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旅立ちの日

一週間後――。

王都の朝。


まだ日が昇って間もない時間だというのに、静かな通りへ大声が響いた。


「遅刻だぁぁぁぁぁ!!」

ばたんっ!!

宿の扉が勢いよく開く。

飛び出してきたのは、もちろんルイだった。


「オズ!!」


「はい」


「馬車!!」


「既に到着しております」


「食料!!」


「積み込み済みです」


「王宮への報告!!」


「昨日のうちに完了しております」


「宿代!!」


「支払い済みです」


ルイの動きが止まった。

数秒の沈黙。


「……」


オズワルドは静かに一礼する。

「全て準備は整っております」


ルイが両手を広げた。

「さすがオズ!!」


「ありがとうございます」


「じゃあ僕は何すればいいの!?」


「馬車に乗るだけでございます」


「やったー!!」

元気よくガッツポーズをするルイ。

その様子を見ていた蓮は呆れたように呟いた。


「何であいつが一番騒いでるんだ……」


「楽しみなんだろう」

ランスロットが小さく笑う。


「実家だからのう」

トリスタンも酒瓶を揺らした。


「旅行前の子供みたいですね」

アーサーが微笑む。


「お菓子」

マーリンだけは別の理由だった。

「お菓子」

大事なことなので二回言った。


「分かったから」

蓮が頭を押さえる。


その時だった。

「みんな揃っているようだね」

聞き慣れた声。

振り返ると、そこにはエルメスとセシルの姿があった。


「師匠」


「おはよう、蓮」


エルメスは穏やかに笑う。

その視線が、一人一人を順番に見渡した。


蓮。


アーサー。


マーリン。


ランスロット。


トリスタン。


ルイ。


そしてオズワルド。


全員揃っている。


「本当なら僕も同行したいんだけどね」

エルメスは苦笑した。

「店を長期間空けるわけにはいかないから」


「仕方ありません」

アーサーが頷く。


「だから――」

エルメスはオズワルドへ視線を向けた。


「オズ」


「はい」

オズワルドが一歩前へ出る。


「道中、この子達のことよろしくね」


オズワルドは静かに全員を見渡した。

そして深く頭を下げる。


「承知しております」

「責任を持ってお守りいたします」


「うん」

エルメスは満足そうに頷いた。

「君なら安心だ」


そして今度はランスロットを見る。

「ランスロット」


「何だ」


「君も頼んだよ」


ランスロットは静かに頷く。

「承知した」

短い返答。

だが、それだけで十分だった。


エルメスは小さく笑う。

「君がいるなら戦力面は安心だね」


すると――


「おーい」

横から不満そうな声が飛んできた。

全員が振り向く。トリスタンだった。

「何じゃ何じゃ」

酒瓶を持ちながら腕を組む。

「ワシだけ忘れとらんか?」


エルメスが目を瞬かせた。

「ああ」

「いたね」


「いたねじゃないわ!!」

トリスタンの叫びが朝の通りに響いた。

「ワシも同行するんじゃぞ!」


その様子にアーサーが思わず吹き出す。


ルイも笑い始める。

「はははっ!忘れられてる!」


「お主も笑うな!」


だが。

エルメスは小さく笑ってから、トリスタンを真っ直ぐ見た。

「冗談だよ」

「もちろん、君にも感謝してる」


トリスタンが少し目を丸くする。


「長旅になる」

「この子達をよろしく頼むよ」

いつもの軽い調子ではなかった。

信用しているからこその、自然な言葉。

トリスタンはしばらく黙る。


そして。

「ふん」

照れ隠しのように鼻を鳴らした。

「当たり前じゃ」

「誰に言っとる」

「武器も、馬車も、全部面倒見てやる」

「任せとけ」


短い言葉だった。だが、十分だった。

ランスロットが小さく笑う。


「頼もしいな」


「今更じゃ」

トリスタンは酒瓶を肩に乗せる。

「ワシがおる限り、お前さんらを丸腰にはせん」


エルメスが微笑む。

「うん」

「頼りにしてるよ」


そして。

最後に視線を向けたのは蓮だった。

「蓮」


「はい」


「気を付けて行っておいで」

いつもの穏やかな声。

だが、その声には弟子を送り出す師としての優しさが滲んでいた。


蓮は少しだけ笑う。

「ありがとうございます、師匠」


「待ってるからね」

エルメスも笑った。

「無茶はするなよ」


「分かってますって」

蓮が肩を竦める。

「俺、そんな無茶してます?」


「してるよ」


「してますね」


「しておるのう」


「してるな」


「してます」


エルメス。

アーサー。

トリスタン。

ランスロット。

オズワルド。

全員の声が綺麗に重なった。


「え?」

蓮だけが目を瞬かせる。


マーリンも小さく手を挙げる。

「してる」


「お前まで!?」


ルイは満面の笑みを浮かべた。

「大丈夫!」

「今回は僕もいるから!」


「それが一番不安なんだよ」

蓮が即座に返す。


皆が笑った。

その光景を見ていたセシルも、くすっと微笑む。

エルメスは静かに目を細めた。


「それじゃあ――」


「行っておいで」


そして、

ガラガラガラ……

馬車がゆっくりと動き出す。

王都を離れ、新たな旅路へ踏み出した――。




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