表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/25

2-5

 マンションの部屋に段ボールを運び込む。荷物の数が少ないということで、茜に車を出してもらい。自分で引っ越し作業をすることにした。

 大きなワゴンの車で、荷室の大きさもそれなりの車だったが、結局段ボールにしても大したスペースは必要にならなかった。

 冷蔵庫などは新たに買うつもりで、元のものはリサイクルショップに引き取ってもらった。

 その際に不必要なものも回収してもらったので、荷物が極端にすくないというのもある。

 

 

 俊太郎が茜に感謝を述べると、茜は車を返しに行ってしまった。

 

 段ボールを開け、荷ほどきをしていく。

 とりあえずないと困るものだけ開けていくが、大した数もなかったため、すぐに終わってしまった。つい手持ち無沙汰になり、周囲を見渡す。

 

 リビングはそこそこ広い。ここだけでもアパートの一部屋よりも大きいのだった。さらにキッチンがあり、寝室用の部屋が二部屋だった。

 大学生の一人暮らしにしては贅沢な代物ように思えるが、一部屋の家賃で計算するとかなり安い。

 八部屋分借りているため、全部屋の管理が必要である。換気や掃除を定期的に行わなければならない。

 

 軽い掃除を行っていると、呼び鈴がなった。荷物があまりないせいか音が大きく響くような気がした。


 扉を開けると日菜子がいた。

 朝から引っ越し業者に頼んでいたようで、俊太郎よりも先にこちらに来ていたらしい。

 

「お疲れ様。こっちもようやくひと段落したところ」


 日菜子と惠が住む部屋は二階にあり、ちょうど俊太郎の部屋の一つ上の階だ。


 その日はこちらの荷物整理で疲れたため、さすがに迷宮にいくことは無かった。

 夜になると三人で外食に出ることになった。

 一人だったら確実にコンビニなどで済ましていただろうが、こうして会話をしながら賑やかに過ごすことも増えるのかもしれない。

 

「それにしても良かったのかな。思い出の家でもあるんだろう?」


 日菜子たちが暮らしていた家は、日菜子の兄で惠の父である智成が残していくれた家だ。


「二人でちゃんと相談したもの」


 食事をしながら聞くと惠も頷いていた。

 

「それに少し管理が大変だったし、あんまりこだわっていても仕方ないと思って」


 そういう日菜子は少し寂しそうではあった。惠は案外ケロっていていて、こういうことを気にするのは大人だけなのだろうかと俊太郎は思った。

 

 

 

「中々見つからないな」


『この前の発見はかなり運が良かったというだけです』


 新谷が深玉を浮かべて、ひとりごちると『声』が帰ってきた。

 今深玉を通して、こちらを窺っている深界人はマナマス一人だけである。

 

 以前の新谷は活動者として多くの深界人に人気のある探索者だった。

 最近ではこうしてマナマス一人に向かって話しかけることが多くなった。

 

 現在建石の三階層に新谷はいた。以前見つかった『淀み』を探している。

 他にも淀みが出来ていないか確認するのは探索者の役目であるが、こうして探し回っているのには訳があった。

 

『そう焦らなくてもいいでしょう。それに一つあるというだけで強力なカードにはなり得ます』


 暢気なことを言う相方に、思わずため息が出てしまう。

 

「いつ大きな事態になるか分からない。向こうからの情報では確実に準備されているという話だし、急がないと」


 新谷には焦りがあった。

 

 戦争が始まってから、そろそろ半年がたつ。

 八〇年前、大きな戦争がはじまりかけたとき、侵攻が始まった半年後に魔物の大暴走が起きた。

 世界各地の迷宮で魔物があふれ、戦争を引き起こそうとした各国はそれの対応に追われた。

 

 それを引き起こしたのは日本の探索者だったという。

 

「八〇年前の彼も、こんな気持ちだったのだろうか」


『……』




 紫雨や惠の夏休みが始まった。

 あれから彩花が俊太郎が管理する一室に彩花と茜が引っ越してきた。

 彼女らはそれぞれ一部屋ずつ借りているが、茜は彩花の食事や面倒を見ているために、ほとんど部屋を使用していないらしかった。

 彩花は一階の三号室で茜は隣の四号室だ。

 

