第41話 穏やかな退却戦
視点はルイの周りに戻って、タイトル通りの退却戦です(`・ω・´)
あくまでも、王国軍の退却を受けてのことなので、自責退却ではありませんが。
ただ、ジェイルとかキースとかは大丈夫なのでしょうか。
「――ルナーク君?」
ルイが思わずその名前を口にすると、ウィルが言った。
「ルイにも聞こえたか?」
次いで、アルトとセルヴァもうなずいた。
「オレにも聞こえるよ。」
「僕にも――どうやら、高等魔法の支配領域を介した念話、ってところかな。」
――さて、エテルナ冒険者ギルドのみなさん。――
――こちらには聞こえませんが、聞こえているでしょうか。――
――単刀直入に申し上げます。――
――現時点で全ての戦闘行動を放棄、可能な限り速やかに本陣まで撤退を。――
――ただし、後列は前列との合流を待って退くように。――
ルイたちは、互いに顔を見合わせた。
そして、最低限度の荷物と、残してはならないであろう品物を確認し始めた。
――本来、継続的な幻覚や、昏倒をもたらす魔法ですが。――
――展開している全員を覆うとなると、多少ふらつかせる程度でしょう。――
――間違っても、この機に乗じて討伐しようなどと思わぬよう。――
――猶予はそれほどありません。――
――さっさと、本陣まで尻尾を巻いて逃げてきてくださいね。――
確認が終わると、ルイたちは互いにうなずき合った。
そして、前方でふらつき、足取りがおぼつかない小鬼たちに背を向けて、本陣へと走り始めた。
ルイたちは走り続けた。
やがて、森の中を舞う桃色の花弁は緩やかに消失していった。
こうして、イースの大森林は、元の姿を取り戻した。
その少し後で、ルイたちは第二陣の冒険者たちと合流した。
彼らの撤退準備はすでに整っており、ただ、うなずき合った。
そして、肩を並べて、本陣に向けて走った。
走りながら、ルイは少しだけ後方に目をやった。
小鬼たちが追いかけてくる様子は、見られなかった。
すると、再び森の中に、消えたはずの桃色の花弁が舞った。
もっとも、花弁が舞い続ける時間は、数分にも満たなかったのだが。
「――?どういうこと?」
走りながら、ルイが首を傾げると、セルヴァが苦笑した。
「いやらしいね。――あえて分割することで、追撃を躊躇させるってわけだ。」
「――そっか、何回使えるか、小鬼側にはわからない。」
ルイがそう答えると、セルヴァがうなずいた。
「そういうこと。――たとえふらつく程度でも、戦闘中なら致命的。――そして、小鬼側が統率されていればいるほど、駆け引きが成立する。」
「なるほどね。」
ルイは相槌を打った。
それ以降、ルイは振り返ることなく走り続けた。
* * * * *
ルイたちが戻ってきた頃には、本陣の天幕はすでに畳まれていた。
そして、本陣に残っていた冒険者たちはすでに隊列をなしていた。
「――全員、戻ってきたようだね。」
リックがルイたちの姿を確認してうなずいた。
「ボクたちが最後だったのかな?」
ルイがそう言うと、ルナークが代わりに答えた。
「ええ。――おかえりなさい。どうやら、重傷者はいないようですね。」
ルナークは、ルイたちヒューズ指揮下の面々を一瞥して微笑した。
「アルト!」
「マリウス!?どうしてお前が?」
声を上げたマリウスに、アルトは驚いた様子で応えた。
すると、ルナークがすぐに言った。
「マリウスさんは王国軍第三部隊の伝令です。――詳細は不明ですが、一定以上の損害を受けた結果、退却中とのこと。」
その言葉に戸惑うアルトに、リックは言った。
「アルトさん。僕たちは、エテルナ冒険者ギルドとして退却しますからね。」
「――っ、わかった。」
アルトが言葉を飲み込んでうなずくと、ルナークが肩をすくめた。
「ご存じだと思いますが、退却戦は最も犠牲が出る局面。――勝手な行動は決して許しません。」
「……わかってるよ。」
抑え気味の声でアルトが答えると、セルヴァが辺りを見回して言った。
「――?三名いないんじゃないかな?」
「リオさん、エルクさん、ディーンさんなら、王国軍の第一部隊への伝令で走ってもらってるんだよ。」
リックがそう言うと、セルヴァがうなずいた。
「なるほどね。――それにしても、やたらと手際がいいね。」
「あれ?珍しく察しが悪いね?――最初から、積極的に攻めてなかっただろ?」
微笑するリックに、ルイが言った。
「え?最初から逃げるつもりだったの?」
「人聞きが悪いな。冒険者ギルドとして、王国軍よりも前のめりにならないように弁えていただけさ。――退却なんて、選ばずにすむなら、選ぶわけがないよ。」
手を叩く音が響いた。
そして、ルナークが言った。
「そういう雑談は、後回しにしましょうか。命あっての物種ですから。」
ルイたちはうなずいた。
それから、指示通りに隊列に加わり、これまで拓いてきた道を整然と歩き始めた。
エテルナ冒険者ギルドの冒険者たちは、周囲を警戒しつつ、足早に退却を進めた。
そして、結果的には、肩透かしを食らう形となった。
小鬼たちによる、側面からの襲撃もなければ、後方からの追撃もなかった。
その途中で、リックが苦笑した。
「ルナークの二発目が効いてるのかな?」
「それはわからないよ。――ただ、向こうの指揮官が優秀なら、掃討戦への移行を躊躇ってくれる期待はしていたけどね。」
ルナークがそう言うと、リックは肩をすくめた。
「敵に回したくないよなぁ。――このまま無事に帰って、報告書で弁解でもさせてもらいたいね。」
報告書で弁解(ーー;)
基本的に、恐らく死者ゼロで退却なんて、奇跡的だと全員わかっていますが。
それでも、形式的には退却は退却、負けは負けなんですよね。




