第19話 売却
第19話 売却
数日後。
佐成署刑事第二課。
黒川の机の上には、証券会社から届いた追加資料が広げられていた。
「桐山」
「はい」
二人は並んで資料を確認する。
桐山が一枚目をめくる。
「買付後の取引履歴です」
「見せてくれ」
黒川は資料を受け取った。
時系列に並んだ数字を追う。
しばらく無言だった。
「売却しています」
桐山が言った。
「全部か」
「はい」
「一部ではありません」
「全部です」
黒川は時刻を見る。
しばらく黙った。
「この時刻……」
「どうしました」
「値動きを確認してくれ」
桐山は別資料を取り出した。
株価推移。
二つを並べる。
そして目を細めた。
「……」
「どうだ」
「ほぼ最高値です」
「偶然か」
「分かりません」
「しかし」
「かなり高い位置です」
黒川は腕を組んだ。
「利益確定か」
「そのように見えます」
「そうか」
黒川は頷いた。
「なら終わりだな」
「……」
桐山は次のページを見たまま動かなかった。
「どうした」
「違います!」
「終わっていません」
「何?」
「その直後です」
桐山は資料を黒川へ向けた。
「信用取引」
「またか」
「はい」
「レバレッジを掛けています」
「二十五倍」
黒川は数字を見た。
「また全部か」
「はい」
「全部です」
「買いか」
「違います」
「?」
「空売りです」
部屋の空気が止まった。
黒川は資料を見直した。
「空売り……」
「はい」
「利益確定後、そのまま空売りへ移っています」
「こんな取引……」
思わず口をついた。
「俺なら怖くてできん」
桐山も苦笑した。
「私もです」
二人はさらに資料を追った。
時刻。
価格。
数量。
すべてに迷いがない。
途中で様子を見ることもない。
追加購入もない。
撤退もない。
最初から最後まで一本の線だった。
黒川は再び株価推移を見た。
上昇。
そして下降。
何かが頭に引っ掛かった。
「……待て」
「どうしました」
「この値動き」
「はい」
「どこかで見た」
桐山も資料を見つめる。
「……」
黒川は静かに言った。
「AIショックか」
桐山は顔を上げた。
「確認します」
「ああ」
「時刻を照合しろ」
「はい」
桐山は資料を抱え、自席へ戻っていった。




