがりの……」
「通りすがりで武器持ってるの初めて見たな」
トリスタンが酒を飲みながら鼻で笑う。
「世も末じゃのう」
ランスロットは淡々と三人を見下ろしていた。
「抵抗しないなら楽でいい」
「抵抗したら殺されてましたぜ!?」
次男が叫ぶ。
その横で、三男はまだ状況が飲み込めていない顔をしている。
「‥‥‥‥‥‥」
アーサーが小さく手を挙げた。
「マスター」
「本当に奴隷にするのですか?」
「んー」
蓮は少し考えてから言う。
「まぁ、王都に戻すのも面倒だしな」
「適当に働いてもらえばいいんじゃない?」
「適当すぎませんか?」
アーサーが呆れ顔で呟く
オズワルドが静かに補足する。
「少なくとも、拘束は継続したまま管理するのが望ましいかと」
「ほら、オズがこう言ってるし」
「私は“管理”と言っただけで、肯定はしておりません」
「ほぼ肯定だろそれ」
そんなやり取りの中。
長男がギリギリと歯を食いしばった。
「くそっ……!」
「俺達はなぁ……!」
「漆黒の堕天狼だ!!」
その言葉に、蓮は一瞬だけ動きを止める。
「……何それ」
アーサーも首を傾げる。
「組織名でしょうか?」
「ダサくないかそれ」
トリスタンが即答する。
「酒の銘かと思ったわ」
「ひどいな!?」
長男が涙目になる。
「いいか!漆黒の堕天狼はなぁ……!」
「この街道一帯じゃ恐れられてる盗賊団だ!!」
「へぇ」
蓮は興味なさそうに肉をひっくり返す。
「じゃあその“漆黒の堕天狼”の偉い人はどれ?」
その瞬間。
三人が沈黙した。
「……えっと」
「いや……その……」
「兄貴が……」
全員の視線が、長男に集まる。
「俺だよ!!」
「兄貴!?」
次男と三男が驚く。
「え、お前がボスだったの?」
蓮が目を細める。
「じゃあ名前は?」
長男は胸を張った。
「俺はトイだ!!」
「俺はプーですぜ!」
「ドル」
焚き火の周りが静まり返る。
「……」
蓮は肉を持ったまま固まった。
(トイ、プー、ドル……)
(いやいやいやいや)
(いやでもこの世界でトイプードルはないし……)
肩が震える。
「っ……」
アーサーが心配そうに見る。
「マスター?」
「いや……」
蓮は必死に笑いを堪える。
「なんでもない」
トリスタンが怪訝そうに言う。
「どうした?」
「いや……なんでもないって……」
ルイだけが普通に笑っている。
「変な名前だね!」
「うるせぇ!!」
トイが叫ぶ。
「とにかく!!」
「お、俺達は漆黒の堕天狼だぜ!?そんな雑に扱っていい存在じゃ――」
「その漆黒の堕天狼って何する集団なんだよ」
蓮が肉を咀嚼しながら聞く。
「……え?」
三人が固まる。
「え、えっと……」
「通行料を……」
「奪う……」
「あと……たまに脅す」
ドルがぼそっと言った。
「ほぼ小遣い稼ぎじゃねぇか」
トリスタンが即答した。
「言い方!!」
トイが叫ぶ。
アーサーが少し困ったように首を傾げる。
「マスター、つまり彼らは……」
「ただの雑魚だな」
「言い方!!」
またトイが叫ぶ。
その横で、ランスロットが淡々と腕を組んだ。
「戦力にはならんが、肉体労働なら使える」
「ひどい評価だなそれ」
トイが涙目になる。
「じゃあ決まり」
蓮があっさり言った。
「お前ら三人、“臨時労働要員”な」
「な、名前それ!?奴隷よりひどくねぇか!?」
「文句あるなら歩いて帰れよ」
「縄ついてるだろ!!」
ルイが楽しそうに手を叩く。
「いいね!新しい仲間だ!」
「仲間じゃねぇ!!」
「扱いが完全に家畜なんですが」
アーサーが小さく呟いた。
その隣でオズワルドが静かに縄を確認する。
「では、最低限の規律を設定しておきます」
「慣れてきてない?」
蓮が聞く。
「いいえ。業務の一環です」
「そこは否定しろよ」
ドルは一番後ろで、ずっと無言のまま座っていた。
プーが小声で聞く。
「おいドル、どうすんだよこれ……」
ドルは呟いた。
「……働くしかない」
「即答!?」
その夜。
漆黒の堕天狼は、山賊としての誇りを失い――
焚き火の前で、肉を焼かされることになった。
「おい、焦がすなよ」
「俺達山賊だぞ!?」
「今は焼肉係だろ」
「なんでだよ!!」
焚き火の周りに、いつもより少しだけ騒がしい夜が広がっていく。
そして蓮は、肉を頬張りながらぼそっと言った。
「……まぁ、悪くないな」
「そういえばさ」
蓮が三人を見渡す。
「お前らのその……」
「漆黒の汚点狼だっけ?」
「漆黒の"堕天狼"だ!!」
トイが即答する。
「そうそうそれ」
蓮は肉をかじりながら頷いた。
「長くて言いづらいんだよな」
「はぁ!?かっこいいからいいだろ!!」
「いや‥‥かっこいいとかどうでもいい」
「とにかく長い」
一拍置いて、蓮は雑に結論を出す。
「じゃあさ」
「三馬鹿でいいか」
「は?」
三人が同時に固まった。
「いや待て!!なんでそうなる!!」
「漆黒の堕天狼だぞ!?」
「格が違うだろ!!」
蓮はまったく気にしていない。
「その方が呼びやすいし」
トリスタンが横から笑う。
「身も蓋もないのう」
アーサーも困ったようにため息。
「マスター……もう少し配慮を……」
「え、ダメ?」
ルイだけが爆笑している。
「三馬鹿!いいじゃんそれ!」
「お前が一番ダメだ!!」
蓮は肉をかじりながら、何事もなかったように言った。
「まぁいいじゃん。呼びやすいし」
トリスタンが笑う。
「完全に定着するやつじゃのう」




