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THE GUILD  作者: axe
第二章 学びの街
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第九十四話 帰郷


学校を出てから、十三日目の夕方。


馬車の窓から見える景色が、少しずつ見覚えのあるものに変わってきた。


大きな街道は細くなり、建物も減った。


代わりに畑や林が増えていく。


エイルは何度も窓の外を見た。


「もうすぐ?」


御者に聞く。


「まだだよ」


しばらくして、また聞く。


「もうすぐ?」


「さっきよりはな」


さらにしばらくして。


「もう――」


「着いたら教えてやる」


「はい」


エイルは座り直した。


学校へ向かったときにも通った道だった。


けれど、そのときとは少し違って見える。


道の脇に残った車輪の跡。


畑へ引かれた水路。


森へ続く細い道。


以前なら何も考えずに見ていたものが、授業で習ったことと結びつくことがあった。


それでも、村が近づいてくるにつれて、そんなことより知っている景色を探す方が忙しくなった。


「あ」


エイルが身を乗り出した。


遠くに見覚えのある森が見える。


その向こうには低い山。


「ここ知ってる」


「そりゃよかった」


御者が笑った。


そこからは長かった。


知っている場所が見えているのに、なかなか着かない。


ようやく村へ続く道へ入った頃には、日がかなり傾いていた。


最初に見えたのは畑だった。


次に家。


家。


小さな納屋。


村の中央へ続く道。


「着いたぞ」


馬車が止まるより先に、エイルは荷物を持った。


「まだ降りるな」


「はい」


完全に止まる。


エイルは飛び降りた。


「ありがとうございました!」


「忘れ物するなよ」


「ないです!」


少し走ってから、エイルは止まった。


戻ってきて馬車の中を覗く。


「……ないです!」


「確認してなかったのか」


---


村は変わっていなかった。


少なくとも、エイルにはそう見えた。


歩いていると、畑から戻ってきた男がこちらを見る。


少し間があった。


「エイルか?」


「うん!」


「帰ってきたのか!」


その声で、近くにいた人も振り向いた。


「本当だ」


「大きくなったんじゃないか?」


「そう?」


エイルは自分を見る。


毎日見ているので分からない。


「学校はどうだ?」


「楽しいよ」


「魔術は?」


「やってる」


「都会の飯はうまいか?」


「食堂の肉はおいしい」


「そこかよ」


笑われた。


何人かに捕まりそうになったので、エイルは荷物を持ち直した。


「父さんのところ行ってくる!」


「おう。あとで話聞かせろ」


「うん!」


走る。


身体強化は使わなかった。


使わなくても、学校へ行く前より足が速くなっている気がした。


---


家が見えた。


エイルは速度を上げた。


「父さん!」


家の前にいたトーマが振り向いた。


しばらくエイルを見る。


「おう」


それだけだった。


「帰ってきた!」


「見れば分かる」


エイルはトーマの前まで走った。


「久しぶり」


「ああ」


「元気だった?」


「見れば分かる」


「そればっかり」


トーマが笑った。


そして、エイルの頭に手を置く。


以前より、その手が少し低い位置にあるように感じた。


「おかえり」


「ただいま」


ようやく帰ってきた気がした。


---


家へ入ると、エイルは荷物を置いた。


懐かしい。


机も椅子も棚も変わっていない。


「腹減ってるか?」


「減ってる」


「だろうな」


「なんで分かるの?」


「お前だからだ」


夕食の準備を手伝いながら、エイルは学校の話をした。


最初は何から話せばいいか迷った。


「生徒が三百十二人いた」


「手紙に書いてたな」


「カイっていう同じ部屋のやつがいて」


「それも書いてた」


「セレナとレオンとノアとミナもいて」


「何人いるんだ」


「いっぱい」


魔術の授業のことも話した。


設計と形成と発動。


自分は形成が得意だったこと。


術式を読むのはセレナの方が得意なこと。


レオンにはまだ訓練で勝てないこと。


ノアは魔道具が好きで、カイの家は店をやっていること。


話しているうちに、どんどん出てくる。


トーマは料理をしながら聞いていた。


「それで、森にも行った」


トーマの手が少し止まった。


「手紙にあった訓練か」


「うん」


エイルも少しだけ話す速度が落ちた。


「最後の訓練で事故があった」


「聞いてる」


「ミナが怪我した」


「ああ」


「牙ネズミに噛まれた」


トーマは何も言わず、続きを待った。


「俺、止めようとしたんだけど、止められなかった」


「そうか」


「先生が倒した」


「ミナって子は?」


「もう大丈夫。腕も動くよ」


「ならよかった」


「うん」


エイルは少し考えてから言った。


「俺、もっと強くなる」


トーマがエイルを見る。


「そうか」


「レオンにもまだ勝てないし」


「そっちもか」


「うん」


「じゃあ、ちゃんと習え」


「習ってるよ」


「なら続けろ」


「うん」


それで話は終わった。


トーマは鍋を見る。


「できたぞ」


エイルはすぐに椅子へ座った。


---


一口食べる。


エイルの手が止まった。


トーマが見る。


「どうした」


「これ」


「なんだ」


「家の味だ」


「家で作ってるからな」


「やっぱり違う」


「学校の飯よりまずいか?」


「違う。おいしい」


「なら食え」


エイルは食べた。


学校の食堂には、家では出ない料理がたくさんある。


肉も多い。


パンも種類がある。


それでも、ずっと食べてきた味は別だった。


「父さん」


「なんだ」


「おかわり」


「早いな」


---


翌朝。


エイルはいつもの時間より早く目が覚めた。


天井を見る。


一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。


隣のベッドからカイの寝息が聞こえない。


そこで思い出した。


「家だ」


起きる。


外へ出ると、朝の村の空気が冷たかった。


畑へ向かう人がいる。


家畜の声がする。


遠くから誰かが薪を割る音も聞こえた。


「エイル」


振り返るとトーマがいた。


「起きたなら手伝え」


「うん」


渡された道具を持つ。


学校では授業の時間が決まっている。


鐘が鳴る。


教室へ行く。


教師が来る。


ここでは違う。


朝になれば仕事が始まる。


エイルは父について歩いた。


途中、道の脇に小さな跡を見つけた。


足を止める。


「どうした?」


「足跡」


トーマも見る。


「何のだ?」


エイルはしゃがんだ。


学校の魔物学で似たものを見た気がする。


形を見る。


大きさを見る。


周囲も見る。


「……分からない」


「分からんのか」


「似てるのは知ってる。でもこれだけじゃ分からない」


「そうか」


トーマはそれ以上気にせず歩き始めた。


エイルも立ち上がる。


少し進んでから、もう一度だけ振り返った。


そして父を追った。


久しぶりの村での生活が始まった。


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