第18話 取引履歴
第18話 取引履歴
数日後。
佐成署刑事第二課。
黒川の机の上に、一通の封筒が置かれた。
「証券会社からです」
庶務の職員がそう言って立ち去る。
黒川は封筒を手に取った。
「来たか」
すぐに桐山を呼ぶ。
「桐山」
「はい」
桐山は席を立ち、黒川の机へやって来た。
封が切られる。
中には取引履歴が綴じられていた。
黒川は最初のページを開く。
桐山も横から覗き込む。
「ログイン時刻……」
「会社サーバーへのアクセス直後ですね」
「ああ」
二人は黙って次のページをめくった。
「保有株売却」
桐山が読み上げる。
黒川は黙っている。
「保有していた株式を売却しています」
「一部か」
「……」
桐山はもう一度見る。
「全部です」
「全部?」
「はい」
保有株式は、すべて売却されていた。
さらにページをめくる。
「現金化完了」
「その次は」
桐山は目を細めた。
「信用取引です」
「信用?」
「レバレッジを設定しています」
黒川は資料を受け取った。
数字を見る。
「二十五倍」
思わず口に出た。
「全部か」
「はい」
「全部です」
部屋が静かになった。
黒川は腕を組む。
普通なら、
一部だけ試す。
様子を見る。
追加で買う。
そういうものだと思っていた。
しかし、この履歴には迷いがなかった。
桐山が続きを見た。
「買付先があります」
「どこだ」
「アメリカです」
「アメリカ?」
「森田が勤務する製薬会社の提携企業です」
黒川は眉をひそめた。
「関連企業か」
「はい」
「買付数量は」
桐山はしばらく数字を見つめた。
「……」
「どうした」
「全部です」
「全部?」
「現金化した資金を、そのまま投入しています」
「全部か」
「はい」
黒川は椅子にもたれた。
こんな取引は見たことがない。
勝つことを前提にした取引。
いや、
勝つことを疑っていない取引だった。
桐山は資料を閉じた。
「普通の投資家ではありません」
「そうだな」
「ですが」
「何だ」
「違法かどうかは、まだ分かりません」
黒川は頷いた。
「ああ」
「分かったのは事実だけだ」
「会社の極秘資料へアクセスした」
「その直後」
「保有株をすべて売却」
「さらにレバレッジを掛け」
「提携企業へ大量の資金を投入した」
黒川は封筒へ資料を戻した。
「続きを調べよう」
桐山も静かに頷いた。
「はい」