 二号室は、皆で集まるときに使用するための共同部屋にした。

 紫雨は未だに母親と相談しているところだ。

 母親の綾子も含めて一緒に暮らすことはできるだろうが、綾子に引っ越す意思はないようだった。

 むしろ一人で紫雨に出て行っても良いと言っているくらいである。

 

 紫雨の部屋ももちろんある。すでにいくつかの荷物は置いてあり、時折こちらに来ては部屋の管理をしてくれている。

 

 夏休みが始まってからは、こちらに泊まったりすることもあるようで、この間は惠と日菜子と三人で遊びに行っていたくらいだ。

 

 

 最近も迷宮には行っているが、三段階の十層以降には進めていない。

 装備を更新したり、引っ越しで慌ただしかったりと、行っても七層あたりで、ちょこちょこと稼いでいるだけである。

 

 

 この間の十層の稼ぎが良かったのもあるが、少しペースを緩めることにした。特に十層の階層主であるドールマスター戦は中々厳しい戦いを強いられた。

 怪我をしたメンバーはいなかったが、もう少し余裕をもって戦いたいところである。

 怪我をしなかったとは言っても、ギリギリのところだったように思えたからだ。

 

 

 

 最近俊太郎はソロで迷宮に行くことが増えた。

 組合に預けていた剣を受け取り、迷宮のある建物まで向かう。

 

 以前来たのは紫雨と買い物に来た時である。京嶋というこの場所は、駅も複数線が通っている割りに、大きな建物が少なく下町の雰囲気がいまだに残されていた。

 

 一つ細まった道に入ると、途端に静かになる。

 慌ただしい車や人通りから離れ、古びた建物や新築の家が混在しているこの場所は、すでに迷宮のなかにいるかのように思えた。

 

 古びた引き戸を開けると、何十年も前からタイムスリップしてきたかのような古い玄関に迎えられた。

 ちょうど居間にあたる場所が、迷宮の入り口になっている。

 板張りの床が軋む音がする。居間の扉の前には長い廊下が左右に通っていた。

 奥に曲がった先に更に部屋があるようだった。この家の中が迷宮の中のだと言われても納得してしまうくらい、独特な雰囲気がそこにはあった。

 

 

 俊太郎が迷宮に入ると、そこは石畳だった。

 周囲は竹藪で包まれ、まるで日本の田舎にある風景のようにも見えた。

 

 出現する魔物まで、一風変わった様相なのである。

 一層に現れたのは小鬼。まるでゴブリンに似た姿だが、額に二本の角が生え手にはこん棒を持っていた。

 

 傍らには火の精霊にも似た魔物がふわふわと宙に浮いている。こちらは鬼火というらしい。

 日本の妖怪の姿をした魔物がこの迷宮では出現するのである。

 

 

 剣を握りしめる。迷宮で運よく手に入れることが出来たその剣は『魔力を帯びたブロードソード』という。

 ストアで検索してみると『魔力を帯びた』という文言のつく装備は他にもそれなりにあった。

 しかし、安い物でも五十万は下らない価値のものばかり。俊太郎も売ってしまおうかと悩んだほどだが、結局自分で使うことにした。

 

 能力としては剣に魔法ダメージを追加で与えることが可能になること、さらに自らの魔法影響力によって武器自体のダメージも上昇するということだ。

 

 剣士という職業に魔法影響力は関与しない。あっても意味のないステータスのため、装備などで上昇させている人は少ないだろう。

 俊太郎は元々が魔法使いのために、その装備を流用している。盾でさえ魔法影響力が上昇する物を使用していたため、剣士用の防具も揃えようかと思っていたところだった。

 

 しかし、このブロードソードがあるなら話は別だ。

 魔法影響力がどれだけこのブロードソードの攻撃力を上昇させるのかはわらかないが、三段階の低層ではさくさくと倒すことが出来た。

 

 

