食卓
会合での話し合いは何時間にも及んだ。
夜叉の件。
奴隷商人の管理体制。
各地の監視強化。
ハイクラス達による協議は、気付けば夜になっても終わらなかった。
***
「師匠、遅いな……」
蓮はリビングの時計を見ながら呟いた。
外はすっかり暗くなっている。
ソファではマーリンがぐったりしていた。
「お腹空いた……」
「まだ?」
「このままだと、お腹と背中がくっついちゃう……」
「大袈裟だろ」
「大袈裟じゃない」
真顔だった。
隣でアーサーも窓の外を見る。
「確かに遅いですね」
「まあ、そのうち帰るじゃろ」
トリスタンは酒瓶を片手に呑気に言う。
「お前は先に飲んでるし」
蓮が呆れたように言った。
「何を言う」
トリスタンは真顔になる。
「ワシに死ねと言うのか?」
「言ってない」
「酒を断てということは死ねと言うのと同義じゃ」
「初めて聞いたわ」
「名言じゃろ?」
「迷言だな」
その横で、壁にもたれかかっていたランスロットが小さく笑う。
「相変わらずだな、トリスタン」
「おう、ランスロット」
「お主も飲むか?」
「遠慮しておく」
「つまらん奴じゃ」
「お前と一緒にするな」
アーサーが小さく微笑む。
「賑やかですね」
「平和なのはいいことじゃ」
トリスタンが酒瓶を揺らす。
その時だった。
ガチャ――
玄関の扉が開く音。
「ただいま」
聞き慣れた声。
「師匠!」
蓮が立ち上がる。マーリンも飛び起きた。
「ご飯!」
「そこかい」
苦笑しながらエルメスが入ってくる。
その後ろにはセシル。
さらに――
「お邪魔しまーす!」
聞き覚えのある元気な声。
蓮の顔が引きつる。
「……何でいるんですか」
「やぁ!」
ルイ・ビトンは満面の笑みを浮かべた。
「晩ご飯食べに来たよ!」
「帰れ」
「ひどい!」
「即答ですね」
アーサーが苦笑する。
「ほほう」
ランスロットが目を細める。
「こいつが噂のエルフか」
「そうだよ!」
ルイは胸を張った。
「成り行きで付いてきた!」
エルメスが疲れたようにため息をつく。
「いや、正確には付いてきたんじゃなくて、勝手に乗り込んできたんだけどね……」
オズワルドも深々と頭を下げる。
「申し訳ございません」
そしてマーリンは、
「ご飯!」
それしか頭になかった。
「はいはい。今作るからね、マーリンちゃん」
セシルが苦笑しながら立ち上がる。
さっきまでぐったりしていたマーリンの表情が一瞬で明るくなった。
「やったー!」
ソファから飛び起きたマーリンは、尻尾でも振りそうな勢いでセシルの後ろを追いかける。
「セシル大好き!」
「ふふっ、ありがとう」
慣れた様子でエプロンを身に着けるセシル。
その横ではアーサーも自然と立ち上がっていた。
「私も手伝います」
「ありがとうございます、アーサーさん」
二人が並んで台所へ向かう姿を見ながら、蓮は小さく息を吐いた。
いつの間にか、この光景も見慣れてきた。
「いやぁ」
その様子を眺めていたルイが感心したように頷く。
「本当に賑やかだね」
「人の家なんですけど」
蓮が呆れたように返す。
しかしルイは全く気にしていない。
既に自分の家のような顔でソファへ腰掛けていた。
「細かいことは気にしない!」
「気にしてください」
「そこは気にしない!」
全く会話にならない。
その様子を見ていたランスロットが小さく笑った。
「なるほどな」
壁に寄りかかりながら腕を組む。
「確かに不思議なやつだ」
「ありがとう!」
ルイは得意気に胸を張った。
「褒めてないと思うぞ」
蓮は呟いた。
「あと成り行きでご飯を食べることになった!」
「誰も決めてないんですけど」
蓮が即座にツッコむ。
「細かいことは気にしない!」
「だから気にしろ」
そんなやり取りを眺めながら、エルメスはようやくソファへ腰を下ろした。
ふぅ、と小さく息を吐く。
珍しく疲れた顔だった。
長時間の会合。
夜叉の件だけでなく、今後の管理体制や各地の監視網。気の休まる暇などほとんどなかった。
「師匠」
蓮が声を掛ける。
「会合、そんなに長かったんですか?」
「長かったね」
エルメスは苦笑した。
「特にこの子がね」
視線の先にはルイ。
当の本人は、すっかりくつろいでいた。
「君、何回逃げようとしたと思ってるんだい?」
「三回!」
自慢げだった。
「威張ることじゃないよ」
「四回目です」
静かな訂正が飛ぶ。
全員の視線がオズワルドへ集まった。
初老の執事は、いつも通り姿勢を崩さない。
「休憩中、裏口から逃走を図りましたので」
「バレてた!?」
「当然です」
ランスロットが思わず吹き出す。
「本当に自由な奴だな」
「笑い事じゃないんだよ」
エルメスが頭を押さえる。
「助かったよ、オズ」
「いえ。慣れておりますので」
「それが一番怖いんだけどね」
そんな中。
台所から漂ってくる香ばしい匂いに、マーリンの耳がぴくりと動いた。
「できましたよー」
セシルの声が響く。
その瞬間。
「ご飯!」
誰よりも早く反応したのはマーリンだった。
「待ちなさい、マーリンちゃん」
苦笑しながらセシルが皿を並べる。
食欲を刺激する香りが部屋いっぱいに広がる。
「いただきます!」
賑やかな声が重なった。
ルイは当然のように席に座り、トリスタンは酒瓶を脇に置く。
ランスロットも椅子へ腰掛けた。
そんな中。
「そういえば、エルメス」
ルイがスープを口に運びながら言う。
「話すんでしょ?」
その言葉で、賑やかだった空気が少しだけ落ち着く。
エルメスはフォークを置いた。
セシルも動きを止める。
オズワルドは静かに目を閉じる。
「うん」
エルメスは一度全員を見渡した。
蓮。
マーリン。
アーサー。
トリスタン。
ランスロット。
そしてルイ。
「会合で、一つ決まったことがある」
その声に、蓮も自然と表情を引き締める。
「それは――」




