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新たな旅路

「それは――」

エルメスが一度言葉を切った。

「実はね」

「夜叉が主にエルフを奴隷にしていた可能性が高い、という情報が入っている」

食卓の空気が静まる。


「エルフを?」

蓮が眉をひそめる。


「そう」

エルメスは頷く。

「エルフは長寿で顔立ちも整っている。希少価値も高い」

「闇市場では高値で取引されやすいんだ」


「……そんな理由で」

アーサーが表情を曇らせる。


ルイも珍しく笑っていなかった。

「最低だね」


「だからこそ、今回の会合でも問題になった」

エルメスが続ける。

「もし夜叉の被害者がまだいるなら、救わなければならない」

「そして、そのためにはエルフ側との連携も必要になる」


「そこで――」

エルメスの視線がアーサーへ向く。

「アーサー」


「はい」


「君、国王から禁足地への許可証をもらったよね?」


アーサーが頷く。

「はい」

「剣闘大会の優勝賞品として頂きました」

「ですが、それが何か?」


「その禁足地っていうのが」

エルメスは隣のルイを見る。

「彼の故郷でもある」

「エルフの里なんだよ」


「えっ!?」

アーサーが目を丸くする。

「そうなんですか?」


「そうだよ!」

ルイが手を上げる。

「僕の生まれ故郷!」

「森ばっかりだけど、いいところなんだ!」

「お菓子もいっぱいあるし!」


「そこじゃない」

エルメスが即座にツッコむ。


マーリンの耳がぴくりと動く。

「お菓子……」


「反応するとこそこかい」

蓮が呆れる。


ルイは笑いながら続けた。

「でも今は、外部の人間は簡単に入れないんだ」

「色々あってね」

「だからアーサーちゃんの持ってる"許可証"って、結構すごいんだよ?」


アーサーは少し驚いた顔になる。

「そんな大切なものだったんですね……」


「うん」

エルメスも頷く。

「本来ならハイクラスでも簡単には手に入らない」

「だから会合では」

「アーサーの持つ許可証を使い、エルフの里と正式に接触すること」

「そして、夜叉の被害について調査することが決まった」


その言葉に。

ランスロットが腕を組む。

「つまり――」

「次の目的地はエルフの里か」


トリスタンが酒を置きながら笑った。

「ほう」

「また面白くなってきたのう」


「え?」

マーリンだけが首を傾げていた。

「村行けるの?」


ルイの顔がぱっと明るくなる。

「行けるかも!」

「お菓子いっぱいあるよ!」


「やった!」

マーリンの目が輝いた。


エルメスは苦笑する。

「まずそこなんだね」


そしてルイは満面の笑みで言った。

「ようこそ、エルフの里へ!」

「それと……」

「君のことも、無関係じゃないかもしれない」


マーリンが首を傾げる。

「わたし?」


その横で、蓮がふと思ったように口を開く。

「そのエルフの里って、実際どこにあるんだよ?」


「んーとね」

ルイが指を立てる。

「ここからだと結構遠いんだけど」

「馬車で一週間くらいかな?」


「一週間?」

蓮が目を丸くする。

「随分遠いな……」


「遠いよー」

ルイが頷く。

「だから僕も滅多に帰らないし」


「もっとも」

エルメスが話の間に入る。

「問題は距離だけじゃない」

全員の視線が集まる。

「エルフの里は、魔王軍領のすぐ隣にあるんだ」

一瞬、空気が静まった。


「魔王軍……」

蓮が小さく呟く。


アーサーも僅かに表情を引き締める。

「それなら……」

「実は夜叉と魔王軍が手を組んでいる、という可能性はないのでしょうか?」


エルメスは少し考えてから首を横に振った。

「それは考えにくいね」


「そうなんですか?」


「うん」

エルメスは苦笑する。

「夜叉も魔王軍も、基本的に他者と手を組まない」

「むしろ、単独で動くことが多い」


「何故ですか?」

アーサーの問いに、エルメスは静かに答えた。


「単純な話さ」


「個々が強すぎるからだよ」

「強者は群れる必要がない」

「それに、魔王軍と夜叉が本気で協力したら――」

エルメスは肩を竦めた。

「今頃、人類は滅んでる」

誰も冗談とは思わなかった。


ランスロットも腕を組む。

「確かにな」

「夜叉だけでも厄介だ」

「そこに魔王軍まで加われば、洒落にならん」


トリスタンも酒瓶を置きながら頷く。

「考えたくもないのう」