 小鬼という魔物を、ブロードソードで切り付ける。

 魔法使いの時なら魔力を感じられたが、剣士ではいまいちわからない。

 もやのような何かが、切り付けると同時に小鬼を襲う。

 ダメージが二重にあるようで、そのどちらの攻撃でも魔法影響力が関与するらしい。

 

 鬼火がこちらに襲いかかってくる。

 盾で防御するが、完全には防ぎきれなかったのかダメージを負ったような感覚が残った。

 

 さっと切り付けると鬼火も、真っ二つに切り裂かれ消滅してしまった。

 

 やはりソロだと難しい。防御は出来るが、魔法などの攻撃は完全には防ぎきれない。

 そういった対策も必要なのかもしれない。

 

 剣士のまま、保護魔法を使う。剣士ではあまり魔法を使いたくはなかった。

 魔法使いとは違って、魔力値が極端に少ないからである。

 それに魔法の威力も当然下がっているので効率が悪かった。

 

 再び小鬼を見つける。今度は小鬼が二体で他にはいない。

 牙を見せながらこちらを威嚇してくる。俊太郎はお構いなしに小鬼を切りつけた。

 やはり武器が強いのか、一撃である。

 もう一方の小鬼が怒り、こん棒を振り回す。保護魔法で軽減された攻撃は難なく防ぐことが出来た。

 

「マジックドレイン」


 俊太郎は小鬼に向かって魔法を使う。これは魔力を吸い取る効果がある。魔法というよりも、剣士のスキルのように『活力』というもの消費して発動することが出来る。

 剣士にはこの『活力』が豊富にあった。

 

 小鬼は気にせずこちらに向かってくる。魔力は多少回復したが、それだけだ。相手にダメージを与えるわけではない。相手が魔法を使ってくる相手なら意味があるかもしれないが、小鬼はこん棒を振り回すだけだった。

 

 

 俊太郎はそれから二層に向かった。

 石畳の道をするむと小さな階段があって、そこが階層の切り替わりのようだった。

 二層を進むと、途中で石畳が途切れ砂利道へと変わった。

 竹藪の中に小川があって、ところどころに橋がかけられている。小さな橋は見事なアーチ状の形になっていて、深い緑に囲まれた世界に突然浮き出るような朱色が、目立っている。

 

 ざぶりと川から何かが飛び出てきた。それほど深いようには見えなかったが、小鬼と同じくらいの背丈かそれよりも大きいなにかだった。

 明らかに魔物で頭がまあるく禿げているように見えた。

 俊太郎はこいつが河童かと納得する。

 二体の河童がこちらを狙っていた。

 

 河童は手に短刀を持っていた。それを握りしめこちらを襲い掛かってくる。

 一体はまだ後ろにいて、こちらの様子を窺っていた。

 

 河童の攻撃を『パリィ』した。盾ではじくようにすると、河童は隙だらけになった。

 そこを連続でスキルを使う。カウンターが発動し、スキルである『スラッシュ』で河童を切りつけると、河童は吹き飛び倒れた。

 

 もう一体の方へを身体を向けると、河童は口の中から何かを噴き出そうとしているところだった。

 思わず走り出し、河童の攻撃を避ける。

 噴き出たのは激しい水流だった。どこからそれほどの勢いを噴き出しているのかと思う程の圧力がありそうだった。

 

 河童の特殊な魔法や何かなのだろうが、案外油断できないと気を引き締める。

 

 しかし河童はそれ以降、握りしめた短刀で突っ込んでくるだけだった。

 さっと倒してしまうと先に進むことにした。

 

 

『武器強すぎて笑う』

『四人で頑張った結果だ』

『やっぱ迷宮ってこうだよな』

『シュンタロ格好いいよ』



 三層にたどり着くと、一本足の唐笠がぴょんぴょん飛び跳ねている。『唐笠小僧』というその魔物は傍らにいる鬼火と共にこちらに襲いかかってきた。

 

 唐笠小僧がくるりと回ると、傘が開く。開いた傘の中から何かが飛び出し盾で弾いた。

 

 唐笠小僧はケタケタとあざ笑うように飛び跳ねていた。

 

