20 対人模擬戦
向き合う男女も同じようなメガネをかけている。つけている通信具も同じように見える。
それもそうか。同じ育成用ダンジョンですれ違ったのだ。
前衛は男、後衛は女。俺たちとは逆だ。
男はショートソードを持ち、女は杖を持っている。
相手も俺もほぼ同時に手を差し出す。簡易鑑定も同じ魔道具。
腕輪に出たジョブも俺たちと同じ【剣術師】と【魔術師】だった。今多さんによると、このジョブ二種で全体の四割を占めるという。偽装しようと思ったとき、選択するジョブは同じだったということか。
偽装に合わせた武器もまったく俺たちと一緒だ。でも、対人戦における戦略は同じだろうか?
「まったく同じ魔道具を持っているね」 通信具で水戸さんに話しかける。
「予想通り」 短い返事が返ってくる。
通信具は使えることは確認できた。
俺は右手にショートソードを構え、左手でマグナムを構える。相手は二人、六発で決める。もし長引けば、銃身があるので盾代わりにするつもりだ。
俺の左斜め前で水戸さんも杖に真ん中を持って構えている。その構え、とても【魔術師】には見えないよ。もう【剣術師】だよ。
まずは、様子を見る。相手も様子を見ている。
睨み合う時間は長くはなかった。
最初に動いたのは前衛の男だ。剣の構えが変わった。体が斜になって、剣先が斜め下を向いたのだ。
!?
この構え、少し違うが、まとった空気を感じたことがある。
まさか、男のジョブは【剣聖】か? 今多さんと同じ空間支配を感じる。間合いに入ったらヤバい。
ここで朝の稽古が役立つとは。
「男は【剣聖】かも」「私もそれ、感じた」
男は、瞬間、間合いを一気に詰め、前衛の水戸さんに切り込む。
速い。俺だったら切られていた……
水戸さんは、たぶん予想していたのだろう、ヒカリをまとった杖の先端で受け止める。男は切り返されるのを恐れて飛び退いた。
ジョブがわかると対策を立てやすくなるとは、こういうことか。
後衛の女は様子を見ていたが、男の攻撃に合わせてホーリーアローを撃ってくる。水戸さんはすかさずヒカリをまとった杖の末端で弾いた。男の攻撃を予想していたから奇襲も対応できたのだろう。
水戸さん、実戦も落ち着いていて、強い。
それにしてもホーリーアローを撃つなんて。女のジョブはなんだ? まさか【聖女】ではあるまい。そうそう滅多にないジョブだ。
俺も仕掛けてみる。男には《※愚図》を、女には《※愚挙》を、範囲をピンポイントに絞って最大出力で撃つ。
男の動きがスローになった。《※愚図》の影響下に入ったようだ。とっさに水戸さんが飛び込んでヒカリを帯びた杖で打つ。これで男は戦闘不能になった。
女は左右に、不自然に歩き、近くの空間からいきなりブラックラビット四羽が飛び出した。たぶん《※愚挙》の影響下に入っているのだろう。
「ホンモノ? 幻影? どっち?」 俺が聞くと、「ホンモノ!」と返ってきた。
ジョブは【調教師】か【召喚師】か、どっちかだ! それしか思い当たるジョブがない!
俺は左手でウサギに銃口を向け、トリガーを引く。六発撃ったら、四羽が床に平伏した。当たったのか? 生命保護がちゃんと仕事してくれたようで、ウサギくんも助かったけど、俺も助かったよ。
「調教系だったら、もう手駒はないだろうし、召喚系だったら」
通信具、水戸さんからだ。「きっとすぐには喚び出せないはず」
水戸さんがすかさず一気に間合いを詰める。俺もフォローで剣を構えてついて行く。
女は《※愚挙》のせいで杖で防御しきれず、光る杖に切られた。
女が戦闘不能になって、対人模擬戦は終わった。
水戸さんは飛び跳ねて喜ぶと思っていたが、そんなことはなかった。
落ち着いて歩いている水戸さんから通信具を通して、ちゃんと守ったよ、とささやくような声が聞こえた。
ぜっったい、なにか奢らせるつもりだな。俺は勘がいい。
ありがとう、助かったよ。それで、なにがいい? とつぶやく。
プリンかな。小さな声が魔道具から聞こえた。
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