第12話 会社側の調査
第12話 会社側の調査
月曜日だった。
週の始まり。
製薬会社の本社ビルでは、いつも通りの朝が始まっていた。
出勤する社員たち。
エレベーターへ向かう人の流れ。
コーヒーを片手に歩く社員。
どこにでもある平日の朝だった。
法務部の会議室。
数人の社員が集まっていた。
机の上には資料が置かれている。
「アメリカ側から正式な照会が来ています」
一人が説明した。
画面には英語の資料が映し出されている。
「対象は例の糖尿病新薬です」
「理由は?」
「発表前の異常な取引です」
部屋の空気は重くはない。
ただ少し真面目だった。
こういう調査は珍しくない。
大企業であればなおさらだ。
「向こうは内部情報の流出を疑っている?」
「可能性の一つとしてです」
「AIショックの標的にされて、原因究明に躍起になってるんです」
「確証はないと?」
「はい」
担当者は頷いた。
「現時点では確認依頼です」
会議室の空気が少し緩む。
まだ疑惑の段階。
何かが起きたと決まったわけではない。
「情報管理部へ依頼してください」
「了解しました」
話はそこで終わった。
法務部としては事実確認が先だった。
推測より記録。
印象より証拠。
まずは調べる。
それだけである。
同じ頃。
情報管理部。
「調査依頼です」
担当者が資料を受け取った。
「対象期間は?」
「発表前一か月」
「長いな」
「仕方ない」
担当者は苦笑した。
パソコンを立ち上げる。
認証システム。
アクセスログ。
ファイルサーバー。
確認する項目は多い。
「対象フォルダは?」
「新薬関連資料一式」
「了解」
キーボードを叩く音が響く。
調査は地味な仕事だった。
派手さはない。
ただ記録を確認する。
数字を見る。
履歴を見る。
それだけだ。
昼過ぎ。
「進んでる?」
上司が声を掛けた。
「半分くらいです」
「何か出た?」
「1ヶ月分ですよ。アクセス数いくつあると思ってるんですか?」
「そうか」
上司は頷いた。
特に急かす様子もない。
事実確認には時間が必要だ。
急いでも結果は変わらない。
夕方。
担当者は大きく伸びをした。
「終わったか?」
「はい」
「思ったより早かったな」
「対象を絞ったので」
担当者は画面を確認する。
抜け漏れがないか。
集計ミスがないか。
最後の確認を行う。
問題はなかった。
「報告書にまとめます」
「頼む」
上司はそう言って席へ戻った。
外はすっかり暗くなっていた。
担当者は最後の文章を入力する。
確認。
保存。
印刷。
プリンターが静かに動き始めた。
数分後。
紙の束を手に取る。
ホチキスで留める。
表紙を確認する。
問題なし。
担当者は席を立った。
部長室のドアをノックする。
「失礼します」
「どうした?」
「調査報告書ができました」
部長は顔を上げた。
「ああ」
担当者は資料を差し出す。
部長はそれを受け取った。
「ありがとう」
「お先に失礼します」
「お疲れ様」
担当者は部屋を出た。
ドアが静かに閉まる。
部長は机の上の報告書を見る。
まだ開いていない。
今日はもう遅い。
明日確認すればいい。
結果は変わらない。
そう考えた。
部長は報告書を机の端へ置く。
部屋には静かな空調の音だけが響いていた。