 俊太郎はまず鬼火を処理することにした。鬼火は魔法ダメージなようで、盾で防いだところでダメージを負うので厄介なのだ。

 二体の鬼火がいる。同時に攻撃が出来たらいいのにと考える。頭に浮かんだスキルがあった。

 

「薙ぎ払い」

 

 身体をひねり、剣を横に振り回すと鬼火を同時に切りつけることができた。

 残すは傘の魔物が一体。

 唐笠小僧は飛び跳ね、一本足でこちらにけりつけようとしている。下駄の先からきらりと光る物が見えた。

 盾で防ぐ。保護魔法の効果があったとは思えないほど激しい勢いのまま突っ込み、俊太郎はダメージを負った。

 

 足の裏に小さな刃物でも隠していたのか、見た目に寄らず侮れない相手だった。

 俊太郎が剣で切り付ける。スラッシュを発動しスキルを放ったが、傘を開くとくるりと周り防御した。

 唐笠は防御したつもりのようだが、防御の上から魔法ダメージを負っているはずである。

 再び俊太郎が攻撃を放つ。縦と横に素早く切りつける『十字斬り』というスキルを使った。

 唐笠は再び防御しようとしたものの、傘の上から切りつけバラバラになって飛んでいく。

 唐笠小僧はちりちりと燃えるように消えていくのだった。

 

 

 四階層では再び河童と小鬼が出現した。数が多いだけで大して強さには変わりはなく、慎重に進んでいく俊太郎には対した障害にはならなかった。

 

 五層に到着し腕時計を覗き見る。

 昼過ぎから入って、まだ午後三時だった。一人で進んでいるにしては早い。

 五層の階層主に向かって進んでいくことにした。

 

 

 五層の階層主は『鬼』である。

 小鬼よりも身体がでかく、強力なのだ。調べても分かることはそれくらいで、弱点などの情報は少なかった。

 

 俊太郎はポーチに入っているアイテムカードを確認する。ポーションカードを一つとると、カードから現物に変換する。

 コルクのような蓋をとり、ごくりと飲み込んだ。量はそれほどではなく、よくある栄養ドリンクと変わらない。

 

 味は普通。苦いとかいうこともなく、ほんのりした甘味があるだけで特別美味いわけでもないが、飲めないというほどではない。

 

 

 竹藪の先を進むと、和風の門が現れた。大きな門は有名な神社や寺でしか見たことがないくらい立派なもので、少し恐ろしさすら感じるものだった。

 

 暗い門の中をくぐり抜け、その先には一体の魔物が待ち構えていた。

 

 着流し姿の鬼が、お面を被って突っ立っていた。

 能面のような顔のお面をかぶっている。頭にはお面で隠しきれていない角が二本突き出ているのが見えた。

 

 

 俊太郎が火属性付与と保護魔法を使用する。魔力用のポーションをゴクリと飲む。

 その間、鬼は変わらずじっとしていた。こちらを認識しているようで俊太郎のことを見つめているが、魔法を使用している間も動く気配は見せなかった。

 

 剣を握りしめ、鬼と対峙する。俊太郎が剣をそちらに向けると、腰に下げた刀をするりと取り出したのだった。

 

 じっと動かない様子だったが、時間をかけるわけにはいかない。

 俊太郎はふっと腰を落としスラッシュを放つ。

 

 鬼は後ろに下がりながら避ける。しかし俊太郎が振るった剣から魔力がほとばしり鬼に攻撃を与えた。

 切り付けることが出来たわけではないので大したダメージではないが、鬼は鬼は不思議そうにしていた。

 

 鬼の反撃。鋭い斬撃が俊太郎を襲うが、バックラーでいなしながら後ろに下がる。

 鬼の攻撃はそこそこ威力も高く、素早い。しかし防げないほどではなかった。

 

 それから何度か斬り合う。決定的なダメージにはならないが、徐々に蓄積されている。

 俊太郎も無傷という訳にはいかなかった。鬼の攻撃は素早くパリィのタイミングが掴みにくい。

 なんとか盾で防ぐも、防いだ上からでも俊太郎の体力は削られているのが分かった。

 

