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ルイ

しばらくの沈黙。

オズが小さく咳払いをした。


「話は以上です」

落ち着いた声だった。

先ほどまでの騒がしさが嘘のように、店内は静かになる。


「はーい」

返事だけは素直だった。

ルイは不満そうに口を尖らせながらも、とりあえず引き下がる。


エルメスはようやく一息ついた。

「助かったよ、オズ」


「いえ」

オズは一礼する。

「慣れておりますので」


「それが一番恐ろしいんだけどね」

エルメスが遠い目をした。


トリスタンが吹き出す。

「毎回こんな感じなんか?」


「大体ね」


「よく付き合えるのぅ」


「僕もそう思うよ」


オズだけは涼しい顔だった。


そんな中――

ルイが突然「あっ」と声を上げた。

何かを思い出した顔だった。


エルメスの嫌な予感が一気に膨らむ。

「どうしたんだい?」


ルイは勢いよく顔を上げた。

「そういえばエルメス!」

そして大声で言う。

「弟子はどこ!?」


その瞬間。

店内の空気が止まった。

数秒。静寂。


そして――

「「「「今更!?」」」」

声が綺麗に重なった。

セシル。トリスタン。

アーサー。

エクスカリバー。

さらにはマーリンまで。


ルイだけが目をぱちぱちさせる。

「え?」


「え?じゃないよ」

エルメスが額を押さえた。

「君、何しに来たんだい」


「弟子を見に来た!」


「なら先に見なよ」


「だってマーリンちゃんがいたし!」


「理由になってない」

即答だった。


トリスタンが堪えきれず笑い出す。

「ぶはははっ!」

「何なんじゃこやつ!」


「ルイだよ」

エルメスが疲れた声で答えた。

「残念ながらね」


ルイは気を取り直したように周囲を見回す。

「で?」

「どこ?」


エルメスは椅子に座ったまま、店の隅を指差した。

「さっきからそこにいるよ」

全員の視線が集まる。

蓮だった。

特に気負う様子もなく、その場に立っている。

ルイは蓮を見る。

じーっと見る。

さらに見る。


蓮の眉がぴくりと動いた。

「……何だ」


数秒。

ルイは首を傾げた。

「え?」

嫌な予感しかしない反応だった。


「何だその反応」

蓮が不機嫌そうに言う。


ルイは正直に答えた。

「いや」

そして。

「もっとオーラがある子かと思った」

店内が静まり返った。


蓮のこめかみに青筋が浮かぶ。


トリスタンが盛大に吹き出した。

「ぶははははっ!!」

酒瓶を叩きながら笑っている。

「初対面でそれ言うか普通!?」


アーサーも少し困ったように苦笑した。

セシルは思わず目を逸らす。


マーリンはアイスを食べながら頷いた。

「確かに」


「お前は黙ってろ」

蓮が即座に返した。


エルメスは額を押さえる。

「ルイ」

「そういうことは本人の前で言わない」


「言っちゃった」


「今まさにね」

ルイは悪びれる様子もなく笑った。だが、その目は先ほどまでとは少し違う。

興味深そうに蓮を見ていた。

まるで珍しい商品でも観察するように。

「へぇ……」

ぽつりと呟く。

「面白いな」

蓮の眉がさらにひそめられた。

嫌な予感しかしなかった。

そして、その予感は大体当たる。

ルイは一歩前へ出る。

その顔には、先ほどマーリンへ向けていたのと同じ――

あの笑顔が浮かんでいた。

まっすぐな瞳で蓮を見つめる


「ねぇ蓮くん」


エルメスが小さく目を閉じる。

バーキンは静かにため息を吐いた。

オズは天井を見上げる。

そしてトリスタンが笑う。


「始まったのぅ」


ルイはずいっと顔を近付けた。


蓮が一歩下がる。

「近い」


「気にしない気にしない」


「いや気にする」

即答だった。


だがルイは全く気にしていない。

好奇心の塊みたいな瞳で蓮を見つめる。


「まず一つ聞いていい?」


「嫌です」


「聞くね!」


「聞くな」

会話が成立していなかった。


トリスタンが肩を震わせる。

「相性最悪じゃのう」


「いや案外いいかもしれませんよ」

アーサーがぽつりと呟く。


エルメスは何とも言えない顔をしていた。


そしてルイは最初の質問を投げる。

「蓮くんって何歳?」


「十七」


「若いね」


「見た目だけならお前もだろ」


「そうだね!」

ルイは笑顔で頷いた。

否定しない。そこは認めるらしい。

「じゃあ次」

矢継ぎ早だった。

「何で奴隷商人になったの?」


蓮は少しだけ考える。

そして短く答えた。

「成り行き」


「へぇ」

ルイが頷く。

「じゃあエルメスの弟子になったのは?」


「成り行き」


「鷲の里に行ったのは?」


「成り行き」


「夜叉と遭遇したのは?」


「成り行き」


「剣闘大会に関わったのは?」


「成り行き」


「聖剣騒動は?」


「成り行き」


ルイが黙った。

店内も静かになる。

数秒。誰も喋らない。


「……え?」

ルイが固まった。


蓮は首を傾げる。

「何です?」


「いや待って」

ルイが手を上げた。

「全部?」


「全部」


「全部成り行き?」


「全部成り行き」

ルイは本気で考え始めた。


トリスタンが吹き出す。

「ぶははははっ!!」

酒瓶を机に叩き付けそうな勢いだった。


アーサーも苦笑している。

「否定できませんね」


「だいたい成り行き」

マーリンまで頷いた。


「お前もその成り行きの一つだろ」

蓮が即座にツッコむ。


「そうだった」

マーリンは納得したように頷いた。何も解決していない。

ルイは腕を組む。そして真顔で蓮を見る。


「逆にすごくない?」


「何がです?」


「ここまで全部成り行きで生きてる人、初めて見た」

心底感心した顔だった。


蓮は嫌そうな顔をする。

褒められている気がしない。

「褒めてます?」


「褒めてる」


「嘘だ」


「本当だよ」

ルイは楽しそうに笑った。

その様子を見ていたエルメスが小さく肩を竦める。

「気にしない方がいいよ」


「気になります」


「そうだろうね」

即答だった。

するとルイがふと思い出したように言う。

「でも不思議だな」


「何がです?」


「成り行きで生きてるのに」

ルイは蓮を見ながら続ける。

「君、意外と周りに人が集まるよね」


その言葉に。

蓮は少しだけ黙った。

セシル。

マーリン。

アーサー。

ランスロット。

トリスタン。

そしてエルメス。

言われてみれば確かにそうだった。

だが本人に自覚はない。


「そうか?」


「そうだよ」

ルイはあっさり言った。

そして楽しそうに笑う。

「やっぱり面白いな、蓮くん」

蓮は心の底から思った。


――面倒な奴に気に入られた。

と。

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