するとルイがふと思い出したように言う。

「でも、魔王軍の連中って変わり者ばっかりだよね」


「知ってるの?」

蓮が聞く。


「昔、一人会ったことあるよ」


「会ったことあるのかよ」


「うん」


「僕、逃げた」


「逃げたんかい」

トリスタンがツッコむ。


「だって怖かったんだもん!」


「お前も大概強いじゃろうが」


「戦うの嫌い!」

即答だった。


エルメスが小さく笑う。

「まあ、魔王軍との衝突はまずないだろう」

「ただ――」


そこで一度言葉を切る。

「エルフの里に向かうなら、魔王軍領近くを通ることになる」

「危険は増える」

「だからこそ、簡単に決められる話じゃない」

静かになった食卓。


その中で。

「お菓子ある?」

マーリンだけが真剣な顔で聞いた。


ルイは満面の笑みを浮かべる。

「あるよ!」

「いっぱい!」


「行く」

即答だった。


「だから早いんだよ」

蓮が頭を押さえる。


「行くにしても、まず王宮への報告が必要だね」

エルメスがフォークを置きながら言った。

「アーサーが許可書を持っているとはいえ、禁足地へ向かう以上、正式な手続きを踏まなければならない」

「それと馬車の手配だね」

エルメスが隣を見る。

「セシルくん」


「はーい」

セシルが笑顔で返事をする。

「手配しておきますね」


「お願いするよ」

エルメスは頷いた。

「食料も買い込まないといけないし、色々準備も必要だ」

「出発は……一週間後くらいかな」


「一週間か……」

蓮が小さく呟く。


するとエルメスが少し申し訳なさそうに笑った。

「あと、すまない」

「本当は僕も同行したいところなんだけどね」

「一週間以上、ここを空けるわけにはいかないんだ」

「その代わり」

エルメスはランスロットを見る。

「ランスロット」

「君に同行してもらいたい」


ランスロットは静かに頷いた。

「了解した」


「それは心強いです」

蓮も素直に頭を下げる。

「頼むな」


「任せろ」

短い返事だった。


「また長旅になりそうじゃのう」

トリスタンが酒を飲みながら笑う。

「お疲れさん」


「君も行くんだよ」


「何っ!?」

トリスタンが椅子から立ち上がりかけた。

「何でワシまで!?」


エルメスは当然のように答える。

「長旅には武器のメンテナンスが大事だからね」

「腕のいい鍛冶師が必要さ」


「えぇ……」

露骨に嫌そうな顔をする。


エルメスは少し身を寄せる。

「帰ったら、またいいお酒飲ませてあげるから」


トリスタンの耳がぴくりと動いた。

「ほう?」


「この前行った、若いおねぇちゃん達がいっぱいいる店で飲もう」

「もちろん僕の奢りで」

二人がヒソヒソと話し始める。

その様子を見ていたセシルが、じとっと目を細めた。


そして数秒後。

トリスタンが咳払いを一つ。

「……なら仕方ないのう!」

「腕のいい鍛冶師が必要と言うなら!」

「ワシも行かんとな!」


「うん、決まりだね」

エルメスが満足そうに笑う。

「あと――」


言いかけた瞬間。

「はいはーい!!」

誰よりも早く手が上がった。

「もちろん僕も行くよ!」

ルイだった。

「当たり前じゃん!」

「実家だよ!?」

「久しぶりの里だよ!?」

「行かない理由がない!」


エルメスが苦笑する。

「まあ、そう言うと思ったよ」

「調査も含めだから、ハイクラスが居た方がいいからね」


「オズも行きます!」


「当然でございます」

オズワルドが静かに一礼する。

「ルイ様だけを行かせるわけには参りませんので」


「さすがオズ!」

「頼りになる!」


「ありがとうございます」

「ですが逃走は禁止です」


「まだ何もしてないのに!?」


その時。

「……」

皆の視線が自然とマーリンへ向く。

アイスの代わりにデザートを食べていたマーリンは、ぱちぱちと瞬きをした。

「?」


「わたしも行く」

「お菓子いっぱいあるんでしょ?」


「あるよ!」

ルイが満面の笑みで答える。

「いっぱいある!」


「行く!」


「お前の動機が一番単純だろ」

蓮が頭を押さえる。


そしてエルメスは、賑やかな食卓を眺めながら小さく笑った。

「よし」

「それじゃ、一週間後」

「エルフの里へ向かおうか」


――こうして。

蓮達の新たな旅が、始まる。

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