第九十七話 選ぶ授業
二年目の授業が始まった。
一年目との一番大きな違いは、毎日同じ顔ぶれで授業を受けるわけではなくなったことだった。
朝の読み書きや計算など、七組全員で受ける授業はまだある。
けれど選択授業の時間になると、生徒たちはそれぞれ別の教室へ向かう。
「じゃあ、あとで」
セレナが廊下の途中で曲がる。
「どこ行くの?」
「行政と法」
「何するの?」
「だから今から習うのよ」
「あ、そっか」
その少し先ではノアも別方向へ向かった。
「ノアは?」
「魔道具」
「いいな」
「エイルも取ればよかったのに」
「取りたかった」
「じゃあ取ればよかっただろ」
「戦闘と同じ時間だった」
「なら仕方ない」
ノアはそのまま歩いていった。
エイルは少しだけ立ち止まった。
「行くぞ」
レオンに呼ばれる。
「うん」
今日は戦闘の授業だった。
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一年目の身体訓練では、走り方や姿勢、基本的な身体の使い方を学ぶ時間が多かった。
二年目の選択授業では、そこから少し内容が進む。
木剣。
盾。
槍。
素手。
教師が並べられた道具を指した。
「今年は、いくつかの武器に触れてもらう」
エイルが手を挙げる。
「全部使えるようになるんですか?」
「なりません」
すぐに答えが返ってきた。
「一年で全部使いこなせるなら、専門に訓練する人間は苦労しない」
何人かが笑う。
「目的は、自分に何が向いているか知ること。そして相手が違う武器を持っているとき、何が変わるのか知ることだ」
最初は木剣だった。
エイルには慣れている。
構える。
身体強化を使う。
前へ出る。
相手の木剣を受ける。
足を動かす。
以前なら、受けた直後に体勢が崩れることが多かった。
今は戻せる。
次の一撃にも間に合った。
「よし、交代」
教師の声で止まる。
「どうだった?」
レオンが聞いた。
「前より動けた」
「ああ」
「次、レオンとやる?」
「今は決められた相手とやれ」
「あとで?」
「あとでな」
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別の日。
エイルが向かったのは魔物に関する選択授業だった。
一年目の魔物学では、代表的な魔物の特徴や痕跡、危険を避けるための基本を学んだ。
二年目は、それをもう少し詳しく扱う。
教師が机にいくつかのものを並べた。
角。
毛皮。
乾燥させた植物。
小さな骨。
「魔物について知るというのは、戦い方を知ることだけではありません」
教師は角を持ち上げた。
「倒した後に何が使えるのか。何が売れるのか。逆に、扱うと危険なものは何か。そうしたことも含まれます」
エイルは角を見る。
「これ売れるんですか?」
「売れます」
「いくら?」
「状態と地域によります」
「どこに売るんですか?」
「それを扱う商人や工房ですね」
「誰でも買ってくれる?」
「いいえ」
エイルは少し考えた。
「じゃあ、持って帰っても売れないことがある?」
「あります」
「重いのに?」
「重いのに、です」
教室から笑い声が起きた。
エイルは角を見直した。
魔物を倒せば終わりだと思っていたわけではない。
けれど、その後のことを詳しく考えたこともなかった。
「食べられる魔物もいるんですか?」
今度は別の生徒が聞いた。
「います。ただし、知識なしに食べないでください」
「牙ネズミは?」
エイルが聞いた。
「おすすめはしません」
「まずい?」
「その質問は調理の先生にしてください」
また笑われた。
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カイは商業と会計の授業を取っていた。
ある日の昼休み。
六人で食事をしていると、カイが紙に何かを書いていた。
「何してるの?」
エイルが覗き込む。
「課題」
「飯食べながら?」
「今日までなんだよ」
「何の?」
紙には品物の名前と数字が並んでいた。
「三つの町から同じ品物を仕入れるとして、どこから買うのが一番いいか」
「一番安いところじゃないの?」
「俺も最初そう思った」
カイが一つを指す。
「ここが一番安い。でも遠い」
「うん」
「運ぶ金を入れたら、こっちの方が安くなる」
別の町を指す。
「でも大量に買うなら、また変わる」
「なんで?」
「だから説明すると長いって」
「教えて」
「今?」
「うん」
「飯食わせろ」
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ノアは魔道具の授業が始まってから、以前よりさらに道具を見る時間が増えた。
食堂でも、小さな照明用の魔道具をじっと見ている。
「それ、毎日あるよ」
エイルが言う。
「知ってる」
「何見てるの?」
「どうやって同じ明るさを保ってるのかなって」
「開ければ?」
ノアがエイルを見る。
「学校の備品だぞ」
「前は開けたそうにしてたじゃん」
「開けたいのと開けるのは違う」
「成長したね」
「最初から開けてない」
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セレナの机には、以前より文字の多い本が増えた。
エイルが一冊を開いてみる。
すぐ閉じた。
「何これ」
「土地の扱いについての規則」
「面白い?」
「面白いわよ」
「どこが?」
「同じ土地でも、誰が使うか、何に使うかで扱いが変わるところとか」
「難しい」
「まだ最初だからね」
セレナ自身も、分からないところには印をつけていた。
学校へ来る前から勉強していたセレナでも、知らないことはいくらでもあるらしい。
「エイルは何取ったの?」
「戦闘と魔物と魔術」
「三つ?」
「あと一つ」
「何?」
「商業」
セレナが少し意外そうな顔をした。
「どうして?」
「カイがやってた問題が面白そうだったから」
「それだけ?」
「うん」
「あなたらしいわね」
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ミナは文書や記録を扱う授業を選んでいた。
最初の課題は、長い文章を短くまとめることだった。
エイルが答案を見せてもらう。
「短い」
「短くする課題だから」
「俺だったらもっと書く」
「エイルは聞かれてないことまで書きそう」
「ちゃんと書くよ」
「じゃあこれまとめてみる?」
渡された文章を見る。
エイルは読み始めた。
しばらくして。
「長い」
「だからまとめるの」
「どこまで消していいの?」
「必要なところを残す」
「全部必要そう」
ミナが笑った。
「それを考える授業なんだよ」
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二年目になって、六人が一緒にいる時間は少し減った。
同じ教室で受ける授業もある。
別々に学ぶ時間もある。
けれど昼になれば、いつの間にか同じ卓に集まっていた。
「今日、槍使った」
エイルが言う。
「どうだった?」
カイが聞く。
「難しい。でも遠くまで届く」
「当たり前じゃない?」
「使うと違うんだよ」
ノアが話し始める。
「今日、魔力を通す板を加工した」
「動いた?」
「まだ板だけ」
セレナは行政の授業で習った話をする。
カイは商業の課題について愚痴を言う。
ミナは提出する文章を直している。
レオンは食べながら聞いていた。
一年前には、全員ほとんど同じものを知らなかった。
今は少しずつ、知っていることが違ってきていた。
「午後何だっけ?」
エイルが聞く。
カイが呆れた顔をする。
「自分の時間割くらい覚えろよ」
エイルは鞄から紙を取り出した。
「……商業だ」
「俺と一緒じゃん」
「じゃあカイについていけばいいね」
「覚える気ないだろ」
二人は食事を急いで片づけた。
二年目の日々は、そんなふうに始まっていった。