 刀を持った相手とは初めて戦ったと、今更ながらに俊太郎は思うのだった。

 

 しかも相手は片手で面を押さえている。その面になんの意味があるのか分からないが、今のうちだと思うことにして、俊太郎はスキルを使用した。

 

 鬼を十字に切りつける。活力がすっと抜けていくような感覚が俊太郎を襲う。

 まだ熟練度が足りていないのか、スキルの性能はあまりよくはない。

 しかし今の鬼には十分だったのか、もろに剣のダメージを食らっているようだった。

 

 面の奥から息を大きく吐く音が聞こえてくる。怒りに震えているのかと思ったが、面をくるりと変えた。

 白い顔だったお面が、翁のお面に変わった。

 

 鬼は静かに刀を振るう。刀の動きがより読めなくなった気がした。

 なんとか剣を合わせて打ち合うが、相手の刀はするりと抜けて俊太郎を切りつけるのだった。

 

 一度下がってポーションを飲む。

 鬼はゆっくりと近づいてくるも、なんとか飲み干すことが出来た。

 ポーションをが入っていた瓶を投げ捨てると、俊太郎は一気に突っ込んだ。

 

 まずはスラッシュ。動いていれば活力は回復する。スラッシュは基本のスキルで活力の回復効果もある。

 大技であるほど活力の消費も激しく、一度消費してしまえば再び活力が回復するのを待たねばならないのだ。

 

 大した攻撃も当てていなかったが、鬼が一度下がるとお面を投げ捨てた。

 それまで片手で構えていた刀を両手で握りしめる。

 鬼は牙をこちらに見せ、怒っているように見える。

 

 獣のような咆哮を天に向かって叫ぶ。

 それを聞いて、ぐっと身が縮むような感覚が俊太郎の身体を襲った。

 

 何らかの弱体効果が発動しているのだろうが、俊太郎にはどうすることも出来ない。

 鬼が突っ込んでくる。天高く振り上げられた刀がきらりと光った。

 

 鬼の攻撃にしては大ぶりだな、と俊太郎はのんきに考える。

 バックラーを合わせるように構えた。

 パリィを発動すると、盾がきらりと光った。上手く攻撃を跳ね返すことが出来た証拠でもある。

 

 態勢を崩した鬼は怒りの感情を顔に張り付かせている。

 俊太郎はカウンターを行い、スキルを発動した。

 

「パワースラッシュ」



 鬼は片膝をつく。

 ぐっぐっぐ、と口から低い音が漏れた。どうやら笑っているらしい。

 鬼は燃え盛るような炎に包まれると一瞬で消え去ってしまった。

 

 残されたのは俊太郎と、いくつかのカード。それと深界石だった。

 深界石を拾いポーチに詰める。

 カードの内容をみると、いくつかの装備と『魔法剣士』という職業カードがあった。

 

 上位職に転向せずに探していたのはこのカードだ。

 俊太郎は嬉しいというよりも、ようやくかという思いでいっぱいになるのだった。

 

 

 

「もう少し迷宮に行きませんか?」


 パーティーのメンバーが集められたのは、俊太郎たちが住むマンションの一〇二号室だった。

 

 最近ではみんなで持ち寄って家具も増えた。

 紫雨や惠が夏休みになって一週間ほどが経った。

 その間迷宮に行ったのは一度だけだ。

 そうして提案を口にしたのは紫雨である。 

 

「夏休みなら遊んでもいいんだよ」


「いえ、私は夏休みならなおのこと迷宮に行きたいです。せっかく時間があるのですから」


「宿題は終わったの?」


「はい」


 俊太郎はそうだろうな、と思ったが、日菜子には驚く情報だったらしく、口を開けていた。

 

「惠ちゃんはどうかな。一人になっちゃうと思うけど」


 日菜子に話を向ける。


「そうねえ。あの子も結構大人だし、長い時間家を空けないなら大丈夫だと思うけど」


「それなら茜さんもいますから、大丈夫だと思いますよ」


 話を聞いていた彩花が、そんなことを言う。後ろの茜に視線を移すと頷いているので、問題はないようだ。

 

