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義務という名の会合

「やっぱり面白いな、蓮くん」

ルイは満足そうに頷いた。


蓮はうんざりした顔をしている。

「俺は全然面白くないです」


「そんなことないって」


「ある」

即答だった。


ルイは気にした様子もなく笑う。

そしてふと店内を見回した。

アーサー。

トリスタン。

マーリン。

セシル。

バーキン。


「うーん」

何か考え込む。


エルメスが嫌な予感を覚えた。

「今度は何だい?」


「いや」

ルイは素直に答えた。

「何でこんなに濃いメンバーが集まってるんだろうと思って」


「お主にだけは言われたくないわ」

トリスタンが即座にツッコむ。


「え?」

ルイは本気で不思議そうだった。


「だってさ」

そして蓮を見る。

「君、普通だよね?」


「喧嘩売ってるんですか?」


「違う違う」

ルイは慌てて手を振った。

「褒めてる」


「褒められてる気がしない」


「普通なのに周りがおかしいんだよ」


「それは否定できませんね」

アーサーが頷いた。


「否定しろ」

蓮が即座に返す。


「ゴホン」

オズが咳払いをした。


ルイが露骨に嫌そうな顔をする。

「なに?」


「本題を」


「終わったよ?」


「終わっておりません」

即答だった。


エルメスが苦笑する。

「まだあったのかい」


「こちらが本来の目的です」

オズが淡々と言った。


ルイは諦めたように肩を落とす。

「はーい」


オズはエルメスへ向き直った。

「ところで、エルメス様」


「何だい?」


「ハイクラス会合の件はご存知ですね」


エルメスの表情が少しだけ引き締まる。

「ああ」


その反応に蓮が眉を上げた。

ハイクラス会合。名前からして穏やかなものではなさそうだ。

オズは続ける。


「今回の議題は"夜叉"についてです」

部屋の空気が僅かに変わる。


トリスタンも酒瓶を傾ける手を止めた。


「夜叉?」

蓮が呟く。


「正確には」

オズが言う。

「夜叉が奴隷商人として活動していた件についてです」


エルメスが小さく息を吐く。

「やっぱりそこか」


「はい」

オズは頷いた。

「今回、ハイクラス間で取り締まりを強化すべきだという結論になりました」


「当然だろうね」

エルメスも否定しない。

夜叉ほどの存在が奴隷商人として動いていた。

それは業界全体の問題だった。

蓮も黙って聞いている。


オズはさらに続けた。

「その件について協議するため、会合が開かれます」


ルイが嫌そうな顔をした。

嫌な予感しかしない。


エルメスが苦笑する。

「ということは……」


ルイが顔をしかめる。

「うん」


「来るよね」


オズが静かに告げた。

「シャネル様も」


沈黙。

そして。

「うげぇ……」


エルメスが軽く息を吐いた。

「そりゃあ、彼女も来るだろうね」


その名前に、ルイが露骨に嫌そうな顔をした。

「……シャネルかぁ」


蓮は一瞬だけその名を反芻する。


シャネル。

――師匠と同じハイクラスの奴隷商人。


(確か闇オークション以来か)


あの異様な空間で見た、静かな視線の女を思い出す。

感情の読めない、淡々とした立ち振る舞い。

蓮の中ではそれ以上でも以下でもない。


ルイが頭を抱えたままぼやく。

「シャネル苦手なんだよね……」


エルメスが横目で見る。

「へぇ」


「何考えてるか読めないし」


トリスタンが酒瓶を揺らしながら笑った。

「お前も大概じゃろ」


ルイが即座に顔を上げる。

「え?」


トリスタンは肩をすくめる。

「いや、あの人の思考が読めんとか言っとるが」

「お前もだいたい勢いで動いとるじゃろ」


ルイの動きが止まる。

「……失礼だね、君」


「事実じゃ」


アーサーが小さく頷く。

「否定はできませんね」


「アーサーちゃんまで!?」


エルメスが疲れたように息を吐く。

「まあ……似た者同士ではあるかもね」


ルイが納得いかない顔をする。

「納得できない!」


トリスタンが笑う。

「そこがもう読めんのよ」


ルイがぽん、と手を叩いた。

「よし!わかった!」


嫌な予感が、エルメスの背筋を走る。

ルイは満面の笑みで続けた。


「エルメス!僕、会合の日はキャンセルで!」

次の瞬間。

「ダメだよ」

「ダメです」

エルメスとオズの声がぴたりと重なった。


ルイが目を瞬かせる。

「え?」


エルメスはため息をつく。

「君ね……それは会合っていうより“義務”に近いんだよ」


オズも淡々と続ける。

「ハイクラスなら出席は必須です」


ルイは不満そうに口を尖らせる。

「えー……」


蓮が横からぼそっと言う。

「逃げられないやつですね」


ルイが振り返る。

「そう!それそれ!」


エルメスが疲れた顔をする。

「君が言うと軽く聞こえるのが問題なんだよ」


ルイは納得していない顔のまま、腕を組んだ。

「じゃあさ」


「途中退席は?」


オズが即答する。

「不可です」


「休憩は?」


「会議形式ですので基本ありません」


「じゃあトイレは?」


「許可制です」


ルイが天井を見上げる。

「最悪じゃん……」


トリスタンが吹き出す。

「そこまで管理されとるんかい」


アーサーは真面目に頷く。

「重要な会合なのですね」


蓮がぽつりと言う。

「行きたくない理由が増えてますね」


ルイが指差す。

「ほら!君もそう思うでしょ!」


エルメスは頭を押さえた。

「思ってても言わないんだよ、普通は」


ルイはもう一度深くため息をつく。

「はぁ……」


そしてぼそっと呟いた。

「シャネルいるなら余計やだなぁ……」

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