 

「そんなに焦らずともゆっくり進んでいけばいいんじゃないのかな」


 俊太郎はなんとなく、そんなことを言った。

 

「先生、この前も一人で迷宮に行ってませんでしたか?」


 はっと紫雨の顔を見ると、少し責めるような顔つきをしている。

 他の女性陣を見ても、味方はいないようだと悟った。

 

 

 

 俊太郎たちが住むマンションは、建石の組合に歩いても行ける距離である。

 時折組合やゲームセンターの様子を見るも、新谷やマナマスの様子は確認できなかった。

 

 迷宮にいくことになって、ついでにと思いゲームセンターの様子を見たがやはり中に人の気配はなかった。

 新谷も最近は忙しくしているのか、迷宮にこもりっぱなしなのかもしれないとあきらめた。

 

 今回行く迷宮は前回行った精霊やリビングドールが待ち構えているあの館の迷宮である。

 

 まだ俊太郎は『魔法剣士』に転向してから時間が立っていない。

 剣士の熟練度も正直まだまだではあったが、ある程度のスキルは覚えたし、これ以上剣士にこだわっていてもキリがないと諦め、魔法剣士のカードを使用した。

 

 一度だけ簡易迷宮で確認したが、まともなスキルも覚えられていないのだ。

 

 

 俊太郎たちは、十層からではなく五層から確認するように進んでいくことにした。

 魔法剣士のスキルは覚えていなくとも、剣士のスキルや、魔法は使えるのだ。

 その上、魔法剣士に転向したおかげか、魔力の影響力も純粋な剣の攻撃力もかなり上がっているように感じた。

 魔法剣士になる探索者の数は少ない。なぜなら、純粋な魔法使いや剣士には能力として劣るのだ。

 上位の職にも関わらず、他の上位職に比べると一歩遅れていると言わざる得ない。

 しかし、俊太郎が求めてるのはそれこそ器用貧乏であることだった。

 パーティーの面々は少し尖った能力を有している。

 紫雨は攻撃能力が特化しているし、彩花は索敵能力が優れているが支援魔法はなぜか覚えられていない。

 日菜子はかなり万能な気がするが、それで言うと攻撃能力はあまり高くない。それらを補うような、立ち回りができればいいと俊太郎は考えていたのだった。

 

 最近では全員の能力も上昇している。

 日菜子は三体目の精霊を召喚できるようになった。彩花も新たな魔法を覚えることができた。

 紫雨に至っては上位職である『剣客』という上位職に転向することになった。

 

 剣客についての情報を漁ったが、あまり詳しいことは分からなかった。

 とにかく刀剣などを使用していると剣客という上位職になることが出来るという。

 紫雨が言うには、あまり派手なスキルはなく、基本的な動きや能力を上昇させるようなスキルが多いらしいのだが、それらの詳細も分かっていない。

 

 ともあれ、今までも強力だった紫雨は更に強化されたと言ってもいい。

 

 

 五層から進んでいき、十層のドールマスターにも再戦することになったが、大して手こずることなく進めてしまった。

 前回はドールマスターを倒す前に律儀に取り巻きのリビングドールを倒してしまっていた。

 倒してしまうとドールマスターを強化し、倒したリビングドールも起き上がってしまう。

 そうならないよう、一体のリビングドールを残してドールマスターを攻撃すると簡単に倒せてしまった。

 

『倒し方の問題もあるけど、強くなってるからな』

『正直、前回の戦闘は熱かった』

『まあ活動者でなければ、こんな攻略情報事前に調べておかなかったのが悪いという話でもある』


 なんだか『声』達が言い訳のように話しているが、俊太郎はそもそも気にしていなかった。

 実際もう少し調べておけばと思うところもあったが、調べた情報には書かれていなかったのだ。それは仕方のないことだった。

 それにいつまでも情報がある相手とばかり戦えるわけではない。

 これから四段階や五段階の迷宮に挑戦するようになれば、未知の魔物と戦うことも増えるだろう。

 その時にも戦えるようにするにはなるべく強くなり、スキルや装備で弱点を補いあうしかないのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